★ TWO DOGS?!。 ★
〜犬がきました 07 前編〜

「困ったわ」
 あまり困っていなさそうな声でのんびりと呟く少女の…おそらくはその上に「美」をつけても過言ではない、見目麗しい少女の横で溜息が聞こえた。
「ち、違うのよ! ちゃんと下調べはしたんだから!」
「一人で行けると言った、お前を信用した俺が浅はかだった」
「コーザ……!」
「大丈夫だ」
 懐からサングラスを取り出し、コーザと呼ばれた青年は辺りを見渡す。
「誰もいない。ところでビビ、その地図なんだが―――逆さまじゃないか?」
「………」
 きょとんとしたビビは、慌てて手元を確認し、
「…あら」
 コーザはあんまりにおっとりしたお嬢様の声色に溜息をついた。
 そのまま携帯を取り出し、迎えを頼んだのである。


***


「カヤちゃんのイトコ?」
 ふがふがと大漁の鯛焼きを口に咥えながら身振り手振りで会話に参加しようとするルフィを押しのけて、サンジは頬杖ついたままウソップを見やった。
「ってことは―――結構いいトコのお嬢様とか?」
「いいとこもなにも」
 ふうと溜息をついて、ウソップは頭を掻いた。
「ネフェルタリ財閥って知ってるか?」
「あの紙オムツから高級ブランドまで、のネフェルタリか!?」
「そうボールペンから航空会社まで、のネフェルタリだ。ちなみに、そこのお嬢さんはビビって言って、ネフェルタリ家の一人娘。根っからの御令嬢だ」
「…なんでそんなお嬢様がこんな自由っつったら聞こえのいい普通の大学に来るわけよ?」
「お嬢様―――ビビはな」
 諦め切ったような、悟り切ったような笑顔でウソップは言った。
「冒険心が強いんだ!」
「ふごー!」
 冒険という言葉に心踊ったのか、鯛焼きを含んだまま、頬袋のように顔を膨らませてルフィが両手をあげる。
「ぶほっ!」
「あ、アンコ飛ばすんじゃねえっ! ルフィ!」
「責任者出てこ―――いッ!」
 自慢の金髪にアンコの襲撃を受け、一瞬茫然としたサンジも次の瞬間立ちあがり、ルフィの首を絞めながら叫んだ。
「エース! あの野郎、どこ行った! 面倒みとけ、このクソサル!」
「エースなら今ごろチベットよ」
「んナミすわぁん!」
 唐突にサンジが両手をあげると、ルフィが落下したがサンジの知るところではない。
 それよりも麗しのレディとのお話しが最優先事項であり、それにひとつ、ナミの話した内容に引っかかるところがある。
「…で、チベットってなんです?」
 ナミはバッグを机に置いて、椅子と机の間に身体を滑り込ませるようにして座る。
 いちいち動作まで優雅だとサンジが絶賛してやまないほど、ごく自然にそれをやってのけたナミは溜息と共に言葉を吐き出した。
「知らない。三日前に旅行雑誌見てたから、またどこか行くのって聞いたら、わたしの顔をじーっと見て……エースったらなんていったと思う? 突然『そうだ、チベットだ! ナミちゃん、ありがとう!』よ。私の顔ってそんなにチベットを彷彿させるかしら」
「帰国してきやがったら一緒に逆さ吊りにしてやりましょう!」
「嬉しいけど遠慮するわ。エースにはたんまり貸しを作っておかないと」
 あとで一気に爆発させるのよ、と笑うナミは魔女のようで、ウソップは顔色を失い、サンジはそんなナミさんも素敵だと相好を崩し、ルフィは、
「でもエース、ナミのこと大好きだから、なんでもいうこと聞くと思うぞ?」
 と小さく首を傾げるのだった。
 そこで歯軋りするのはサンジである。エースがライバルだとしても負ける気はしないが、相手は底の知れない強敵だ。ある種のギャンブラーであるエースと、万年貧乏から脱出できないでいるサンジ、果たしてナミがどちらを選んでくれるか(選ばれるかどうかすらも疑問が残るが)とにかく油断はできない。なにせ、現在麗しのナミさんの彼氏疑惑が浮上中のルフィの実兄である。
(兄弟で俺の前に立ちはだかるとはいい度胸だ…!)
 メラメラとラブコックな闘志を燃やしている横で電子音が響く。
「あ、電話」
 着信表示の相手番号を見て、微かに目を見開いたウソップは、
「噂をすれば、だ! …もしもし、コーザか?」
「長っ鼻の素敵な彼女の従妹ちゃんかァ、さぞかし可愛いんだろうなあ」
「ビビは可愛いわよ?」
 ナミは爪の手入れをしながら答え、ルフィとサンジは顔を見合わせる。
「ナミ、会ったことあんのか?」
「まァね。カヤは私の友達だし―――そっか、ルフィもサンジくんも逢ったことないのね。
 可愛いけど、手ェ出そうとしたら噛み付かれるわよ、オオカミに」
「お、オオカミ?」
 その単語はサンジにとっては影響力が大きい。
 病的なほどのアニマルフェチだからもあるが、なにより…サンジの家の「犬」は狼犬なのである。
「そういえば、ちょっとゾロに似てるかも」
 思い出したようにナミが少し笑って、サンジが思いきり心拍数を早めて「へあ?!」と仰け反ったとき、ようやくウソップの電話が終了したらしい。
「ビビなんだけど、迷ったらしい」
 悟り切った声でウソップはつぶやき、ちょっと迎えに行ってくるな、と手元の荷物を集め始める。
 G.L.大学裏の職人の名を誇る彼は、いつでも工具箱だの絵の具だのソーイングセットだの、こまごましたものを持ち歩いているため荷物が多い。
 ぼわんと膨らんだがまぐちショルダーを慌てて肩に引っ掛け、ウソップが出ていくと、7個目の鯛焼きに手を伸ばしかけていたルフィは、で、と笑った。
「そのビビはここに入学すんのか?」
「…もし、本当に御令嬢だとしたら、御両親が反対するんじゃあ?」
「ビビのパパは凄いわよ、やりたいようにやりなさいって笑って許すんだもの。ビビが今まで通ってた聖アラバスタ女学院よ? ストレートでそのまま付属大学に進んでエリートコース、社交界デビューは決定済みのルートを蹴って、わざわざこっちに受験しようっていうんだもの。
 ビビもお金持ちを鼻にかけない、芯のしっかりした強い子なの。
 だ・か・ら! 特にサンジくん、ビビに手ェ出さないようにね。さっきも言ったけど、あの子には専属のボディ・ガードがついてるの。腕っ節の立つ、オオカミみたいなボディ・ガード」
「でも俺は誰にも負けねェぞ!」
 鯛焼きの尻尾を口から飛ばしながらルフィはどーんと言い放つ。
「ああ、はいはい、あんたは負けない強い子よね」となあなあにナミが頷いているなか、サンジはその麗しのネフェルタリ令嬢と、ゾロに似ている、だのオオカミみたいだの言われるボディ・ガードのつらでも見てやるか、と内心で笑った。
(あのマリモに似てる野郎がいるって?)
 もしかしたら人間の姿でのゾロに似た印象を持つ人間=オオカミの印象が強いのかもしれない。つまり、犬科の。
「あ、来たわよ。…ビビ、こっち!」
 ナミが立ちあがって手を振ると、水色の明るい髪の少女がきょろきょろとし、ナミを見つけてぱっと顔を輝かせた。
「ナミさん!」

「ンな!!」
 
 椅子を蹴倒すようにして立ちあがったサンジはルフィはおお、と感心し、ナミがあーあと溜息をつくほど勇ましかった。

「ンなんて可愛らしいお嬢さん! お名前は伺っております、ぼく、ウソップ君の親友でサンジと言います以後お見知りおきをレディ〜っ♪」
「あ、あの」
「こういう時だけ親友扱いかよ!!」
「黙ってろ長っ鼻、うるわしのレディのお声が聞こえねェじゃねえか、このアホ!」
「あのぅ」
「は〜い、なんでしょう?!」
 ヒートアップしているサンジを困ったように見上げるビビは、これ以上ないほど可愛いのである。
(やっぱり、俺は女の子が大・好・きだ〜っ!)
 とお星様に向かってガッツポーズをとれるぐらいに、お日様に対して再度誓えるくらいに本心からそう思う、思ってしまった。
「あんた、ヘンな匂いがするな」
「―――はっ…へ?」
 ガラは良いとは言えない。もしかしたら、男相手に喋るときのサンジの粗雑さ&険悪さにタメを張ってしまうかもしれないほど…あるいは―――緑髪の例のアレを一瞬、彷彿とさせるような、そんな感じの男は、匂いを嗅ぐ仕草こそしなかったものの、薄い色のサングラスの奥で怪訝そうに、目を細めた。
「コーザ!」
 慌てたようにビビが愛想のない男の袖を引っ張る。
(なんだ、この二人もうお付き合いラブラブかよ!)
 と違った衝撃も受けつつ、サンジが男にヘンな匂いがするって言われちゃったとショックを受けていると、コーザと呼ばれた青年はついと隣の華奢な少女を見やり、低くささやく。
「ビビ。この男は獣をつけているぞ。狼の匂いがする」

「―――………えあ?」

 今日何度目かの間抜けな返答に、コーザは興味を失ったのか、
「お〜い、おまえらそこで立ち止まって…なにやってるんだあ?」
 とウソップが怪訝そうに声をかけてくるのに対し、鷹揚に頷いてビビを連れて歩き出す。
「……狼って」
 驚いたまま、サンジは暫くコーザの言葉を反芻していた。


***


 完全復活したサンジはバイトも適度にこなし、弁当&食事作りも元通り、わんこに対する愛情いっぱいいやがらせ少々の過剰なスキンシップも復活した。(そしてそれをゾロは喜ぶべきか落ち込むべきかと数分悩んでいた)
「ゾロはゾロ! てめェはわんこで人間だ。で、それでいいんだ!」
 なんだかよくわからないが―――そう、結論に達したらしい。
 過度の疲労と怪我による発熱で朦朧としながら、怪我人でもある病人は、ことさら舌足らずにゾロに対して命令を下した。
 身体が痛いからマッサージしろ、服を着替えさせろ、お風呂入りたい、プレイボーイ買ってこい、○×店のアイスクリーム食べたいetc…。
(このアホな飼い主がどうにかなるなら)
 そう思って従順に頷いていた忠犬もさすがにわがまま度が過ぎ始めたサンジに怒りを覚えて、
「お前は大人しく寝てることもできねえのか!?」
 と怒鳴ると、目を潤ませて、頬を膨らませて、あひるのように唇を尖らせて、柄悪く怒鳴り返すのだ。
「なんだ、てめえ! おれといっしょにいるのがイヤだっつーのかコラ!」
「だから……、何処にもいかねえって」
「うそだ、さっきちょっと目ェつぶったらいなかったぞ!」
「便所にも許可がいるのかよ。いいから寝てろ、病人」
「うるせえ、アホ犬! …犬が病気になると病犬か? やっぱ。ビョウケン…微妙だ。なんつーか、ビリケンに似てる」
「おまえ、本当に寝ろよ」
「黙れ、ホクトノケン! 寝るとヤな夢みるんだ。だからだめだ」
 要領を得ない会話になってきて、ゾロは頭痛を感じた。
(いやな夢見るからって―――)
「―――ガキ」
「なんだとう!?」
 唸りながら氷枕を抱えていたサンジは思いの他耳聡く、ゾロの呟きに過剰反応する。
 目許が赤らんでいるのに唇の色がない。発熱のせいか、それとも興奮してか目がまた潤んできている。病人としての自覚があるのかないのか! 主人のアホさに溜息が出た。
「ちゃんと寝ろ」
「ヤな夢見るっつってんだろ!」
 うがァ! と歯を剥き出しにしている。再度ゾロは肩を落とし、サンジの毛布をめくりあげた。
「ンギャ! なななななにす…っ」
「添い寝」
「…。んえ―――ッ! きぁ!? うぉー!」
 奇声を発し始めた飼い主をよそに、ゾロはごそごそと毛布の中に身体を潜り込ませて、なぜだかホールドアップしているサンジを見上げた。
「―――わん」
「…おま。おま、おま、えッ! い、犬モードになるっつーなら、なるって、そ。そーゆえよ!」
「ぐるる」
 喉を鳴らして喉元に頭を擦り付けるようにすると、サンジは身をよじらせる。
「く、くすぐってえ。うあ。でも…」
 もぞもぞと毛布の上をさまよっていた両手が、ゾロのふこふこの腹の毛に辿り付いて、感触を求めて遊び始める。

 腹を触られるのは好きじゃない。傷があるからだ。
 サンジもそれをようく分っていて、傷口には触れないように充分注意しているものの―――普段より名残惜しげに指がふわふわをさ迷っている。
 全体的に固い毛並みのゾロだが、顎の下から腹部にかけては柔らかな白いそれだ。サンジは極端なまでのアニマルフェチだし、見るからに触り心地の良さそうなそれを見てウズウズしないはずもない。
 それでも傷を気にして―――恐らくゾロより気を配って、注意深く接していただろうサンジが、深々残る痕に触れないまでにしても、まだ、白い毛並みを撫でている。
(ああ)
 直感で、理解する。
(―――寂しいのか)
 あるいは心細いのかもしれない。確かにゾロも、怪我を負って目の前が真っ白になっていたとき、なぜだか胸が破裂しそうな物悲しさがあったのを記憶している―――朧気にして曖昧な記憶のなかでその強烈な思いだけが、鮮明に残っている。
 多分、それはゾロの傷痕の正体であるように。今、サンジは、どうしようもなく孤独なのだ。
 仕方がないから、なるべく負担にならない程度に寄りかかりながら、頭を押しつけて、くすぐったそうにしているサンジの手を舐めた。
 犬の姿だと、ふんにゃりだらしなく無防備にサンジは笑う。
(変な奴)
 でも、その笑い方はキライじゃないから。
 キライじゃないから、ゾロは大人しく喉を鳴らして目を閉じた。
 時々相手は油断して、ゾロが「人間の姿のときに」そんなふうにへにゃんと笑う。けれどすぐに眉根を寄せてふいと顔をそらすからそれが少し、引っかかる。
(でも、こいつは、俺が人間でも犬でも良かったって言いやがった)

 だったら、人間の時にも同じ反応を返せばいいのに。
(犬の姿じゃなくても、甘えてくれば面倒くせえけど抱きしめてやるし)
(犬の姿じゃなくても、命じられれば仕方ねェから添い寝もしてやろう)
 単純な脳味噌に複雑な事情を抱え込んでしまったらしい主人のひよこ頭を飽きれて眺め、なんだか不自然な気持ちでいる自分自身に首を傾げていた。


「ロロノア?」
 不思議そうに声をかけられて、はっとしてゾロは顔をあげた。
「ああ、すいません」
「いや……大丈夫か?」
 スモーカーはやや視線を動かし淡々とした口調で訊く。だが、本当はとても心配しているのだろう。たしぎは彼のことを「とても心配性なんですよ」と笑う。厳しい眼差しに、鍛え上げた体躯は威圧感を与え、一見「怖い人」だが(恐らくゾロも同じ分類に値するのだろうけど)そうやって気遣うさまはスモーカーが悪い人物ではないと示している。
 たしぎの遠戚であるというスモーカーを紹介されて握手をしたとき、たしぎは不思議そうにゾロとスモーカーを眺めて、
「なんだかお二人って似ていらっしゃいますよね」
 と笑った。
「ロロノアさんは、大きな犬さんなんですけど、スモーカーさんは大きな猫さんなんです」
 とも言って、凄んだら子供に泣かれそうな男二人は困って沈黙した。
 酒屋の主人であるガープはトラック事故からすっかり足腰が弱ってしまい、以前のようにてきぱきとこなすことが無理になってしまった。だが、ゾロという信頼できる男手がバイトで入り(しかも彼は命の恩人でもあった!)親戚筋のスモーカーが心配して手伝いにやってきてくれた。
 一人娘のたしぎはどうも危なっかしいというか、そそっかしいというかで、
「ただワシの心配はたしぎが売り物の酒瓶を全部割らないかどうかだけだ」
 と呟いたとき、ゾロもスモーカーもひどく納得してしまったくらい…彼女はマイペースで、少し…いやかなり…抜けたところがある。
 発注や配達依頼の受けつけはスモーカーが経済管理はたしぎが(といってもスモーカーが殆どフォローしている)そして今まで通り力仕事はゾロが担当することで、ガープもやっと安心したようで、老後を満喫してくると、知り合いのおじじおばば連中に声をかけて温泉旅行に行ってしまった。
 基本的にたしぎのおっとりとした暢気さは、ガープから受け継いだものなのかもしれないと、ゾロは思う。
 でもそんなたしぎを見て、サンジはでれでれとするだろう。女好き度とアニマルフェチ度が匹敵するくらい、サンジは妙に女に弱い。勿論それが年頃の女性だったら丁寧さと熱心さと優しさが倍増するが、小さな幼児にも老婆にもフェミニストっぷりを発揮する。
 そんなことを考えていたせいか、ビール瓶のつまったケースをどうやら積み上げすぎていたようで、気づいたスモーカーが声をかけてきた、というわけだ。
「具合でも悪くなかったか?」
「は?」
 何故そんなことを訊かれたかいまいち分らず、ゾロは首を傾げた。
 元々頑丈なのか、それとも犬と人間どちらにもなれる特殊性のオプションなのか、病気の類にかかったことは一度もない。それをサンジは「予防接種」のお陰だ!とのたまうが、具合が悪いという表現に合うことが起こったことはなかったのである。
「何でもないならいい」
 スモーカーは分厚い葉巻を取り出して、まるで歯で噛み切るようにしてそれを吸った。サンジの吸っている匂いと違う。
 煙草一つ匂いを嗅いだだけで、すぐに主人を思い出すとは―――ゾロも相当、サンジのことを心配しているからだろうか?
 やや憮然としてビールケースを元に戻していると、ケツポケットに突っ込んだままの固形物が振動した。
「すいません」
 一応スモーカーに断りを入れて、ゾロは能天気なメロディをかき鳴らす携帯を手に取り、
「はい?」
『ゾロ―――ッ!!!!』
「…ッ」
 絶叫に、鼓膜がワンワン鳴った。
『どどどどどーなってやがるんだ?! てめえは、てめーは俺以外のやつに正体あっさりバラしてんのか!?』
「おい、なんなんだ」
 耳元でまくし立てられる感覚に思わず携帯を耳から放す。
 サンジは時折、こうしてパニックに陥ると全く意味不明の言動を放つが今回もそのパターンらしい。
『狼って言われた!』
「はあ?」
『知らねェ野郎に狼の匂いがするって言われたんじゃああああ!』
 この場にサンジがいたら胸倉掴まれて力一杯揺さぶられていたことは想像に固い。
「わかった、わかったから落ち付け」
『おれはそんなにケモノ臭いかぁぁああぁぁぁ〜!』
 ゾロが携帯の向こう側で引っくり返った声をあげているらしいひよこ頭の主人を宥めていると、腕まくりしたスモーカーがビールケースを運びながらさらりと声をかけた。
「なにかあったなら行っていいぞ。…おい、たしぎィ!」
「は、はーい! スモーカーさん、今行きま…ひゃっ!」
 がしゃーん、とお約束の物音が左耳に炸裂し、一方の右耳には要領を得ない言語が飛び交い続ける。仕方がなく、携帯に対し「今いくから待ってろ」とだけ言って切り、ゾロはたしぎの救出に向かった。
 どうしてゾロの周囲の人間はみな手間がかかるのだろう。
「此処は任せろと言い切れねェのが辛いところだ」
 スモーカーは大量の紫煙を吐きながら渋るように言ったが…とりあえずはあの男がいれば大丈夫だろう。注文の品を悉く割られる被害は減少しそうだ。
 礼代わりに軽く会釈して、ゾロは裏口から飛び出す。
(―――ったく、ホントに…!)

 面倒が多くて、ちっとも安心できそうにないのだ。



→ 後編へ続く
◎1ヶ月に1回ペースなのでしょうか。犬でございます。
◎初登場はビビ、コーザ、スモーカーになりました。一人増えてもた。中途半端なところで終わってしまいました…。
◎後半はなるべく早めに書こうとおもいまーす。
02/10/01
5.25 06へ 07bへ

Return?

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送