★ ワンダフルデイズ。 ★
犬。04


「よし、ゾロ!買い物行くぞっ!」
「…?」
 ゴム製の骨の形をしたおもちゃを……ルフィとウソップが「ロロ」に、とサンジに渡したそれを……齧っていたゾロは丸くてくりくりした目でサンジを見上げた。
(く、くあ! か、カワイイ!)
 末期症状なアニマルマニアはそんな愛犬の愛しさを誘う仕草に内心悶絶しつつ、
「買物だ、買物! 米とか醤油とか…」
「ああ、そうか」
 むくりと立ちあがった男は先ほどの可愛さなど欠片もない無愛想で、サンジは口をへの字にした。
「…なんだよ?」
「可愛くねえ」
「あのなあ」
 飽きれたように肩を竦めて(ナマイキな犬である!)ゾロはふうと息を吐く。
「犬の姿じゃあ、米も醤油も運んでやれねえだろうが」
 しかもサンジときたら特売だとなると目を爛々と輝かせて、これでもか!というほど重いものをゾロに持たせるのだからたまらない。
 勿論「重い」ということへの文句はない。はっきりいってゾロは自分でも飽きれるほど力持ちらしく、持ち上げられるかな?と思ったものは大抵持ち上げられてしまう。
 例えば、軽トラックぐらいだったら人が乗ってても傾けることができる程度には。
「サラダ油も安いんだよな」
 納得したらしいサンジは、広告を眺めてウーンと唸った。また、ひとつ荷物が追加されるらしい。
 もう一度溜息をつき、ゾロは適当に頷いて玄関へと向き直った。

 大学で、それもセンス良く自分を着飾ったレディ達を前にサンジは所帯臭さというか…訂正、家庭的な面を見せないように心がけている。
 身奇麗にしているだけでも精一杯の貧困生活だが、さすがに流行に敏感で気まぐれな彼女達に、スーパーの特売だの○×百貨店の閉店セールだのを口走ることがどんな印象を与えるかぐらい想像するまでもないということだ。
 彼女達に見せてはいけない。文学書のしおりがディスカウントショップのチラシであることを。
 彼女達に知られてはならない。いつも片手に持つ教科書にまぎれて「これが究極・主婦の唸る節約の本!」があることを。
「だって、閉店間際まで粘って、半額シールの張られた食品やら、見切り品やらを品定めして自炊して、靴下に穴空いたら自分で繕う野郎の何処がモテるってんだ!」
 というのが、つまりはサンジの言い訳なのである。
 しかしこのへんはあまり学生の家や一人暮らしが棲むような環境とはまた違う、少し下町風情の残る近辺で駅から二つ、三ついったところ…つまり実際に大学がある近辺でないと少し大きなデパートの類や大型スーパーなどは存在しないのだ。
 それでもサンジは、この辺りの風情がとても好きで、わざわざ背伸びして高い家賃の、高いものしか売っていない場所に移動する気が起こらない。商店街には商店街の味わいがあって、馴染みの顔になったりするのが楽しいと感じるため―――多分、元々生活感の滲み出てるほうが性に合っているらしい。
 傾いた、という表現がピッタリな鄙びたアパートから徒歩10分で東海商店街に辿り付く。
 最近はスーパーの閉店ギリギリに慌てて駆け込んで食料を何とか買うといった程度だったので、ゆっくり歩くのは久しぶりだ…とサンジが辺りを見回した―――その時だった。
「あら、ロロノアさん!」
 寝具店のおばちゃんが箒と塵取りを手に店から出てきて、顔をあげた途端にっこり笑ったものだからサンジはぎょっとして、思わず隣で飄々としている緑頭を見つめた。
「あ、どうも」
「この前は悪かったわねえ! わざわざ敷布団三枚も運んでもらっちゃって…うちの主人がぎっくり腰なんてやらなけりゃ、トラックで運んだのに本当に恥ずかしいったら!」
「いや。旦那も、お大事に」
「やあねェ! 張り切ってロロノアさんみたいに力持ちを気取るからいけないのよォ! イイ年して恥ずかしいったら、もうねえ、だいぶ腰のほうはいいのよォ? ほら! 酒屋の事故の一件があったからかしら、余計に若いひとには負けないって見せたいらしいのよ…あら、お友達?」
 まくし立てるようにおばさんトークを浴びせ掛けられてもケロリとしているゾロの隣で硬直していたサンジを、やっと彼女は見止めてくれたようで、にこにこしながら会釈してくる。
「ああ、俺のしゅじ…」
「どっ!! 同居人のサンジです!いつもゾロがお世話になってますぅう!」
 ナチュラルにヤバいことを言おうとしたアホ犬をドツいて、慌ててサンジは一歩前に出る。
「まあまあ、こちらこそロロノアさんには本当にお世話になって!」

「おう、緑の若!」
「どうも」
「おお、ロロノアの!」
「ちわ」
「ゾロさんじゃねえか、どうだ、寄っていかないかい?」
「いや、また今度な」

(なにこれ)
 サンジは微かに俯き、混乱する頭を振って、考えた。
(なにこれ)

 歩けば歩くほど…つまり商店街も中に入れば入るほどに、ゾロに親しみをこめて声をかける人数が増えて行く。
(どゆこと!?)
 冷や汗が落ちる頬を拭って、サンジは目を泳がせた。
「ちょ、ちょい、ゾロッ」
「んあ?」
 若い奥さんからは笑顔を貰い、手を引くお子様は「お兄ちゃ〜ん!」と手を振る。
 しかもその相手がなんでかサンジではなく、ゾロなのだ。
 世界ビックリ人間ショーより驚いちゃうのは仕方がない…というサンジの心境は、かなり動揺し、かつ切羽詰っている。
 そそくさと、比較的人の少ない自転車置き場にゾロを誘導して、一気に問い詰める。
「ど、どどどどどどどーゆぅこったァ!!」
「なにが?」
 至極不思議そうに小首を傾げる(このへんは、子犬の時のクセがぬけていないらしい)ゾロに対し、
(あー!?あっ、あーッ!)
 と神経がぷっつんいきそうなのを必死に堪えるご主人様がいた。
「なんで!!
 俺の馴染みの商店街で、テメェ、な、なんでか知らないが有名人になってやがるんだ!!」
「…ええと」
 指差してぎゃんぎゃん喚くサンジの頬は紅玉林檎並に紅潮しており、相当頭に血が上っているとみた。
(ええと)
 とりあえず、整理してみる。
 ゾロは比較的この商店街に遊びにきていて…まあ、先日衝突事故を起こしたトラックの下敷きになっていた酒屋の店主を助けてしまい、一躍ヒーローになってしまったこと。
 それ以来、知らないひとからも声をかけられるようになり、何だか知らないがこの御町内ではたいていのひとがゾロを知っていること。
(…んー)
「散歩してるから?」
 説明が面倒くさかったので、とりあえずそう答えると、
「ぶわっかかテメェ!! オォ!? なにか、緑頭のあんちゃんよォ!
 お散歩してたら確かにてめえのそのグリーングリーンまりもヘッドは目立ちまくりだがな! 柄悪そうだしな! でも普通おっちゃんおばちゃんお子様にレディは引く! 引くだろうが! 近づかないだろうが、そんな危険人物なのに親しげになんだ? 声かけられるのはそんな強面が往来をノシノシしてて微笑ましいと感じてしまう御町内だからか!? ンあ!?」
「い、いや。落ち付けよ」
 キレたサンジは恐ろしい。
 内心ギョッとしつつ、先ほどの布団屋のおばちゃん以上のマシンガントークを繰り広げる金髪頭のご主人様を落ち付かせようと、説明が足りなかったことを謝罪する犬である。
「悪かった。えーと。実はちょっと前に人を助けた」
「人を竹下駄!?」
「なんだよ、それ。助けたんだよ。難聴じゃねえか、てめえ」
「ご主人様になんつーことを」
「いでで。耳たぶ引っ張るな。引っ張るな!」
「人助けって…てめえがァ?」
「ああ。なんか、車の下敷きになってたから―――……な、なんだよ。その目は」
「いやあ〜?」
 突然相好を崩して…というよりニヤニヤし始めたサンジを見て、ゾロは少し後ずさりする。
「ワンちゃ〜ん? 俺の知らない間に…」
「うっ」
 警戒していたはずなのに、身動きできなかったのはサンジの行動が予想外のものだったからだ。
「なに商店街の勇者になってんじゃコルァ〜ッ!!!」
 飛び蹴りがくると身構えたはずが、わしわし頭を撫でられて、あまりに突飛な行動にゾロは主人の頭のネジが一本ぶっ飛んだのかと疑った。「はァ!?」
「ああ〜!もうもう! そうだよな! 俺のロロだもんっ! ご近所アイドルにとどまらず、ご町内ヒーローになっちゃうよな! 俺のわんこだもんっ!」
(やべ、イっちまったよコイツ)
 とりあえずゾロは犬なことに間違いはない。間違いはないが、今は人間モードである。
 どうみたって、「俺の犬!」とか言いながら大の男が同、大の男に抱き付くというのはいくらなんでも常識的にヤバい、と、思う。
「おい、落ち付け! しっかりしろ」
 引き剥がして揺さぶらないと、恍惚とした表情のアニマルマニアはなかなか元に戻らない。
 愛されていることを感じるのは、飼い犬にとってこのうえない幸せ…なのかもしれないが、ここまで極められてしまうと逆にゾロはウーンと唸るしかない。
「特売が」
 それでも首根っこにしがみつくようにして、えへらえへらとヤバイ笑顔を垂れ流すサンジの頬をぺちぺち叩いて、貧乏人根性にダイレクトアタック発言をすると、驚いたことにサンジは一転、正気を取り戻した顔でゾロを思い切り突き放した。
「だよな! そっちのほうが優先!!」
 突き飛ばされて思い切り脇腹を自転車のハンドルにぶつけたゾロはしばらく言葉もなくうずくまっていたが―――気分屋な主人ときたらゾロのことなどそっちのけで、もう意識は特売に飛んでいる。
「おらァ! 早く来ねえと売り切れっちまうだろうがッ!」
 中指をおったてて、粗暴な口調で怒鳴りつけ、サンジはノシノシと荒々しく歩いていく。
「―――不毛すぎやしねえか?」
 誰ともなしに、思わず呟いてしまう犬なのであった。



 カートを押してひとつひとつを品定めするサンジの目は爛々と輝いていて近寄るのがちょっとおっかない。
 しかもさながら鑑定士のように真面目な顔でエリンギ(なんか変なキノコだとゾロは思う)やらパプリカ(色付きのピーマンとゾロは理解する)を取って頭の中にぶちこんであるレシピを確認しているあたりは、料理人なのだろうけれど。
「労働基準法をも無視したジジイの徹底教育があったからな…さながら星飛馬の気分だったぜ」
(“ほしひゅうま”ってなんだ?)
 しかしゾロは荷物持ちなのである。荷物持ちは無駄口を叩いて買物の邪魔をしてはいけないのである。
「新商品のスパークリングワイン『メリー』です。おひとついかがですかあ?」
「あ、試供だっ!」
 新商品の試供品を片手に張り付いた笑顔で声を出しているのを見つけて、浮かれた足取りになったサンジに慌ててついていく。
「お嬢さん、おひとついただけますか?」
「はい、どうぞぉ♪」
 三角巾に試供品のロゴの入ったエプロンを持って暇そうにしていた彼女は、愛想良いサンジの様子にここぞとばかりに笑顔を強めて、
「後ろの方も是非どうぞ!」
「………」
 ゾロは困ってサンジを見つめた。
 躾のなっているわんこなので、ご主人様の許可なく「知らないひと」に「物を貰っちゃ」いけないのである。
「いいぜ」
「ん」
 尊大な様子でサンジが頷き、ゾロは小さなプラスティックのコップを受け取り、ごくんと飲んでから変な顔をした。
「―――なんか、これ」
「あ、どうした?」
「お客様…お口に合いませんでしたか?」
 販売員が僅かにうろたえると、
「なんかぴりぴりする水だな」
 途端に真っ赤になったサンジと笑いを堪えるように顔をそむけた販売員の様子を見て、ゾロは子犬の時のように小首を傾げる。
「舌が痛ェ」
「ゾロ、ちょっとこっち来なさい」
 あぁりがとございましたあ〜と震える販売員の声に見送られてサンジはカートを片手にゾロを引っ張る。
「あぁ? なんだよ」
「そっか…この前の飲み会じゃ日本酒とかワインで、ソーダ割りなんか呑んでなかったっけ…」
「なあ、どうしたんだよ」
「ゾロ、いいか。アルコールにもジュースにも舌にぴりぴりするやつがある。だけど、そりゃあ俺たちの世界では『普通』だ」
 元々人間くさい狼犬なので油断していた。いざという時の立ち回りなどサンジより要領良かったりするのだ…全くナマイキな子犬である。しかしこうした微笑ましい…されど今を生きる世代としては不自然な「無知」といえる。
「ふつう」
 神妙に頷くゾロが「こいぬの」ゾロと被って見えて、わきわきする両手を慌てて後ろに回して、サンジはいっそう深く頷き返した。
「そうだ。お前は咄嗟の機転は利くみてえだが、あほのようにヌケてるとこがある。ご主人様はそれを見てると思わず口から心臓をゲロしちまいそうになっちゃうので、あんまり滅多なことを口にするんじゃねえ」
「アホのように…おまえ、失礼だな」
「黙れ。マスターは俺なんだよ! ほねっこ買ってやんねえぞ!」
「なかなか卑怯だよな」
 財布を握る者として随分な脅しをかけて説得すると、ゾロは面倒くさそうに顔をしかめて、
「で、ご主人様。なんかあっちで叫んでるぞ」
「あん?」
『タイムサービス先着40名様限りで雨の日のいやな匂いも元から防ぐ、○×より新製品の…』
「はあっ! ゾロ、ゾロ、並べ! お一人様一個だから、俺とお前で一個ずつ〜!」
 ダッシュで走り出したサンジを唖然とした顔で見つめ、ゾロは渋々カートを押した。
 最早ゾロの中に植え付けられた認識ときたら、『サンジとの買物はおっかない』である。
 同じくして鬼の形相でふくよかな御婦人…つまりは、主婦のおばちゃんたちがタイムサービスに目を光らせているが、サンジも負けていないあたりがおっかない。
「ナミとかに今度教えてやろうか」
 最近良く呑みに誘いにくるようになった、あの面白い連中は唐突に現れた「ゾロ」という存在に興味しんしんらしく、色んなことを訊ねてくる。…が、ゾロとしては余計なことをベラベラ話して正体がバレやしないかと内心気を揉んでいるらしいサンジの気持ちを汲んで…あるいは単に面倒くさくて…はぐらかしているので、まあ、今のところは問題がない。
 ただでは転ばないを地で行くナミなどは、それでもゾロの情報が手に入らないのならとサンジのことを聞いてくる。
(だが、週末のあいつは主婦だってことを話したら、俺が怒られるんだろうなあ)
 結局、半分「犬」なゾロとしては主人に忠実でなくてはならないらしい。
 まあいいか、酒も呑めるしほねっこも買ってもらえるし、とゾロはスーパーの鬼と化しているサンジのあとをのろのろと追った。

「大漁だったな〜」
「…ああ」
「効率よく済ませた気がするぜ。ちょっと主婦の鏡っぽくねえ?」
「そうだな」
「なんだよ、ゾロ〜」
 ゲシィと腿の裏を蹴られて、うっとなるが何とか荷物は落とさずにバランスを取った。硝子製品も買ったのに何て乱暴な男だろう。それでも落としたら落としたでゾロが悪いと怒鳴りだすんだろうから、閉口せざるを得ない。
「ノリが悪いぞ、ノリが」
「アホか」
 溜息をついて、ゾロがまた怒りの形相で何か口走ろうとするサンジを無視してさっさと家路につこうと歩き出した時だった。
「あっ、ろ、ロロノア、さんっ!」

 ロロノアさん?
 きょとんとしてサンジは首を傾げ、声の主を見てぎょっとした。
「―――おう」
「お買物ですか?」
 にっこり笑った彼女は何でもないところで転びかけていた。今時珍しい「ドジっ子」である。しかし眼鏡をとったら美人王道もきっちりこなしていると見た。
 サンジの美人センサーがそう叫んでいる。
(どうなっとんじゃこりゃあ!?)
 あやうく叫びかけたが、黒髪の彼女がにっこり微笑んで、
「こんにちは」
 と挨拶してくるものだから、ついついサンジもにこやかに、
「どうも、お嬢さん!」
 ノリが良過ぎるのも困りものである。
 ちょっと自分の女性大好き思考が憎いなあと思いながら、それでも愛想良くしてしまうのだ。
「たしぎです。ロロノアさんにはいつもお世話になってます」
「お世話…いいえ! この駄犬…じゃねえ、役に立たない緑マリモですが、お嬢さんの御役に立てているようで光栄です! ぼく、サンジっていいます!」
「おい」
「よろしくお願いします」
 にっこり笑うと、はにかんだ頬が紅潮してやっぱりカワイイのである。
「たしぎは?」
(呼び捨てかよ!)とはサンジの内心全力ツッコミ。
「あ、集金の途中なんです」
「俺はいつ行けばいい? 明日か?」
「お願いします! お父さんはまだ病院だし…ええ、本当に助かります」
 深々とお辞儀をされて、いや、別にとゾロは首を振る。
「じゃあまた明日な」
「はいっ! 失礼します!」
 たしぎという彼女が、慌てて走り去るのを笑顔で見送ったあとで、サンジは思いっきりゾロを振りかえった。その形相を見て一瞬驚いたようにゾロが目を見開く。「なんだよ?」
「なんだよ、はこっちのセリフじゃボケ!」
 往来で延髄斬りを放ってくる男は本当に恐ろしい。ジャンプ&ハイキックは見事にゾロの後頭部と首の境を直撃し、一瞬脳みそがゆれる衝撃を味わってゾロは冷や汗をかく。
「あの可愛くも奥ゆかしい楚々としたお嬢さんは誰だ!」
「あー。酒屋の娘?」
「説明になってねえ」
「だから…ちょっと前に人助けたっつったろ。その娘」
「―――あの…お嬢さんのお父様をてめえは助けたのか?」
「ああ。まだ入院中で、人手が足りてねえで困ってたんで、今酒屋で"ばいと"してる」
「そうかそうか。お嬢さんが困ってるんじゃあ仕方ねぇよな…バイト?」
 サンジは、こっくり頷いたゾロの頭を思わず叩いていた。
「いで」
「なんで俺に報告しねえんだっ!」
「なんで報告しなきゃいけねえんだ」
「あったりまえだろ!!」
 スーパーの袋を抱えたまま、サンジは叫ぶ。商店街のど真ん中で。

「俺ァてめえのごしゅじ…ッ!」
「っだーあ!!」

 慌てて口を押さえ(しかも必死に荷物を抱えながらで我ながら器用だとゾロは思った)怒りに我を忘れるとタチが悪いサンジを宥める。
「落ち付けよ! 『ふつう』、人間同士で主従関係があったらそりゃトクベツなんだろ!?」
 強面のゾロに対し自分が主人だとのたまえば、どう軽く見積もっても何処かの組の坊ちゃまと御付きのヤクザである。シャレにならない。
「俺としたことが」
 さっと顔色を変えてぎくしゃく歩き始めたサンジの後頭部を見て、ゾロは溜息を禁じえなかった。どうしよう、ゾロのことを間抜けだアホだと散々罵倒しておきながらこの主人、ミもフタもない。
(鍋の底だけあっても困るんだが)
「まあ俺の間違いなんざ可愛いもんだ。ちょっとしたオチャメだ」
 そんな言葉で流されて、またも人間不信になりかけなオオカミを見つめ、サンジは仕方ねえなあと肩をすくめる。
「なーにとろとろ歩いてんだよ。帰ったらメシにすんだから、フテ腐れてねーの!
 ほら、一個持ってやるから。―――仕方ねえなあ!」
 自分の失態は棚に上げて、まるで保護者気取りでにんまりするひよこ頭を眺めて、ゾロは諦めた。諦めて、ハイハイと頷いて歩き出し、ゴキゲンな様子で口笛まで吹き出したアホな主人を見てこっそり呟くのだ。
「―――仕方ねえなあ」

 ペットは飼い主に似るものだ、なんて、テレビで誰かが言っていたが、俺だけはそうなるまいとゾロはこっそり自分に誓った。


◎お久しぶりです。犬でございます。
◎所帯クサイっていうか夫婦気味な内容に悲鳴を押し殺しつつ。なんかもう小説っていうよりあまりに「日常」すぎて…楽しく…ない…かも……えへへ。(弱気)
◎犬は妹から教わった、彼女曰く「シキ宅のサンジ」ソングを聞きながら書きました。目下最近のBGMはそれ一色。可愛い歌で!あと、ちょびっつのOP(ヒィ)
◎そろそろ犬人間もとい人狼の秘密になんか迫ってみたいかなあっていうかちょっとゾロサンらしくしてみようかとも思います。
◎犬を書いてると「恋愛」を通り越して一気に「熟年夫婦」の域にまでたどり着いちゃった彼らを見てるようで、親御さん複雑ですって感じです。(ブルー)

02/07/10
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