★ 正しい主人のしつけ方。 ★ 〜犬がきました 10b〜 |
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◆ ◆ ◆ 「喧嘩はいけませんよ」 「―――ん」 珍しくゾロが怒りを滲ませて現れたものだから、たしぎの開口一番は単純にして明快である。 「なんだぁ、ゾロォ! おめえ、サンジと喧嘩したんか!」 フランクフルトを一心に頬張っていたルフィが目を真ん丸くするのに頷き返す。 「…そうかもしれねえな」 あれを喧嘩というなら、そうかもしれない。 ここまで仲違いしてしまったのは実にはじめてのことかもしれない。ささいなことでの取っ組み合いや誤解は山ほどあったけれど、サンジの―――あんな冷たい声を聞くなんて久しぶりだ。 「…じゃあ、今日はてめえも帰ってくんな」 出て行けといわれたあの声だ。ゾロは今でも鮮明に、サンジとの出会いを思い出すことができる。 たしぎと出かけることになったのは、サンジのいうデートってほどでのものではないのだ。たんに酒屋のバイトの延長上で、ちょっと買い出しに付き合っただけなのに。 酒瓶を運ぶのはゾロにとって苦ではないが人手が多いほうが早く済むということで、ルフィが一緒にやってきた。というのはまあ一応の理由である。楽しそうに手伝いをこなすルフィは、たしぎ手製のお弁当とゾロと半分ずつに支給される賃金につられて顔を出した。 「たんじょーびだからな」 小遣いの殆どを食費に消してしまうルフィは、いっしょうけんめい考えて即日バイトを選んだようである。 「…お前、その今日がビビの誕生日じゃねえか?」 ふつう、遅くとも前日までには用意しとくもんじゃねえか、とゾロは一応言ってみた。サンジなんて何週間も前から何を贈ろう、どうしよう、とあれこれ試行錯誤していたというのに―――と、能天気な金髪頭が今ごろビビの前でへらへら愛想をふりまいているんだろうと思って眉間に皺が寄る。 「いいんだ。もう贈りモン決まってるし」 明日になるまでが今日だ! と変な風に、しかし力強く言われてゾロは笑った。ビビが可愛がっているカルガモ(しかもなぜか普通のカルガモより体格がよろしく、ぽってりしている)の首輪を買ってやるのだそうだ。 現在カルガモには質の良さそうな…実際良いのであろう生地でのリボンが結ばれているが、もうちょっと可愛いのがあったらな、とビビが言っているのを聞いたのだそうだ。ビビは財閥の御令嬢だし、購入できるものならばなんだって手に入るだろうに。 「ふうん、じゃあ今日そのクビワを買ってビビんちに寄るのか?」 「違う。首輪の材料買ってウソップと一緒につくる」 世界に一個の、ちょうかっこいいのを作る! と、息巻くルフィは工作に向いているタイプかどうか疑問が残るところだが、手先が器用でセンスのあるウソップとの合作なら、それこそとんでもない最高のプレゼントが出来るだろう。 「ウソップは今、トトの首輪作ってんだ」 「…トト?」 「知らねえか? ビビんちの黒い犬。かっこいいんだぞ。ロロにちょっと似てるな」 「俺に―――あー。うちのイヌに似てんのか」 そういえば前にサンジが、ビビのお付きにオオカミの匂いがどーたら、バレたうんぬん言っていたっけ。 その男はコーザという名前だった筈。ゾロは実際会ったことはないが、もしかしたら同族…というのはふしぎな感じもするが、そいつも犬になれるんじゃねえか、なんて暢気に考えたものだが。 (名前が違うか。まあそりゃそうだよな) 簡単に犬が人間になってしまったら問題かもしれない。 自分のことは棚にあげるゾロなのである。 「トトと、カルーの首輪が完成したらビビんち行くんだ。サンジが全部飯作るんだってよ! すげえなあ!」 ―――と、いうことはだ。 ルフィが途中参加するということは、勿論いつものやかましくて楽しい連中がビビの家に集結するのだろう。そしてどんな大豪邸もどんちゃん騒ぎのるつぼと化すのだ。 ビビちゃん…二人でディナーじゃなかったのお? なんて、への字に唇を結んで八の字に眉を垂れたサンジの顔が思い浮かんでしまい、ゾロは思わず吹き出しそうになった。―――なんてことだ。いや、なんて顔、だ。想像できるから困る。 当たり前だ。ゾロはサンジの犬なのだ。サンジの百面相なんて目に焼き付くほど見尽くしている。それにどんなに喧嘩したって、本当に嫌えるはずがないし。むしろ、ゾロはサンジが好きだし。そう、普通で、自然なことなのだ。 飼い犬が飼い主を慕う。ごくごく自然なことでしか―――ない。 だからサンジの行動にむ、っとしたり、ましてや制限なんて出来るはずがないのである。 サンジはゾロの飼い主であって、ゾロはサンジの飼い主ではないのだから当たり前だ。 (面倒なもんだな。色々考えるってのも) 下手に犬にも人間にもなれるから、どっちの思考も本能もごっちゃになりそうで困る。 (―――仕方がねえ、謝るか) なかなか自分からは本心を切り出せない、妙に捻くれたところがあるし。いっつも極端なほどかっとんだアクションを起こすのはサンジのほうだけれども、大事なときはゾロだって動かなければならない。 「謝るのか?」 嬉しそうに黒い瞳でルフィが笑う。たしぎが書類とにらめっこしながら、えーと、こっちの一升はァ、と仕入れ確認をしているのを見ながら、おう、とゾロは頷いた。 「そっかー! サンジ喜ぶな! かわいいぞ」 「―――あ?」 奇妙な言葉を聞いた。ゾロが目を瞬かせると、ルフィはもう一度「サンジってかわいいだろ?」というのである。 「だってサンジ、ロロの写真をこっそり見て、にへーって笑ってるんだ。かわいいぞ」 「俺の写真?」 「ちげえ。ロロの写真だ。ゾロの写真じゃねえ」 いや、そりゃあ俺の写真でもある。うっかり言いそうになって、ゾロは口をつぐんだ。 (変な奴) もう、マブダチ連中には大の犬フェチというのはバレているらしいけれども、かっこつけたがりなサンジはクールな自分をアピールするのだ。 そのくせ写真だって? もしかして無理矢理あんなポーズやこんなポーズをさせられてシャッターをバシバシ切られたときのやつだろうか。犬のゾロは随分憔悴して、もう勘弁してくれの意味をこめて尻尾をおしりに隠したくらいだ。 「あいつが、かわいい?」 可愛いっていうのは、サンジがゾロに対して使う言葉だ。 かわいいかわいい、おれのゾロ。 サンジも、可愛い? ―――サンジが可愛い? これ以上ないくらい、サンジははしゃいで楽しんだ。ビビが目を丸くするくらい浮かれていたんだと思う。 女の子が大好きだ。ああ、ビビちゃん。なんて愛しいんだろう、きみは。 誕生日を迎える年下のレディは、これでまた大人の階段をひとつ、のぼる。 久しぶりに本格的に腕をふるった。ネフェルタリ邸の厨房はまるでレストランが一件まるごと入ったかのような立派なつくりで、調理器具も有名所がずらり並んで料理人魂が疼いたものである。 食器もカップもシルバーも、テーブルナプキンに至るまで上質のもので、いつも狭苦しい台所(そう、キッチンと呼ぶには申し訳ないほどの台所)で調理しているサンジにはまるで夢のようなひとときでもあった。 「サンジさんのお料理が食べてみたいです」 恥ずかしそうに言ったビビは、サンジが時折作ってくるお弁当やらお菓子の、すっかりとりこになってしまったそうで。舌の肥えているであろうビビに褒められては有頂天になるというものである。 それなのに時折目の奥が重く、ずきりと痛んだ。 夕方にはナミも招かれて、淑女に囲まれてすっかり御機嫌のサンジである。慌てたようにルフィ・ウソップコンビが駆けこんできたときは一瞬まさか、と思い拳を握り締めたが、慎ましく登場したカヤと、彼女を迎えにいっていたビビの目付け役コーザが揃い、ディナーの時間になってひょっこり現れたエースが最後だった。 そうだ、来るはずもない。 (たしぎちゃんとデートなんだから) 自分がとんでもないことをしてしまったようで、顔に笑顔を張り付けたままサンジはぎゅっと手を握った。 (―――いや! ありゃあ、ゾロが悪ィ!) 確かにいつもはお母さんかお姑さんかというほど口うるさく言ってしまう。だって、ゾロは確かに人間になるとそりゃあフテブテしくて生意気で愛想がない野郎だ。思い出しただけであの時のかーっとなった気分が甦るが、それと同時に可愛い可愛い箱入りわんこ、なのだ。 なーんにも知らないちっこい狼犬のお世話をしたり、夜中ギンに見つからないようにこっそり散歩に連れていったり、いやがる子犬を無理矢理お風呂に入れてめくるめくバス・ロマンタイムを満喫したり頭を撫でたり体を撫でたり鼻にチュッってしたり口を思わずぱくっとしちゃったり顔に息を吹きかけてやんやん! って嫌がらせる顔がまた可愛いんだこれが肉球に指を突っ込んでぐーりぐりと…途中から思わずサンジの欲求と入れ替わってしまったが、とにかくそれくらい可愛がってるんだから、ちょっとくらいうるさくなってしまうのも無理はねえだろ。 「…だいたい! すぐ迷子になりやがるし、あんな…っ、あんなぷりちーなゾロが一人で出歩くなんて、攫われちゃったらどうするんだ!!」 可愛い子には旅させろ、なんて言葉、サンジには存在しないのである。 一見ちょっと体格のよろしい、けどあどけなさが至るところに残る子犬。しかも、人間になれちゃうサンジのわんこ。 「―――今まで…かまい過ぎたかな」 溢れて溢れてとまらない愛情で、猛突進されることに、ゾロは慣れてしまっていたんだろう。 でもサンジが勝手にぎこちなくなったり、些細なことに大げさなまでに反応したりするから…距離を置いてしまったから、突然の態度のかわりようにゾロだって戸惑った筈だ。勿論本質的なサンジのフェチは治りようがないけれども、早く違うことに熱心にならないとなんだか。 なんだか、全部持ってかれてしまいそうで。 料理に夢中になってると、それに集中できるし。 女の子とお話していると、あんまりに楽しくて時間を忘れるし。 でも3分に一回の割合で愛犬のことが過ぎるなんてどうかしてる。しかもわんこなロロだけならいいのだけど、人間バージョンも思い出すなんてどういうこった。 「…どっちも、ゾロだから、一緒にいたって、おかしくねーし!」 うん。やっぱり、結論としてはそういうことになる。 だけど納得したはずなのに、人間も犬もひっくるめてサンジのものなのに、まるで自分を誤魔化しているような感じがする。そう、直視するのを拒んでいる。自分の中に不自然さが存在する、それをわかっているのにどうしても真っ直ぐ向かい合えないのだ。 ビビとのデートが―――彼女の誕生日を祝うことで、何か変わればとちょっとだけ期待していたのかもしれない。 自分のペースを取り戻したくて、自分でも笑ってしまいそうになるほどテンションが高くなって、そうするとゾロなんか日常の一環だ。いつも傍にいる存在より、ビビちゃんに集中だ。勿論レディが最優先だ。 朝起きて、いつのまにかゾロの首に手を回して、キッスの雨を降らしていたのが絶対に尾を引きずっている。 (あんまりかまっちゃ駄目なんだ) (ふつーにしよう。じゃねえと変だ。ゾロだって変だって感じてる) (…普通に、普通に) でも、普通ってなんだろう。 ふつうが、変になった。普通なはずなのに、普通じゃないだなんてどうしたらいい。 「…ヨメ…」 サンジがビビとデートだって浮かれるように、ゾロだって誰かとお付き合いするかもしれない。 ゾロの子かあ。かわいーだろーな。ころっころした丸っこいのが、何匹産まれるんだろう。あれ、それってやっぱりお付き合いは犬のレディか? いや、でも奴は油断ならねえ。人間になれるし、なによりいつのまにかあんなに可愛いたしぎちゃんとお知り合いになってさっさとバイトも決めてきやがって―――おれの断りもなしに、ほいほいエースやルフィについてくし。 ぎゅうっと握った手が痛い。頭も痛い。胃のあたりがじんじんする。 「クソッ! おれが、ご主人様だぞ…っ」 そこにいてくれるだけで幸せ。それがサンジが今まで犬に対して思ってきた無条件の愛情の理由だったのに。 「―――サンジ?」 凍り付いたまま黙っているサンジに、エースが顔を覗きこんでくる。人懐こい笑顔はこの兄弟の最強の武器だ。 「どうしたんだい」 にこにこして、優しくて、包容力もあって、 「いや、なんか」 思わず口から飛び出した言葉は、サンジをも仰天させた。 「エースに絶対、負けたくねえ」 (あれ、おれ、何いってんの) 「あいつは、エースにすげえ懐いてるし」 (いや話が唐突すぎやしねえか) 「いつだっておれ以外のやつと、いつのまにか遊んでたりするし!」 しかも今日は、女の子とデートしてやがる。 「あれま」 何だか突然サンジに負けたくない宣言をされたエースは、動揺しているのかいないのかわからない返事で、よいしょとテンガロンハットをかぶり直した。 「―――今日も寒いよなあ」 「…あ?」 「外。ほれ、雪降ってる」 「…雪…」 「寒い寒い! コート持ってきて正解だったなあ。俺ァ暑がりだから上着はあんまり持ちたくないんだけどな。 ………腹減らして待ってるんじゃねえ?」 にっこり底の知れない笑顔が言う。 「フルコースもうまかったけど、今度は特製の鍋が食いてェなあ。今度白菜担いでお邪魔するから、その時は宜しくお願いします」 弟も持参いたします。ぺこりと丁寧に頭を下げて、エースはぽかんとしているサンジの背中を押した。 「はーい! 雪降ってきたし今日は解散しような〜。プリンセス、今日は御招待ありがとう。ナミちゃん、送るよ。ほら、ルフィ、ウソップも! おめえらテーブルの上で皿回しはやめねえか。お兄ちゃんそろそろ本気で対抗しちまうぞ〜。火ィ噴いちゃうよ〜。あっ、執事さん、スイマセン。この残った料理、お持ちかえりできますか? あ、タッパーは持参しているんで。おかまいなく」 早く行け、と笑ってる目が指示してきて、サンジは慌ててマフラーを掴んで勢い良く飛び出した。 夢中になって走ったけれど、ゾロのように迷ったりしない。 自分の家くらいどこにあるかわかる。サンジまで迷子属性だったら、ほら、一緒に家に帰れないではないか。 「てめえは―――ゾロじゃねえ、とか」 自分が言ったんだ。この口で。 家の前の道に立って、そこから先へ進めないでいる。明かりが―――部屋の明かりがここからじゃ見えない。道路がうっすら白く染まってきていて、肩や手がぶるりと震える。まだ2月になったばかり、寒さは紐解けない。 「…はは、裸足で歩いてたよな、あいつ」 丁度、今サンジが突っ立っている街灯の下あたりで、あの緑頭は振り返った。 下駄を買ってやると酷く気に入ったらしくて、秋も深まった頃まで履いているものだから慌てて靴屋に連れていった。そういえば寒くなるまで作務衣も着ていたし、本当にしょうがない犬だ。 また。 また、もっかい、じゃあなって言われたらどうしよう。 それより階段をあがるのが怖い。帰っても家に誰もいなかったら? 電気が消えていたら、ああ、なんだ、しようがねえ野郎だ、もう寝ちまったのかなんて狭い部屋を見渡しても、ごまかしようがないじゃないか。 「…ホントにヨメさん見つけてきたら」 喉の奥に骨が刺さったみたいだ。 困る。だって、おれはご主人様だから。愛犬のヨメさんも勿論明るくお迎えするさ。ちゃんと子犬の…子犬かどうか疑問は残るところだけれど、面倒だって見るし。だってサンジは犬に関してはそこらのマニアにゃ負けない自信がある。 「…―――っ」 階段を一歩、また一歩、上がる足が重い。 まるで鉛を引きずっているみたいだ。いつも帰るのが待ち遠しかった家なのに、犬がいる、心のオアシスが尻尾を振ってお迎えしてくれる小さくて狭いが楽しい我が家。 「…………ゾロ」 「わん」 玄関のドアの前で座っていたゾロは、人間のまま笑った。 「鍵がねえから入れねえ」 「…隣ンちで待ってりゃいいだろ」 ジョニーとヨサクはゾロをアニキと慕うほどの懐きっぷりだ。頼めば入れてくれるだろうに、と思って、サンジはゾロが帰るつもりだったのがわかってぎゅっと下唇を噛みしめた。 「………」 「………」 「…なんか言えよ」 居心地の悪さにサンジは身じろいだ。ゾロがじいっとサンジの頬を直視しているせいだ。 「可愛い」 「…は…?」 思わず茫然と聞き返したのは、目の前の無愛想な男が淡々とそんな不似合いな言葉を発したからだ。 「お前はかわいい」 「ってあいつがいってた―――ルフィが」 サンジは笑うとき、容赦なく笑う。 げらげらと下品に、あっけらかんと、容赦なく笑う。 ああいう笑い方をゾロは好ましく、また気持ちよいと感じる。 斜に構えた粗暴な振るまいも、女や動物に対する過剰なまでの愛情表現すらも何だか許してしまいそうで、時々おっかねえと思うのだ。 そういうのを思い出すと、ああ、そうか。 確かにかわいい、と思う。 「躾の悪ィ犬で悪かったな」 だけどサンジだってしつけられないと駄目なときだってある。 後先考えずに言い放って後悔して、青褪める顔はもう見たくない。いつもアホみたいに笑ってるほうがずっといい。 「飼い犬に手を噛まれるっつーんだろ。こういうの」 やるな、って言われたことをやる必要だってあると思う。 「解れよ。俺の家は、てめえだぞ」 思いきり人間の姿で抱きしめたらサンジは怒る。やるなっていっただろ! って、悲鳴に近い声をあげる。 ぐっと頭を引き寄せると、サンジの耳朶が頬に触れた。ひどく冷たい。お互い冷え切っているが、ゾロのほうがまだ体温が高いぶんましなんだろう。 (―――変な感じだ) ご主人様の命令に逆らって。 「…もうしねえから」 「だから変なタイドとるな」 「俺とは言葉が通じるのに、どうしててめえはそれを、伝えない」 「…だっ」 だめだ、と小さな声がいう。びく、と震えた肩をむりやり掴んで、引き寄せた自分の腕をまじまじ見詰めた。 折角ゾロが喋れても、サンジはコミュニケーションを拒んでしまう。 どこまでも拒んでしまう。 「―――わん」 悪かった、の意味をこめて頭を撫でてドアに手をかけた。 サンジはぎこちなく、慌てた様子で鍵を探す。 「…あっ………の、よ」 「…?」 言わなければいけない。今言わなかったらサンジはきっと後悔する。 「―――悪かった。な」 「…」 喉で笑ってゾロは首を振った。 「―――…え?」 早く開けろ、のゼスチャに、サンジはもう一度、え、と繰り返す。 「ま、待て…ゾロ?」 「…」 「なんだよ、フテ腐れてんのか?」 「…」 なにが、と肩を竦める。寒そうに肩を震わせて、早くしろと目が言う。 「―――なんで喋らないんだよ」 ゾロは口を開いた。何事か、ぱくぱくと動いて言っているようなのに…音がでない。 声になっていない。 「嘘だ」 ゾロの声は、その日を境に消えた。 |
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◎つづく。 | |||||||
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