+ be concerned +


 昼過ぎから姿を見かけない。
(もーっ、どこ行っちゃったのかしら……)
 狭い船の中だ。見つからないはずがないと思っていたのに。
 最初に何処にいったのだろうとナミが思ってから、二時間が経つ。思い立った時に心当たりを探してみるものの、一向に見つかる気配がなかった。
「ねえビビ、ルフィ知らない?」
 甲板でカルーと戯れていたビビにそう尋ねる。
 振り返って目を丸くしたビビは、首を横に振って否定した。
「見てないわ。ナミさん、どうかしたの?」
「うーん……。姿が見えないのよねぇ、ずっと。ちょっと気になって」
「そういえば……私も今日は見かけてないわ……。どこ行ったのかしらね?」
「誰が?」
 女二人で首を傾げていると、ウソップとチョッパーが階段を降りてやってきた。
「ああ、二人とも、ルフィ知らない?」
 ナミが同じ事を尋ねれば、二人揃って顔を見合わせ首を傾げる。
「いや、そういや見てねェな」
「おれも見てないぞ」
 これで、我が船の船長の姿を見てない者が、四名になった。
 普段ならばメンバーの全員が何度姿を目撃するかしれやしない人間だ。騒々しく船内を走り回り常に動いているから視界の隅にどうしても入る。
 それが四人もの人間が姿を見ていないというのだから異常事態である。
「……どうしちゃったのかしら」
 ナミがつぶやけば全員の眉がしかめられる。
 それぞれが能天気な船長の笑顔を思い浮かべる。よもや、海に落ちたのでは……。
「……もうちょっと、よく探してみるわね、私」
「おお。おれらも見かけたら教える」
 不安を振り切るようにナミが提案し、ウソップが応える。それに他の二人も同意し頷いた。
(ほんとに、どうしちゃったんだろ、ルフィ)
 不安で、堪らなくなった。








 サンジもゾロも、ルフィの姿を目撃してはいなかった。
 これで船内にいる全員がルフィの姿を見ていないことになる。さすがにここまで来るとナミも怖くなり、駆け足で船内のあちこちを走り回った。
 お気に入りの場所にも、どこにもいない。
(まさかほんとに落ちちゃったんじゃ……)
 それならば救いようもない。冷たい海に沈んでいくルフィの姿が頭に浮かび、ぞくりとナミの背筋を悪寒が撫でていった。
 暗く、下向きになっていく気持ちに、目に涙が浮かぶ。
 それを振り切ろうと慌てて上を向き、どこまでも青い空に視線を向けた。



 ――――目を、瞠る。



 風になびいて、陽を覆う。

 きらりきらりと反射する。

 淡い色合いの麦藁帽子。



 途端にこみ上げた怒り任せにマストのてっぺんの見張り台まで駆け上がった。
 ぐうぐうと。
 人の気も知らないで気持ちよさそうに寝こける船長、一名。
(あきれた……)
 散々心配をかけておいて、ずっと知らん顔で寝ていたのだ。こんなところで。
 誰にも何も言わないままに。
 ナミにすら居場所を言わないままに。
「……勝手、なんだから……」
 一向に目覚める気配のない無邪気な寝顔に怒る気もうせた。
 指を伸ばし、さらりと流れた前髪に触れる。規則正しく上下する胸と時折唇から漏れるいびきに苦笑した。こんな顔を見せられたらどうあっても怒れやしない。

「ずるいなあ、もう」

 あんなに、あんなに、心配させるなんて。
 こんなにまで想わせて、ずるい。

 想うばっかりで、どうしようもない。

「ルフィ、ルフィ起きて」
 細い腕をルフィの胸に置き揺さぶって声をかける。そう簡単に起きないことは知っているから、力を少し強めにして身体を揺らした。
 それでも瞼は開かない。
「ルフィ?ねえ、起きてったら」

 あんまり私の手を煩わせないで。
 ちゃんとわかってるんだから。

 ――――あなたがとっくに目が覚めてることなんて、ちゃんとわかってるんだから。

「ルフィ?起きないと、置いてっちゃうわよ」
 頬を撫ぜる手を大きな手のひらに掴まれた。強くもなく、けれど決して離さない意図を持って、ナミを拘束する。
 ルフィの瞳がゆっくりと現れ、黒い光彩にナミを映す。
 太陽より強い輝きがナミを包んだ。
 魅入られて動けない。
 振り払えない手首が熱をもっているような気がした。
「……おはよう、ナミ」
「おはよ、ルフィ。……まったく、何でこんなとこで寝てるの?」
「んん。気持ちよさそうだったから」
 ナミの腕を掴んだまま、器用にルフィは起き上がる。片手で目をごしごしとこすり、改めてナミに視線を向けた。
 悪びれない笑顔で。
 にっと笑って、麦藁帽子をナミの頭に乗せる。
「探しに来てくれたのか?」
「……姿見えなかったから、心配するの当たり前でしょ」

 凍りつくような恐怖すら。
 この胸を流れて消えていった。

 ルフィの首に腕を回す。肩口に額をもたせかけて首に擦り寄った。
 あたたかい。
 此処にいる。此処に在る。
「……ナミ?」
 ルフィが不思議そうに耳元で名前をつぶやくのが聞こえた。ぎゅっときつく首を抱きしめる。
 やがて、背に回された腕がゆっくりと宥めるように動くのがわかった。
「ルフィは、ずるい」
「ん?」
「ずるい……」
「なんで」
「ずるいわよ」
「なんで」
「ずるいわよ……」
 ルフィの肩越しに見える景色は悔しいくらい快晴だ。海は静かに凪いでいる。


 あなたがいてこそ、綺麗な世界。
 あなたがいなかったら灰色のままだった。


 だから、心配させないで。


「……ナミ、今度は一緒に昼寝しような!」
 ししし、と笑ってルフィが言った。
 ふ、と唇に苦笑が零れる。
「こんな高い所じゃやぁよ」
「いいじゃねェか。気持ちいいぞ?」
「落ちるの怖いもの」
「だいじょうぶ!おれが捕まえててやるから!」
 根拠のない自信でナミを持ち上げるルフィがいとおしい。
 そうしてナミの手を取ったまま、降りよう、と引っ張ってきた。


 これだから、ルフィはずるい。


 ナミたちが心配することもお構いなしにルフィは前を向いて走るのだろう。
 勝手に。我儘に。
 けれど誰より仲間を想う心で。

 どこかナミの知らないところでルフィが死んだとしても。
 文句すら言わせてもらえないだろう。


 けれど。
 それでも、どうしても。


 ルフィには敵わないのだと、引かれる手を見つめ、ナミは思った。



また奪ってしまいました。(頬染)
■というわけで、愛すべきかつにっくき(どないやねん)宿敵でありマイハニー、由基淋野ことゆきから掻っ攫いました。むしろ拉致です。えへへ(おい)
■もう彼女のルナミは夫婦の域に達しているようで、恋人の甘い感じもさせつつ、未満友達以上というスペタクルさがあって、可愛い彼女のSSがわたしは大好きなのです。自分が可愛いラブが苦手なのもあってすごく憧れる…むしろねたましい…おのれ!!ゆっきー!!(逆ギレ)

■ゆんちゃんのサイト
[WATER BLUE]はWJ系(テニスの王子様:ドリーム小説、ONE PIECE:ルナミ・ゾロサン(笑)、NARUTO:サスナル)セラフィムスパイラル(御神薙&暁人)などを中心に小説・CGなどがあります。是非遊びにいってみてくださいね!


02/04/08

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