+ 永遠に青 +




なんて呼べばいいのだろう。

今更名前を呼ぶなんて、ちょっと照れくさい…。
いやでも、いつまでもあんな呼び方ではなんだか悪いような気がする。


だけど、きっといつまでも私は彼をこうやって呼ぶの。



「Mr.ブシドー」


 振り向いた彼の顔は、たった今起きました、みたいに眠そうな顔をしている。
 ああ、今まで寝てたのね…。
 彼はいつも気がつくと寝ている。
 食べている。身体を鍛えている。そのどれかしか、私の記憶には残っていない。

「――んぁ?なんだ、どうしたビビ?」
 はじめて彼のこの「寝起きの顔」を見た人は、きっと震えあがるんじゃないかしら。
 だって…かなり凶悪…。
 進む船の甲板で、彼の姿を見つけた時私はつい声をかけてしまった。

 どうした?
 そう聞かれてちょっと戸惑う。
 実は…別に彼に用があった訳ではないから。

 視線をさ迷わせて、どうしようか考える。
 良く晴れた海上は、とっても気持ちが良いですね、とか?
 これだけ気持ちがいいと、眠くなりますよね、とか?
 良く寝ますね?とか?―――バカじゃないの?私!!!

 言葉通り、気がつくとその名を呼んでいた。
 『名前』ではないのだけれど、私は彼をそう呼ぶことになれてしまった。
 私は、この呼び名は嫌いではない。
 ただ――彼は私がこう呼ぶことに対して、もしかしたら不快感を持っているかもしれない。


 そうだ、聞いてみればいいじゃない。
 って…聞いたからどうなる事ではないんだろうけど…気になるし。
「あの…えっと―――」
「? なんだ…忘れちまったのか?」
 にやり、と意地悪そうに笑う顔がなんだか嬉しくて、一人で考えていたことがすっと溶けてなくなる感じがした。
 この船の人たちはみんなそう。
 どこか安心できる表情をする。
 ああ、この人たちなら信用できる…そんな感じ。
 彼の、あの凶悪そうな表情ですら、私にはとても力強いものに思える。
 この人たちなら…一緒に国が救える―――なんて確信に近い安心感があった。

「あの…私が――」

「ゾロ―――!!!」
 口を開いたとたん、後から大きな声がした。
 とてとてとて、と大きな帽子をかぶったチョッパーくんが走ってきたのだ。
「おー?なんだ、チョッパーまでオレに用かよ?」
「え、あ!ごめん、ビビが先に何か聞いてたんだ!オレは後で――」
 くるりと方向転換して帰ろうとするチョッパーくんを私は引き止めた。
「ちょっとまって!私ならあとでいいから、チョッパーくん先に聞いた方がいいわ。私のは――たいしたことじゃないから」
 小さく手を振って、そうチョッパーくんに言った。
 チョッパーくんは、オーバーリアクションで遠慮していたが、それじゃ、と何やら彼に質問をしていた。

「あのさ、たとえば――――――――」

 彼らの話しを聞かないように、少し離れたところへ腰を下した。
 そこから見える青い海は相変わらず穏やかで、ゆるく揺れるこの船はさしずめ大きなゆりかごか。
 白く盛りあがる雲や、遠くに舞う鳥の姿。
 すべてがとても平和に見える。
 でも―――
 この青い空の下―――私の愛する国が…人が…今も少しずつ削られている…。
 早く、速く。
 早く辿り着かないと、すべてが砂に埋もれてしまう。
 ――だめ
 おまえの国はどこにもない。
 ――やめて
 無駄ナドリョク…

「おいビビ!!」

 ガクっとした衝撃で、目が覚めた。
 たぶん少しだけ眠ってしまったんだ。
 そして、この身体の緊張と震え。
 おそらく愉快なものではない夢でもみてしまったんだろう。――手が震えていた。

 目を上げると、目の前には彼の顔が。
「―――あ…」
「――大丈夫か?」
「ごめんなさい…ちょっと、寝てしまいました…」
 なんの夢をみていたんだろう…覚えていない。たかが、何秒か前の話なのに…。
 額に手を当てると、汗をかいていた。
 イヤな夢だったらしい。

「で、なんだ?」
「え?」
 目の前にいた彼が、私のとなりへ腰を下してちらりとこちらを見た。
 どきっとして、一瞬何を言われているのかわからなかった。
 戸惑っていると、ふっと笑みをこぼして壁に寄りかかる。
「何かオレにいいたいことがあったんだろ?聞いててやるから言ってみろよ。闘い方か…?それとも――」
「あのッMr.ブシドー!!」

 自分でも驚いた。
 もちろん彼もビックリした顔をしていた。
 なんせ、思いもよらない大声でその名を呼んでいたから。
 一瞬あっけにとられた彼は、次の瞬間爆笑した。
「――っはっはっは…そ、そんなにリキむほどのコトなのかよ?おもしれぇやつだな、あんた」
 クックック・・とまだ笑っている。そりゃ…確かに自分でも変だと思ったけれど、そこまで笑うことかしら!?
「もう!そこまで笑われるとは思わなかったわ!――改めて、あのちょっと聞きたいんですけど」
「――ああ、悪ィ悪ィ…ちゃんと聞いてやるから安心しな」

「私が、あなたを『Mr.ブシドー』と呼んでて…いやじゃないですか?だって、あなたにはちゃんと名前があるのに…私だけそんな呼びかたして…ご迷惑なんじゃないかと、思うんだけど」
 最後は徐々に声が小さくなるのを自覚した。
 こんなこと答えてもらっても、たとえば「いやだからもう呼ぶな」とか言われたら、私はその時ちゃんと名前で呼べるか自信がないのに。
「――何を言うかと思ったら…そんなことか。別にいいんじゃねぇの?」
 かちゃり、と刀を鳴らして隣の影が立ちあがった。
 え?
 そんなことか、ですって?

 ちゃんと聞いたのに、そんな言い方ってない。
「そんなことって…私は真剣なんですッ!あなたが不快な思いをしていないかが気になって仕方なかった。いやならいやって、はっきり言ってください、じゃないと…私…」
 憤りつつ、ふと見上げた先に口の端を上げた彼の姿があった。
 また、心臓が一つはねる。
「何言ってんだよ。だから…さっき言ったろう?」
 そう言いながら、彼は私にすっと手を差し出す。
 その時、青い空を背に立つ彼が、世界で一番頼もしく見えた。


「―――迷惑じゃねぇよ」
 笑った。


 命を預けてもいいと思ったそれを、私は手を伸ばして捕まえた。
 引き上げてくれた力に、私は言い様のない感情が込み上げてきたのを感じた。

 
 彼に許しを得たことで、私はこれからきっと一生、彼のことは「Mr.ブシドー」と呼ぶだろう。

 たとえ、離れてしまったとしても。
 きっと…
 きっと…





■大好きなお友達、うつふし誼ちゃんからいただきました!ゾロビビ―――ッ!
■わたくしが書けずに煮詰まって踏んだり蹴ったりで、書いてくれよう!!と駄々こねてたら、「短くなっちゃうかも…」といいつつ書いてくださいました…!うわん!よしみちゃん、愛してるっ!!!(がばあ)←襲?
■ゾロビビは愛しくて愛しくてなかなか書けません(どないやねん)わたしも頑張ってかこうと思います!ウッス!
■素敵なSSをありがとうございました!


■よしみちゃんのサイト
[G85]はWJ系ONE PIECEを中心とした、小説・CGイラスト中心のサイトです。
ONE PIECEはイラストがありますよ〜vv 是非遊びにいってみてくださいね!


02/04/04

戻る

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送