* FLOWER of SUGAR  *

 冬の話、雪の話をすると喜ぶのは勿論冬島生まれのチョッパーで、また反対に比較的温暖な気候のフーシャ村で育ったルフィなどは雪の憧れが強く、大口を開けて笑い、唾を飛ばすほどの勢いをつけて喋るものだからナミとサンジに叱られる羽目になる。
 とにかく、ランチタイムの終わったゴーイング・メリー号の今日の話題はその可憐な「雪の花」のことで、チョッパーが言うには雪の結晶を顕微鏡で見ると緻密にして正確性のある美しいカタチをしていて、しかもいろんなカタチがあるという。
 ルフィはそれを聞いて目を丸くして、次に「あーッ!」と叫ぶ。
「な、なに? ルフィ?」
「しまった! 冬島でちゃんと見とくんだった!! 雪の花!!」
 あんなに手に持ってじっと見たのに見れなかったと悔しがるルフィに、クルー達は笑った。
「確かに肉眼で見れるひともいるみたいだけどね」
「いや、てめえなら細部に渡って見れただろうに、惜しかったなァ、おい!」
 地団駄踏んで、心底惜しんでいるらしいルフィに対し、“優しいコック”のサンジは咥え煙草のまま器用に笑う。
「んじゃあ、仕方ねえ。雪の花はムリだけどな」
 ミルクパンを片手に料理人の手が無駄なく綺麗に動いていく。手の軌跡を暫く追っていたルフィだが、やがて甘い匂いがたちこめてくると嬉々として椅子から立ちあがる。
「うほー! サンジ、おやつか!?おやつか!!」
「興奮すんな、クソゴム」
 あしらいの巧いサンジはトロリと艶やかに濁ったその液体を丹念に混ぜて溶かしていく。
「へえ、今日のおやつは何かしら?」
 ナミも海図を描く手を止めて、にっこりする。
「はーい! ナミさんっ! …お答えしたいのですが、どうか、今しばらくお待ち下さいますよう…」
 突如としてメロリンラブコックが登場したところで、甘い匂いをかぎつけたウソップがキッチンに飛び込んでくる。「おお! おやつかあ〜!?」


『うわ〜あ!』
 歓声は決してお世辞でもおなざりでもなく、本心から溢れたもので、サンジは上機嫌でニッと笑う。
 菓子職人がやるような神技は、自称オールマイティコックにかかれば見事なもので見る間に不透明で少し向こう側が見えるような飴が姿かたちを変えていく。
 練り飴で拵えた細工は色味を加えられて彩りをかえる。職人魂に火をつけられたのはアーティストなウソップは勿論、その場にいた連中もみんなそうで、たちまちキッチンは俄か職人の集まりになってしまった。
「見ろ! ウソップスペシャル飴細工編・琥珀の女神だ!」
「おっほ! なかなかやるじゃねえか長っ鼻!」
「おれも出来た! にく!! しかも骨付き!」
「あんたそればっかなの!?」
「あ、ナミ。それ可愛いなあ。…わあ!カルーだ!」
 チョッパーが指差したのは親指くらいの大きさのカルガモ隊長の凛々しいお姿!
「これくらいだとまるでお人形みたいで、可愛いわよね〜」
「んなッ! ナミさん、さすがです!」
 そして飴細工作りは出会った人々や動物達をモチーフに作ることになって、
「サンジ、これはだれだ? 頭が長い…」
 チョッパーが首を傾げるとサンジが笑う。
「アァ? そりゃあウチのジジイだ。ついでにそりゃあコック帽だ。
 チョッパー、お前の作ってるのは?」
「えへへ。ドクトリーヌと…ドクターだっ!」
 はにかむ船医の隣でナミは正面のウソップを見てニッコリする。
「あ〜ら! ウソップ〜? それってカヤじゃないの〜?」
「うぐッ! お、お前は誰つくってんだ!?」
「ビビよ。うっふっふ、可愛いでしょ〜?」
 ウソップが僅かに肩を揺らせばナミがニヤニヤし、慌てて狙撃手は、珍しく熱中したように…しかもおとなしく細工を作っているルフィに声をかける。
「ルフィ、いっぱい作ってンなあ! ってこりゃなんだ…?」
「おお! みろ、ウソップ!」
 頬を紅潮させた船長は意気揚揚と叫ぶ。
「これがマキノで、これがシャンクス! これが犬で、これはガイモンさんだ!」
「んん!? こ、こりゃ人間なのか?」
「しっけいだな、お前! しっけいだな!」
 絵の下手なルフィは芸術面自体がからきしらしく、飴細工もみょうな物体Aに化している。

「おーっしゃ! 出来たぁ!!」
 サンジの大作―――飴細工の極みともいえるような、美しい琥珀の船が完成したところでクルーからの絶賛の声があがる。デザインを考えたウソップも興奮したように笑い、チョッパーは思いきり溜息をついた。
「うわあ。なんだか、身体中から甘い匂いがする!」
「いろんな種類を作ったからなあ…マジで頭がくらくらするぜ」
「腹もいっぱいになった!」
「そうね、しばらく甘いものはいらないわ…!でも、面白かった! 食べ物で遊ぶなんて船ですべきことじゃないけどね」
「ナミ、遊んだんじゃないよ。確かに楽しかったけど!」
 チョッパーはエッエッエと笑う。
「しあわせになったんだ!」



 物音がしなくなった頃合に、甲板で思いきり寝ていた剣士はむくりと起き上がる。
「ん…。騒がしくなくなったな」
 くあ、と大きく口を開けて目をこすりながらキッチンへと近づくと、微かに甘い馨りが鼻孔をついた。
「なにやってんだ―――…お?」
 扉を開けると、全く呑気なことにクルー全員が頬に、手に、粉や飴をつけたまま寝こけているではないか!
「おいおい、呑気な連中だな…。進路は無事なのかよ」
 さんざん寝ていたゾロが言ったら猛抗議がきそうなのだが…ふと視線を動かすと、可愛らしい飴細工たちが仲良くテーブルの上に並んでいた。
「…」
 つまみあげると何処かでみた連中に似ていた。しげしげ眺めるとどうやら自分らしき小さな飴人形もある様子!
「…ん」

 その中で懐かしいものを見付けた。
 陶器の皿に入った小粒の飴は…あるいは砂糖のかたまり、といったほうがいいかもしれない。
 小さな小さな、砂糖の花。
 ゾロは知らなかったが、これこそサンジがルフィたちのために作ってやった最初の飴細工…「花」なのだ、と。
 雪の花には似ていないかもしれない。いびつで、どこか優しい形。
「こんぺいとう、だよな?」
 つまんで眺める。
 元来甘いものは好きではないはずなのだが、思わずひとつ口に含んだのは、幼い頃口に含んで転がした日を思い出したからかもしれない。
 まるで祭りの屋台を思い出す。色とりどりの鮮やかな、それでいて素朴な空気。

「…仕方ねえなあ」

 ふうと溜息をつき、ゾロはログポースを手に甲板へと戻ることにする。

 まだ、舌の上に甘い花の匂いが残っていた。


■トップ画用に描いた「ルヒ&サン&チョ」三人組のSSバージョン。クルー全員になってるあたりが不思議。んん。だってみんな好きなんだもん!
■ところでこれ書いててやっとイラストのスペル間違ってることに気づき申した。ああ!
■更にイラストのサンジが持ってる(浮いてるわい)「花」なんですが最初あじさい(6月だったので)のつもりで描いてて失敗ぶっこいてもういいや適当な花なのよ〜と思って完成させたあと「こんぺいとう」ネタを考え付いたのでぶっちゃけ言い訳です。ごめんなさい。こんぺいとうに見えなくてごめんなさい。
■しかしこの話もロロがいいとこもってっちゃったような。

02/06/19
イラスト版「こんぺいとう」はこちら

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