◎ 彼 女 ◎ |
「ロビン、この先の海域の状態は―――」 「そうね。貴女の言う通り、この場合は迂回して…」 船尾にて。 うとうととゾロが惰眠を貪っている最中に、二つの足音が近づいてきた。 ひとつは聞き慣れたナミのヒールの音。もうひとつは最近加わった新しい音…ショートブーツが踵を鳴らしてヒールと連れ立って近づいてきて、何だか面倒くせえなあ、とゾロは内心思う。 「あ。やっぱり」 何がやっぱりなのだかは知らないが、気持ちよく寝ているゾロを発見するとナミはしたりとばかりに頷いて、 「もう、いないと思ったら寝てるんだから! そんなに暇なら船の修繕とか、掃除とか、洗濯とか、わたしの肩揉みとかしなさいよ!」 (面倒くせえなあ) そう思ったのは間違いではなかった。確信をもってゾロは溜息をつき、むくりと身を起こす。 「おはよう、剣士さん」 ナミとゾロを面白そうに眺めていた彼女は、涼しげな目許を微かに和ませて微笑む。 かつてミス・オールサンデーと呼ばれていた彼女は、やはり女だからだろうか、ナミと良く行動を共にすることが多くなった。流石に長い年月、たった一人で、しかも上手く世渡りしてきたせいだろうか、この船の連中には持ち得ない貫禄と自信を持って言葉を発する。 つまりは、ほぼこの船の進路から財政までを引き受けているナミを補佐し、あるいは主立って意見を放つ…「頭脳タイプ」が強化されたとでも言えばいいのか。 (読めねェ女だ) 得体が知れないと思う。人生経験がゾロより上なぶん、感情も内心もやすやす読み取らせてくれそうにない。最もそんなロビンを見て、あの素敵眉毛なコックなどは身体をくねらせながら、「恋よ!」と大きく叫ぶだろう。「ああ、なんてミステリアスな女性なんだ〜!」 ゾロ以外の連中はすっかりロビンに懐いたり、結局なんだかんだで上手くやっていて、まともな感覚の人間はおれしかいねえのか、と―――口に出したらブーイングの嵐に会いそうなことをゾロは思う。 「ゾロ、パラソル広げるから手伝って」 「あァ?」 「だって船首のほうはルフィ達が遊んでるんだもの」 飽きれたようにナミが肩を竦める。 「ビーチバレーですって! そんなの、何処かの島についたらやればいいのに…無駄にひまなんだから。うるさくってこれからの計画を練ることも、海図を描くこともできやしない」 「…キッチンでやりゃあいいだろ。それかお前等の部屋で」 「こんなにお天気なのに、なんで部屋に篭ってなきゃいけないのよ! 電気の無駄使いになるし、だいたい今サンジくんは夕飯の準備をしてるのよ?!」 馨しいスープの匂いが気になって、とてもじゃないが集中できないと豪語するナミの隣で、ロビンがくすくすと笑う。 (ルフィと変わらないレベルじゃねえか) ―――と。これも口に出したらヒールで蹴り飛ばされるだろう。 「お嬢さん、でも剣士さんは寝ていたのだし」 私がパラソルを組みたてましょうか?なんてロビンの片手が花を咲かせる。 いつ見ても不思議な能力だが、ナミは首を振って、 「パラソルって結構重いのよ。運んでこなきゃいけないし、女の細腕じゃあ何本あってもたりないわ。それに、こういうのはこの男の仕事よ!」 「おい、勝手に決めるな」 「あんたにとってパラソルなんて、特注の重りに比べたらお箸みたいなもんでしょ」 「まあ、力持ちなのね」 (―――駄目だ。勝てねえ) 敗北はゾロを打ちのめすが、せめてこれが剣闘での勝ち負けでないことが救いである。 「もう、Mr.ブシドー、また寝てるの?!」 さて、出会いが出会いだったせいだろうか、最初はゾロを見て「恐ろしい」と認識していただろうビビも、すっかり慣れてきた頃には腰に両手を当ててそんなことを言ったものだ。 「甲板掃除するから、Mr.ブシドーも手伝って!」 「クエー!」 かのプリンセスの忠実なるカルガモ隊長の声も合わさって、とうとう昼寝を断念せざるを得なくなったゾロが渋々立ち上がると、モップを片手に明るい空色と同じ髪の彼女はにっこり微笑んで満足そうに頷くのだ。 「そうそう、寝てるなんて勿体ないわ!」 「おまえ、ナミに似てきたなあ」 「そう―――かしら…?」 でも、とっても光栄だわ!なんて笑っていた。 どうやらこの船に乗る女はとても一筋縄ではいかない宿命のようである。 パラソルを運んで、組みたてて、やっともう一度眠れると思ったゾロは襟首を何かに掴まれてつんのめりかけた。 「ちょっとまって、剣士さん」 「おまえ、その能力を宣言なしで使うなよッ!」 微かな気配しかしないせいか、ゾロはうまく、ロビンの「手」を把握できない。 「そう? それでもあなたは敏感なほうだわ。意識の端で私の手をとらえているもの」 年長者の余裕すらにじませて、ロビンは微かに首を傾げる。 「―――で、何だ?」 「お願いがあるのだけど」 「…は?」 まず、今までのニコ・ロビンという彼女は…やはり敵だったからというのもあるだろうか、控えめに一歩引いて見せていたし、不審な行動も見せない。どこか懐かしがるような、幼さすら感じる楽しげな眼差しでルフィやチョッパー達を眺める姿は慈母的ですらある。 彼女は頼みごとを言い出したりしなかった。この船に乗っていた、ルフィに仲間にしてくれと頼んだ、それ以来のことかもしれない。 「航海士さんがね、模様変えをしたいんですって」 「…模様がえ? する必要性があるのか」 「ベッドを動かして、本棚の位置を変えて、ぐらいだけれど」 船の個室は狭い。だが唐突に模様変えなど、何を言い出すのだろう。 別に壁紙を張っているわけでも、床にタイルを敷き詰めているわけでもない。まあ、気分転換したいというのなら別に力を貸すのを渋る理由にならないだろう。だいたいゾロが入らずとも、ルフィやサンジでも充分こなせる仕事だ。確かに馬鹿力のゾロなら、ひょいひょいと家具を持ち上げ、置くのにものの五分もかからないだろうけれども。 「…お願いできるかしら?」 「構わないけどよ」 がしがしと緑の髪の毛を掻いて、唇をへの字にしたゾロを穏やかに見つめて、 「多分、あのコ、淋しいのね」 「―――は?」 「航海士のお嬢さんのこと」 ふふと微笑んで、ロビンは目を伏せる。 「枕が二つあったわ。ひとつに青い色の髪の毛が落ちていたわ。マグカップが二つ、色違いで置いてあって。あのコが食べているのを見たことがない、お菓子が置いてあるの」 わかるでしょう、と言われて、ああとゾロも頷く。 「淋しいのよ。そして、新しく乗りこんだ私に対しても、とても気を使ってくれている。 あのお姫様も本当に勝気で、無謀で。…きれいな目をしていたわね―――」 ゾロは肩を竦めた。 「ビビが残ったのは仕方ねえことだし、あの国にはビビが必要だ。ナミもそんくらいわかってるだろうし、あんたとビビを比べるような馬鹿はしねえだろうよ。ナミも―――クルー全員だ」 「あら」 不思議そうに、ロビンは瞬く。 「Mr.ブシドーはわたしを警戒しているんじゃなくって?」 「まあな」 一体いつ、ビビがゾロをそんなふうに呼んだのを聞いていたのだろうか。もしかしたらウイスキーピークあたりで、すでに知っていたのかもしれない。 何だか妙に気が抜けて、ゾロは片手を振った。 「敵になりたきゃいつでもなれよ。でも、今あんたは仲間だ。それ以外の何者でもねえだろ」 「そうね」 ふふと笑うとあどけなくなる。 「文句言われねえうちに、とっとと行くか」 ナミが仁王立ちして怒るのを想像してゾロが急ぎ足になると、ロビンはゆっくり唇を綻ばせて、 「まあ。でもあのコ…あなたのこと、とっても、大好きよ?」 「やめてくれ」 ローンでも払えない、彼女達の「存在価値」には頭があがらない。 ("俺"でも無理だな。釣りもこねえ) (今のとこ)六千万ベリーの賞金首は振りかえり、真顔で言った。 「代償がデカ過ぎる」 |
■ノベルアップのサイクルが早いっつーことはそろそろ限界か。(ヒィ) ■ロビンちゃんネタ解禁1発目。「彼女」です。タイトル何となく。 ■ゾロロビなのかなあとも思いつつ。でもゾロ←ナミ大好きでゾロビビも萌えちゃう節操ナシなのでどうせだったら闘え!ロロノア!みたいな。(?) ■七夕が長めだったのでこのお話は散文のようだ…。 ■自分で書いておきながらアレですが、まるでロロノア、ビビちゃんと付き合ってたみたいに見える。 02/07/10/11UP |
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