* Festa *

 
 出会いがありました。
 ならば、別れもあるのだということ。

 何故、そんな簡単で当たり前なことに今まで気づかなかったのでしょう。

 でもね、忘れない。
 忘れない。

 あなたたちと掲げた大きな花火。
 二度とこない歓声。
 悲しみ。
 涙。
 輝き。
 闘い。
 
 ―――光。

 毎日が、お祭りみたいに輝いていた。
 

* * Festa * *

「ビビ、そっち行ったわよ!」
「えっ!」
 ぐすぐすと鼻を鳴らしながら逃げ惑うのはチョッパーだ。
 人間トナカイの彼は、人間にしてみれば微香料程度の液状石鹸でも、鼻孔を刺激するらしい。
「うわああ〜ん! 風呂なんか嫌いだ!」
 くしゅん、くしゅんと何度も気の毒なくらい飛びあがって、泡だらけの足で甲板を逃げ回り、ナミ、そしてウソップの手を逃れている。
「うほほー! おっかけっこか!」
 まるで新しい遊びを見つけたかのようにルフィが飛びあがり、
「あちゃあー。誰が掃除すると思ってんだよ」
 クールに煙草を咥えたまま、ビビの隣に立ったサンジがやれやれと惨状を眺める。
「プリンセス、ここは一つこの僕にお任せあれ」
 おろおろと、チョッパーを掴まえる手を出すべきか、考えあぐねていたビビに紳士的なコックはにっこりするのだ。
「…ま、飯どきのクソゴムに比べりゃ可愛いもんだ。…おい、チョッパー。お前頭になんかついてるぞ?」
「えっ」
 正直者で純粋。疑う事を知らないチョッパーは素直に両手をあげて、バンザイする。
 そうして今は大事な帽子が外れた頭のてっぺんを、ひづめでちょいちょいとつついている間に、サンジは素早く両手をチョッパーの体に滑り込ませた。
「…ほい、トナカイ肉捕獲成功」
「く、食うのか! おれを食う気だな! ギャーッ」
 冬島を出てまだ幾日も経っていない。一番年下で、幾分世間慣れしていないトナカイは警戒心も強く、サンジの言葉を本気にしてまだ湿った毛を逆立てて叫ぶ。
「トニー君、大丈夫よ!」
 ビビは笑って、チョッパーのおでこについたままの泡を指で弾いた。
「誰も貴方を食べたりなんかしないわ!」
「そうだぞ!」
 ひょこん、と顔を出したのは麦藁帽子の船長で、にひーっと笑うと人懐こい。
「お前は仲間なんだから、食うわけねえだろ! にししししっ」
 人一倍意地汚く肉に執着するこの男が、お前は食料じゃないというものだから、チョッパーもすっかり安心して頷いた。
「お、おう! で、でも…やっぱりお風呂は、嫌いじゃないけど苦手だ…。だって、石鹸をつけると凄い匂いがして頭の奥までくらくらするんだ」
「チョッパー」
 いつの間にかチョッパーを抱っこしたサンジと、その横で新入りの船医を諭すビビを囲むようにして仲間たちが集まっている。
「チョッパー、私が追っかけたのはね、まずアンタが石鹸をきちんと洗い流さないでお風呂を飛び出してきたことと、あんたの使ったフローラルブーケの馨りのボディソープは私の自前だからよ!」
「しまった、チョッパー。素直に謝っておけ!」
 一緒にチョッパーと風呂に入っていながら、彼に脱走されてしまったウソップは責任を感じてか、あるいはただたんに怖かったせいか、青褪めて叫ぶ。
「借金になるぞ、借金に! 金とられるぞ!」
「失礼ね、ウソップ! 私がそう簡単に何でもかんでもお金に結びつけると思ってるの? するけど!」
「―――するんじゃねえか!」
「そんなナミさんも素敵だ〜っ♪」
「なあ、おれ腹減った!」

 チョッパーはあまりのことに目を丸くしている。
 ビビも最初、彼らの船にのり、一緒に旅をし始めた頃は本当に驚いたものだ。
 支離滅裂で、ムチャクチャで!
 始終歓声と笑い声と、あるいは怒声や奇声が絶えない、小さな不思議な海賊船。
「こんなに騒いだの、初めてだ…」
 チョッパー歓迎会と題した夜空の下での大宴会。ルフィは鬼の首を取ったかのような勢いで肉にありつき、山ほどあった料理をいっぺんにして空にして、ナミはその酒豪っぷりを珍しく、遺憾なく発揮していた。ウソップはこれでもかというほど得意げに誰も聞いていない演説を繰り返し、ビビは涙を流してその光景を眺めた。
 そういえば、今ここにいないあの緑の髪の剣士も、カルーに酒をすすめて、ビビの親友を撃沈させてげらげら笑っていたっけ。

 その剣士が騒ぎに気づいたのか、単に眠りから醒めてしまったのか、ゆっくりと足音もなく近づいてきて、チョッパーを見て、一言。
「それだったら匂いのねえ、俺の石鹸使えばいいじゃねえか」



「おれね、ビビ」
 静かなアラバスタの町並みをじいっと見つめて、チョッパーは嬉しそうに笑う。
「それから、お風呂好きになったぞ。サンジはおれのことトナカイ肉だ、非常食だって笑うけど、本気じゃないことも知ったし、ウソップは一緒に風呂に入ったのに気づかなくってごめんな、って言ってくれた。もう一度ちゃんと、おれの背中流してくれて、頭も拭いてくれたし。
 ナミも、借金にしなかったぞ。貸しよっていってたけど、目がすごく優しかった! もうあの匂いはごめんだけど、少し時間が経つといい匂いになるんだな。知らなかった!
 ルフィはおれのこと―――おれのこと、初めて仲間だっていってくれたし、何度も仲間だって言うし。ゾロとお風呂に入るのも好きになった! ゾロって結構子どもっぽいんだな、おれいっつもお風呂に入ると手をこう、うまく丸めて水鉄砲してくるんだ」
 おれはひづめだから上手く水鉄砲できない…と唸るチョッパーの横顔を見つめて、ビビはにこにこした。

 チョッパーが調合する薬は、アラバスタお抱え医師にも特に評判がいい。
 まさか、海賊の船医が作った薬です、と公表するわけにもいかないから、こっそり配分を教えて。
 できることなら今回の闘いで傷付いた人々が少しでもよくなるよう、と、チョッパーはビビの目を見て、
「おれに出来ることなら言ってくれよ」
 とにっこりして言った。

 二人でルフィの看病を初めて一日半、我等が船長はいまだに目覚める気配がないものの、寝息は穏やかで呼吸も安定してきている。一時はどうなることかと思ったが―――そう簡単に死んだりしないから、ルフィなのだ。
 それをビビも、チョッパーも知っている。だから笑い合える。
「この宮殿にも一応大きなお風呂があるの」
「へえ〜。この部屋くらいか?」
「いいえ、もっとよ!」
「…すッ! す、すげえ〜!」
 純粋なチョッパーの瞳にぶつかって、ビビは笑った。
 水差しを持って、ルフィの寝ている枕元に向かう。つい先ほどまでウソップがその隣で寝ていて、その前にはナミが足の治療を受けていた。
 肋骨を何本か折り、また内臓にかなりのダメージを受けているはずのサンジ、そして恐らく外傷は(ルフィを除いて)一番の重傷者であろうゾロは、まるでこんな時でも競い合うように倒れてから一日で目を覚ました。

 ルフィが目を覚ましていないのだから、とウソップは代わりに俺がキャプテンとして宮殿探索をしなければなるまい、と息巻いていた。
 勇敢な海の戦士は、全身が本当に痛いであろうに、チョッパーの前では
「痛ェ〜、お、おれは明日死ぬかもしれん〜」
 と呻くくせに、ビビの前では
「心配するな! ビビ、おれは勇敢なる海の戦士キャプテーン・ウソップ!!
 …ところで、宮殿の中を冒険してきていいか?」
 と笑う。
 仲の良いチョッパーを誘ったが、あいにくチョッパーはルフィの看護を優先すると辞退したため、今はカルーを始めとする超カルガモ部隊を引き連れて、アラバスタ宮殿を探索に行っている。
(きっと、ルフィさんが知ったら羨ましがるわね)
 くすっと笑いがこぼれた。
 14年間ですっかり知り尽くした我が家だ。抜け道も隠し部屋も財宝庫も、目を瞑ってでも案内できる。―――二年間、居なかった我が家をも、楽しい冒険の場所にしてしまう、そんなウソップが…仲間達が面白くて、彼ららしいと思ってしまう。
 元々面倒見が良く、頼みごとを断れないお人良しのウソップだ。
 破壊された宮殿の修理を手伝ったり、傷付いたカルーの足の包帯を巻きなおしてやったり、こまごまとしたこともやっているらしい。
「あの鼻の長い青年は凄い方ですのね」
 と話しかけられて、なにかと思ったらすっかり傷んでいた窓を取り外して、新しい出窓を作ってくれた、とメイド長が笑っていた。
 船旅を続ける間では、合間をぬって多彩な才能を発揮していたウソップだ。ペンを走らせていたと思ったらビビの肖像画を描いてくれたし(これは宮廷専属絵師に描いてもらったときより、百倍うれしかった!)面白おかしい話でなんべんも、涙が出るほど笑った気がする。

「あっ、ビビちゅわ〜んっ!」
 サンジが顔をひょこりと出した。彼も一つの場所に落ち付くタイプではないことを、ビビは思い出す。
 船の上では忙しなく他の連中の世話を焼き、ビビやナミに対しては甲斐甲斐しく付き添い、給仕や荷物持ち、たくさんのことをしてくれた。
 ナミは当たり前といった顔をしていたけれど、ビビにとっては申し訳無さがたってしまい、当初は彼のテンションにおずおずとはにかむことしかできなかったのだけれど。
「違うのよ、やあね、ビビったら。サンジ君はあれが本質で、あれが顔なの。―――スタイルを貫き通すわよ。付き合ってあげなさい。あんたが笑うとサンジ君は体をくねくねさせて喜ぶわよ。
 王女の癖に遠慮深いわねえ、もうちょっと遠慮なくコキ使っちゃいなさい!」
 ナミはそう豪胆に言ってのけた。黙っていればかなりの美人で、目配せ一つで他人を従わせることくらいわけない彼女は、自分を隠さないまま開けっ広げに微笑う。
「あの、サンジさん。ナミさんは?」
「ああ、ナミさん?
 彼女も宮殿に興味を持ったみたいだね、絵画とか地図とか熱心に見てたよう?」
 歴史有るアラバスタ宮殿を探検したいのは、なにもウソップだけではなかったらしい。
 ビビは笑って、頷いた。
「ビビちゃんのおうちは素敵だね。さっすが、僕らのプリンセスのお住まいだけはある!」
 素敵だ素敵だと、この航海で何度言われただろう。
 それでも、その言葉が酷く嬉しく感じるのは、彼が本気で言ってるからだろうか。
「ありがとう、サンジさん」
「あっ、サンジ! また出歩いてたな!」
 しっかりとカルテにルフィの症状と状態経過を記入していたチョッパーは、怪我人で、もう一人の患者でもあるサンジを見て突然大きな人型に変身した。
「絶対安静って言ってただろ―――ッ!」
「あ、そうだっけか。ははは」
 かっきりとしたスーツを着込むのは、いつもと大差ない。
 ビビがプレゼントした淡いブルーグリーンのシャツの下には包帯とコルセットがあるはずなのに、サンジは平然と煙草を吹かしている。
「サンジさん」
 じっと見つめると、参ったな、とやや表情を弱くしてサンジが頭を掻いた。
「ビビちゃんは人の目を真っ直ぐ見るから、とても逆らう気になれねえ」
 真摯に頷き、では貴方の騎士は大人しくベッドに参ります、と礼を取る。
「よろしい」
 ビビが笑うと、渋面だったチョッパーもにっと笑った。

 ルフィの包帯を巻きなおしていると、否応なしにたくさんの切り傷が目に入る。
 裂傷は抉れるように、削るようにルフィを傷付つけているのに、多分ルフィなら目が覚めたらケロリと笑うんだろう。歯を剥き出しにしてきっと、叫ぶ。
「腹減った〜!」
 予想がつくから、目覚めたときのことを思うと、ふと顔が綻ぶのだ。
 バロックワークスの社員で、出会ったときは随分と怪しまれたし、まさかあっさりと船に乗る事を許され、こんなに長く―――あっという間だったけれど、同じ時間を共有するなんて思ってもみなかった。
 ビビにとってはバロックワークスにスパイとして潜入し、常に緊張感を張り詰めながら動いていたときよりもずっと楽しく…気持ちよく冒険が出来たものだと思う。
 アラバスタが、国民が、父が、友達が、明日傷付き倒れてしまうことに怯え、笑うことすらぎこちなく、すっかりミス・ウェンズデーを演じていたときには信じられなかったことだ。
「笑えないわ、みんな―――みんな、苦しんでいる。反乱軍と国王軍の鎮圧戦なんて、いつまで持つかわからないもの」
 笑うこと、楽しむこと、リラックスしないとこの船じゃあ大変よ、なんて笑ったのはナミだった。
 緊張すらさせてくれなかった代表がルフィで、アラバスタやバロックワークスに興味があるのかと思えば別に知りたくねえ、なんていわれるし。
 ただ、アラバスタ料理には非常に興味しんしんだった。彼は現状や理由などに興味はなく、自分の目で見て確かめて掴み取る他人の情報に左右されない海賊だった。
 切り傷にはチョッパー特製の塗り薬を。治癒力の脅威的なルフィのことだから、浅い傷ならすぐさま塞がってしまうし、もしかしたらこんなたくさんの怪我も、痕なんて残りはしないのかもしれない。

「ビビ、疲れてない?」
 交換するわよ、とナミが本を片手にやってくる。
「大丈夫よ、ナミさん。ナミさんもゆっくり休まないと」
「昨日一日寝たらすっきりよ。それに寝過ぎるとお肌によくないのよね」
 ナミは巧妙に足の怪我を隠す。
 踏み込むときに激痛が走るであろうに、それを涼しい顔で何でもない風にするのだ。今も平然と笑うから、彼女の強さに誤魔化されそうになる。
(それでも、彼女はきっと強く言ったらそれより勁い姿でかわしてしまうんだわ)
 しつこく言ったところで、ナミという女性の揺るぎ無い意思を曲げることはできない。
 だからこっそりと気遣うことにして、ビビは本に視線を移す。
「図書室に行ってきたの?」
「ええ。あんたんち、凄いわね! 古い蔵書から、少し前にノース・ブルーで発刊されて完売になっちゃった本もあるし、面白い本ばかり」
「よかったら、後でパパの…父の書斎に案内するわ。あっちもまるで本の洪水が起こりそうなぐらい、たくさんあるの」
「見てみたいわね」
 興味を示したナミの目が輝く。知性に飢え、好奇心に満ちている彼女はゴーイングメリー号のトップ・ブレインで、指針そのものだった。
 見知らぬ病気に倒れ、苦しみながらも船を偉大なる航路の海の試練から見事導き出した―――何度圧倒され、凄い、と思ったことか。
 親身になって、怒ったり笑ったり、姉のように、親友のように、ビビを見つめてくれたナミ。
「そうね、じゃあ書斎には―――あいつが目を醒ます前に案内して頂戴。絶対、絶対、目ェ覚めたらうるさいんだから」
 ナミのしなやかな指先が刺した先には、やっぱり気持ち良さそうに眠り続けるルフィの姿があった。

 踊場に出ると傍目から見ても傷だらけの男が包帯を鬱陶しそうに取っているのが見えて、ビビは慌てて叫んだ。
「Mr.ブシドーッ!」
「あ?」
 やべえ、といった顔をする。ビビは怒りそうになって、次に溜息をついて、怒りと呆れを通り越して笑ってしまった。
「ンもう、Mr.ブシドーったら!」
 今のは絶対、悪い事をしかけた子どもが見つかって慌てる様子そのものだ!
 絶対にチョッパーに、取ってはいけないと厳命されていた包帯は頭に、首に、肩から胸に、腕に、足にとたくさん巻きついている。さぞかし鬱陶しいに違いないとは思うが、本来は身動き一つ許されない重傷者なのだ。
「ほら、頭の包帯、変な風に外れちゃったわ。しゃがんで?」
「おう」
 見付かったから、仕方がないとでも思ったのだろうか。ゾロは大人しく膝をつく。
 彼を恐ろしいと思ったのが嘘のようだ。
 ウィスキー・ピーク。百人斬りをしてのけた男。恐らく仲間達は知らず、ビビと、イガラムだけが知っていること。
 恐ろしい鋭利な眼差しも、不遜な表情も、いっぺん笑顔に崩れると急に安心できるから不思議だ。
 気づいたらいつも寝ていて、航海士や料理人に踏みつけられて面倒臭そうに起き上がっていた。チョッパーに怯えられていたときも平然としていて、いつの間にか懐かれていた。何の感想もなく…何の躊躇いもなく、当たり前のようにビビやチョッパーを新しい「仲間」として何時の間にか受け入れていて、手を貸してくれていた。
 彼は大剣豪を目指すと言う。
 なるだろう、いや、ゾロだけでなく、ルフィも、ナミも、ウソップもサンジもチョッパーも、ビビの大好きなみんな全員、それぞれの見果てぬ夢を両手いっぱいに掴みとって、歓声があがる。
「無茶しちゃ駄目よ!」
 珍しく厳しくそうビビが言うと、仕方ねぇなあといわんばかりに、不承不承青々とした頭が上下した。


* * *

「花火しよう!」
 ルフィが唐突に言った。あれはアラバスタに着く前のこと。
 ウソップが火薬を上手い具合に調合し、手製の花火を作ってみせたのだ。
「へえ、やるじゃない、ウソップ!」
 ナミも役に立たないということはなく、珍しく褒めて見せたので、ウソップが照れながらもえへんと胸をそらすのを忘れない。
「ちゃんと終わったらバケツに突っ込むの忘れんなよ」
 サンジが夜の甲板に靴音を響かせて現れたのをきっかけに、月明りの下輝く火の粉を楽しんだ。

「おいッ、ナミ、ビビッ!」
 面白そうな船長の声に、緑から青の色に変わる花火を楽しんでいたビビは振りかえり、吃驚した。
「る、ルフィさんっ!」
「三刀流!」
 口に、両手に花火を掲げたルフィは、危ないことしてんじゃないわよ!とナミに怒鳴られても、にしししと暢気に笑うのだ。
「鬼斬り〜っ!」
 火をつけた花火を咥えたまま、ゾロの真似をするのだが、剣士のように咥えたまま言葉を喋るというのはなかなか高等技術らしく、ルフィのセリフはすっかり「おいいひ」になっていたし、最後の「ひ」を言って技を繰り出すところでは、当のロロノアが現れて容赦なくルフィの頭をどついていた。
「アホな真似してんじゃねえ、チョッパーが真似すんだろうが!」
 ルフィのはじめたゾロごっこを憧れの眼差しで見ていたチョッパーは、ゾロの怒鳴った瞬間びくっと体を震わせて、今まさに口に咥えようとしていた花火を慌てて落っことした。
「わ、わわっ!」
「はははははっ、と、トニー君ったら!」
 ビビが思わず笑うと、チョッパーは照れながらマストの影に隠れてしまう。
「サンジの真似!」
 ワルガキの遊びに便乗したウソップが、煙草のように花火を咥えてふんぞり返り、
「おれはそんなに鼻は長くねぇ!!」
 とサンジに踵落としを食らう羽目になる。

「ビ〜ビ! アホなことしてるやつらはほっといて、こっちのおっきいの一緒にやろ!」
 ナミが手招くからそわそわとしていたカルーを手招いて一緒に火をつける。
 独特の火薬が焼ける匂いと、鮮やかな光。
「うわ、でけえ〜!」
 船長の嬉しそうな大声に、仲間達は次々に大声をあげて、笑った。




「忘れないからね」
 きっと、何年経っても忘れないのだろう。
 彼らの後姿を思い出し、ビビは笑った。
 忘れることはできないのだろう。この切なさも喜びも、悲しみも淋しさも。
 覚悟しよう。決して離れることのない別れという事実が一生、ビビについて回る。
 喜んで受け入れよう。決してなくなりはしない思い出がいつでもビビを冒険へと連れ出すのだ。

「ねえ、今も」
 ビビはアラバスタの愛しい町並みを見て笑うのだ。
「今も―――メリー号は、お祭りみたい?」
 毎日がFesta、海賊達の日常は、いつでもお祭り騒ぎの冒険譚。
 自由なる光。


「―――元気でね―――ッ!」
 風邪を引くことは万に一つの可能性の、頑丈で、信じられない人間達だけど。
 願わずにはいられない。

 

 今は寂しいけれど、それよりきっと楽しい笑顔。
 彼らはケロリと一周してくるだろう。…それは無理だ、と誰もが口を揃えて言うグランドラインを、ぐるりと一周して、
「ビビ、また逢ったな! ただいまっ!」

 おかえりなさいを言うために、ビビがただいまを言うために。
 あの船のように、この国を、幸せに、楽しく、毎日をお祭りにするために。

 船を、見送るのだ。

「いってらっしゃい!」

 
■本当は泣きそうになってしまった、ビビちゃんとのお別れ。
■本編で彼女の姿を見なくなって数ヶ月。そして、10/20にアニメで、ビビちゃんもルフィ一行と別れました。
■別れは淋しくて淋しくて、本当に切ないけれど。笑顔がいいなあ、と思うので、楽しいお話を心がけました。

■ビビちゃんが凄く好きです!

02/10/21


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