【どこでもいっしょ。】


「お前いいなあ。栄養価も高そうだしな!」
「ギャ―――ッ!」
 航海の途中というのは何があるかわからないものだ。チョッパーは身をもってそれを知った。
(海ってこ、こわ、こわいところだ!!)
 いや、むしろ海自体はまだ穏やかなものだろう。
 それより冬島で育った小さな船医が恐れるのは、海にいる存在―――つまりは、この船の連中である。
 素直で性根の捩れていないチョッパーはホラを吹くのが大好きなウソップや、素直に自分を曝け出すというのを控えているサンジなどにとっては恰好の遊び相手だった。からかい甲斐があり、また可愛がり甲斐もある。

 ちょっとつつくとビクビクするし、世間に疎い風だからちょっとした冗談を吹きこむ度、あのまん丸の目を本当に真円にして、「ほ、ホントか?それ!」と聞いてくるのだ。
 可愛い。面白い。遊びたい。だからサンジは笑顔で言うのだ。
「ははは、大丈夫だぜチョッパー。俺がいる限りこの船の連中はみんな飢えて死なせることだきゃさせねーからよ!」
 ほがらかに笑って、コックってスゴイなあ〜と素直に関心するチョッパーに、そのままの笑顔で続ける。
「今んとこお前だろ、あとビビちゃんのカルガモだろ。
 非常食がいる限り、何にも問題なんてねぇよ! 大丈夫だ!!」
 チョッパーの瞳孔がきゅうううっと大きくなったのを良い事にサンジが言った言葉が―――冒頭のセリフである。


「ぎゃははははは。」
 なんて信じやすい、まっさらなやつなんだろう。仲間になった(半分)トナカイは何ともイイカンジの反応を見せる。しかし包丁を研ぎながら言うとジョークだけじゃあ済まないかもしれない。
「サンジくん、あんまりチョッパーをいじめちゃだめよ。」
 飛び出して行った船医と入れ違いに入ってきた航海士を見て、コックが飛び上がる。
「なななナミさ〜ん!ひどいよ、俺がそんなイジメなんてするはずないでしょーう?」
 ささっと椅子をすすめて、冷たいドリンクをすすめて、でれでれとした表情をふと真顔にして、真剣に言う。
「イジメじゃありません。からかってるだけです!」
「それがいけないのよっ!!!」
 しゅっと華麗に投げられた本の角がコックの眉間に見事にヒットし、「ナミさあ〜んステキだ…ぁ。」という断末魔と共に倒れたサンジの後ろ髪を横目で見て、ナミは溜息つく。
「もうすぐアラバスタにつくっていうのに―――。」
 食糧不足は深刻な問題だ。二、三日なら持つであろう連中も、そろそろ内心では腹が減ったとうだっているに違いない。

 チョッパーがびくついているところから、今回の食糧危機は内部犯―――しかも複数の犯人があげられる。その中に、恐らく彼もいるのだ。
 だからあれほどまでに悲愴な顔で、泣きながら逃げていったに違いない。
 さてさて、どうしたものか―――。

 ふと。
 ナミは思いなおすことにした。
 まっ。所詮この船なんだから仕方がないのだ。



「わっ!」
「―――あ?」
 命からがら逃げ出してきたところで、チョッパーは何かに蹴躓いて転がる…ハズだった。
「なんだ。チョッパーか。」
 ひょいと首根っこを掴まれて、そのまま床に下ろされる。
 どうやら甲板の隅で寝ていたゾロにつまづいたらしい。
「…なんだ。どうした?」
 言いながらゾロはくああ、と大きく欠伸する。
 ルフィも口が大きいが―――ゴムだからどこまでも伸びるのだけど―――この剣士の口もまた大きい。ぽっかり大きな穴があいたようで、猛獣がぐあっと口を開けたようにも思える。
(喉の炎症もなし。虫歯なし。歯茎の色艶良し。うん、健康だ!)
 じいっと見ながら一瞬にしてお医者さんとしての意識がチョッパーの中で働いてしまう。
「さ、さん、サンジが…」
「あ?………あのクソコックか。まーた食べちまうだのなんだの、言ったんじゃねえのか。」
 くっくと笑って伸びをするゾロに、チョッパーは神妙にうなずく。
「う、うん。どうしても、俺、びっくりしちゃって。
 冗談だってわかってるんだけど。でもサンジがあんまり嬉しそうに言うから―――。」
「そうだな。あんまり腹へったら―――食っちまうかもしれねぇ。」
 ニィィ、と猛獣…あるいは、魔獣に相応しい顔で微笑ったゾロに、チョッパーはまた飛びあがる。
「ギャアア! お、俺なんか食ってもっ、うっ、うま、うまくないんだぞ!!」
「はははははッ。」
 呂律の回ってないチョッパーに、全く容赦のなく笑うのはサンジもゾロも一緒だった。
「お前、ホント面白いやつだな。」
 七段変形おもしろトナカイって称号は、その百面相のことなのか? だって、真面目にゾロは聞いてきた。
 そっか。ゾロは俺の変形した姿を全部みたわけじゃないんだ。
 なんだかホッとして、それからずれた帽子を慌てて直そうと両手を頭に乗せて…そうすると、ごく自然にゾロの腕が伸びてきて、帽子のずれを直してくれる。
「まあ、本当に食われそうになったら逃げてこい。特に飢えたときのルフィが一番危ねェ。いきなり頭だか腕だかに食い付かれたら逃げ出せよ?」
 至極真面目な様子で言って来るものだから、チョッパーはごくんと息を飲んだ。
 確かに食事時のルフィの食いっぷりときたら、チョッパーがビックリしてフォークを持った手を思わず止めてしまったほどだ。ナミが、チョッパー!って呼んで、黙々と食べていたゾロが左手のフォークでルフィの同じものを弾かなければ、チョッパーの食事はルフィの腹におさまっていたことだろう。
「危ねーっ! おい、チョッパー。余所見してたりぼーっとしてると、ルフィのヤツに自分の分、食われちまうぞ!!」
 必死の形相で自分の分の食事を死守していたウソップが、いつになく真剣に言ったのに、ルフィ以外のみんなが軽く頷いたのもまた事実。
「そ、そうか。わかった。ナミ、ぞ、ゾロ。……ありがとぅ。」
 ナミとゾロは助けてくれたのだ。少なくともチョッパーの御飯を守ってくれた。
 消え去りそうな声で礼を言ったチョッパーに、ナミは笑ったようだった。でも、いつでも助けてあげられるわけじゃないからねって言葉も一緒。でもゾロはナニゴトもなかったかのように、黙々、食事を続けていたっけ。

 なんだかんだで、ゾロはチョッパーに手を貸してくれている気がする。
 ううん、気がするんじゃない。まるきり興味のなさそうな顔しながら、でも至極当たり前のように、ひょいと手を貸してくれるのだ。




 ああ、でも。
 今回の食糧不足は、チョッパーの責任もある。
 ルフィに誘われるまま食料庫に入って、ウソップと、カルーと一緒にサンジに怒られたのは記憶に新しい。
 ゾロだってまともに食事をとっていないはずなのに…。昨日の夜だってそうだ。本当に限られてしまった食料で、サンジが眉根を寄せて作り出した最後の食事。さすがにゾロも起きてきて、テーブルについた質素な食事。食料を食い付くした犯人の中で一番反省しているチョッパーは、みんなに申し訳なくって、どうしても手が、口が、止まってしまった。食わねェのか!と嬉々として目を輝かせたルフィに笑って残りをあげて、なんとかしなきゃ、と思い巡らせる。
 ルフィやウソップたちと交替で釣りをしているんだけれど、なかなか魚が引っかからない。餌まで食らい尽くしてしまったせいだけど、うーん、やっぱり、悪いことしてしまったとトナカイの耳がしょぼんとなる。

「おい。」
 そのときもだ。
 そのときだって、そうだった。
 食べ終わって甲板に出てきたゾロが、右手に持った酒瓶を振って、左手に持ってたトレイをチョッパーに渡したのは。
「お前のせーじゃねえよ。ルフィの莫迦やウソップのアホにそそのかされたんじゃ、まあ仕方ねェってとこだろうが。なんか食わねェと、ナミやあのクソコックがうるせえぞ。」
「で、でも!これゾロの飯だ。それにおれ、」
「俺は酒で腹が膨れるからまだ、いい。」
 お前も一杯やるか?とニィと笑われて、あわてて首をふった。
 チョッパーが仲間になった記念の歓迎会のときに、すすめられるままアルコールを口にしたのだけど、途端に目を回して倒れてしまったのだ。アルコールは消毒液であり、多量に摂取するのはカラダに毒なんだ、と痛感して、それ以来口にしないように心がけている。
「じゃあ仕方ねえな。俺は酒を飲む。お前はそれを食う。―――それでいいじゃねえか。」
 面倒くさいといわんばかりに。




「エッエッエ。」
 ルフィがさそってくれたお陰だ。仲間って、本当にいいものだと思う。
 チョッパーの世界は、冷たい同族のトナカイたちと、怖い人間と、大好きなドクターヒルルク、そしてドクトリーヌだけだった。雪国での小さなチョッパーの世界観が、ほんの少し、外を目指しただけでみるみる大きく広がって行く。
 それはなんだか心地の良いことで、本当にわくわくすることだ。

「…あ? なんだ?」
 くすぐったいように笑い出したチョッパーに、いまだどこか眠そうな目をした剣士が首を傾げる。
「う、うん。なんか、本当に仲間っていいな。」
 ゾロはこわくない。ううん、優しいからすきだ。
 でも、好きだなんて言ったらこの近寄り難い、強い空気をまとう剣士は何ていうだろう。どんなカオをするだろう。
「あのな、ゾロ!」
 姿勢を正して、ちょんと背伸びした人間トナカイに、ゾロは「ん?」とアゴをしゃくる。
「困ったことがあったら、おれに頼っていいからな! あと、過度の筋力トレーニングと、アルコールの摂取は控えたほうがいいぞ。まずトレーニングは時間帯と、休憩時間でたいぶ違うんだ。無理なトレーニングは筋肉組織に負担をかけるし―――。」
 一瞬面食らったように頷きかけたゾロは、小さなお医者さんの小難しいお説教にしまったとカオをしかめてだらしなく身体を弛緩させた。
 このトナカイは根は真面目で凄くいいやつなのだが、いかんせんまっすぐ過ぎて―――。

 説教が…。


 眠く、なってき―――。



 ぐうぐうと寝こけるゾロに、切々と丁寧にアルコール依存症の説明をしているトナカイを見つけて、ナミは笑ってくるりとターンする。
 本当はいまだ、心を痛めているんじゃないかと心配したんだけど―――。
 暢気なところがあるのは、このクルーの特徴らしい。
 ヘリに腰掛けてぼーっと水面を見つめるルフィとウソップを見つけて、ナミはまた少し微笑んだ。
「ちゃんと釣らないと、ホンットに御飯ないんだからねー!」
「うぉぉぉぉ! 頑張ってるぞ! 気合で釣る気はある! けど、腹へって気合がでねー!」
 くてんとだらしなくよろけるルフィに、
「ちょっと! だらしないわよ、ルフィ! しゃきんとしなさいっ!」
「しゃっきんっ!!」
「や。それは違うと思うぞルフィ。借金するのは腹減るより怖ェぞ。」
 真顔でウソップがツッコミをいれたりする。

「よし、ウソップ! ちゃんと釣るぞ! じゃないとしゃっきんだ!」
「まかせろ! 俺様もこっからマジモードだ! マジ!」


「だからアルコールが体内にまわると意識が活性化したようになるんだけど、それは一時的な効能で―――。」
「ぐおーっ。」

「ナミさ〜ん! ビビちゃ〜ん! お茶にしっましょ〜うっ!」
「カルー、いいこだからここにいてね?」
「クエーッ!」


 ゴーイングメリー号上、仲間達の様子、良し。本日も晴天なり。

■ラブチョッパの出来心ってやつです。(恥じらい)
■オチがきちんとしてません。スイマセン。でもGM号の…ルフィ海賊団の連中はみんな大好きッス。サンジさんがデバっちゃうと大変なことになるので(笑)慌ててナミさんに役をふったり。ナミもいい…(惚)ルナミいい…。
■所詮ゾロ&チョパコンビラブなので、それだけでもう満足気味です。ッカー!
■タイトルは「いつもいっしょ」「いつでもいっしょ」「どこでもいっしょ」「どこいっちゃってもいっしょ」とかイロイロ考えた挙句、どこいつ、キミに決めた!(むしろ決めていただいた。ありがとう誼ちゃん)
■こうしてゾロに懐いたトナカイと以外に世話焼きのゾロは仲良くなっていったのでありました。私の頭ン中だぎゃあ!!(グハッ)

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