*** かわいい彼 ***
Dear them

 グランドラインの旅はまあまあ、順調。
 時々ヘンな悪魔の実の能力者が空から降って来たり、漂流してきたり、釣ってしまったり、奇襲して来たり、なんだかんだで休まる時はないにせよ、まあ順調。

「もうすぐ次の島ね。」
 海図を見ながらナミが笑う。
 そうするともうウズウズをこらえきれなくなってきていたルフィが、テーブルの周りをうろうろしはじめて、サンジが邪魔だからとっとと甲板に出ろ!とばかりに蹴りを入れる。
「島だ―――ッ!」
 ばっと飛び出していったルフィに、
「今度の島は冬島なんだな!」
 チョッパーも、島に近づく度嬉しそうに鼻を、耳をピクピクさせていた。

 雪の大好きなルフィと、雪国生まれのチョッパーは心なしかうれしそうにしている。
「雪はニガテだ…寒ィしよぉ。」
 と、一人弱気なウソップもいるが、それ以外ほぼ全員冬島到着を心待ちにしている。
 新しい場所や、食べ物のこととなるとルフィが嬉しくなるのはいつものことだが…チョッパーが嬉しそうなので、ナミも自然に笑顔になっている。
 やっぱり、仲間が喜ぶときは自分も喜びたい。
「チョッパー!島の様子、見てきていいわよ。」
「…う、うん!」
 慌てて飛び出して行ったトナカイに、ナミとサンジは顔を見合わせて微笑った。


「ゆぅぅぅぅきぃぃぃぃだぁぁぁぁ〜!!」
 ギャーッ!とわめいてワーッ!と駆け出して行く。あっけに取られているともう姿が見えない。
「もう、ちょっと、ルフィ!」
「いつもの病気だ。ありゃあ。」
 ぼそっと低い声が近くで聞こえて、ナミはあら珍しい、と肩をすくめてみせた。
「どんな嵐の中でも起きないアンタが、雪の寒さで起きたの?」
「寒さじゃねえな、匂いだ。」
「…は?」
「匂いだ。…あと、音。それから、船が岸に着く気がした。だから起きた。」
 それだけだぜ?と逆に怪訝そうにいわれて、逆にナミは戸惑う。
「雪の…匂いと、音?」
「―――するだろ?」
 ゾロは当たり前のように言って、なんだ、わかんねえのか?と首を傾げて見せる。
「…おぉ。寒ィな流石に。」
 平気な顔で軽く肩をふるわせて、ゾロが手袋をはめるのをナミは見つめていた。
「んじゃあ、お前。目ェつぶれよ。」
「は? なにいってんのよ、ゾ。」
「いいからつぶれって。」
 突然目隠しされて、思わず声を上げそうになった。
 まさか突然そんなことをされるなんて思ってもみなかったし…それが、ゾロのしたことだとわかったからまさに仰天、だった。
「耳すましてみろ。ここらへんの雪は重いから音がする。」
 俺の故郷に似ている、と。

 しんしん、と。

 本当だ。大地に、甲板に、積もる音がほんのわずかに耳に滑りこんでくる。

「ギャアアアアアア!!!」
 奇怪な悲鳴があがった。ナミが慌てて目を開けるとそこにはすでに手袋の感覚はない。
「な、な、ナミさーん! こンの…ッ クソロロ! テメェな、ナミさんに…なにしてやがるんだァ!」
「うるせえなあ。逆ギレかクソコック。」
「ナミさあああ〜ん! ナミさん! ムリヤリアイツに…ああっ、危ないところだったァァ!」
 ゲシィっとゾロの腹に一発、蹴り入れた後、サンジが半分涙目になりながらすりよってくる。
「あの変態エロエロ剣士になにかセクシャルハラスメント的なコトをやらかされませんでしたか!? 御無事でしたかァァァ〜!?」
「ふふっ、大丈夫よ。サンジくん。」
 少しビックリしたけれど。と続けるナミに後ろのほうで、「なんで俺がンなことすんだよ。」とブツブツ文句が聞こえてくる。

(やだ。意外過ぎるじゃない。)
 ロロノア・ゾロの行動が、だ。
 しかも平然とやってのけるから、イマイチ勝手がつかめない。サンジがガルルと歯を剥いてゾロを威嚇しているが、それにすらちょっとでも関心を示そうとしない。ただ素直に―――そう、自分が聞こえないといった雪の音。それが彼にとっては「何故、聞こえないんだ?」ということになる。
 だから教えようとしただけなのだ。
(そうなんだけど―――)
 頭の中は大剣豪、刀、飯、あと昼寝。ゾロに対する他クルーの認識なんてこの程度だし、この程度で十分だった。あとは個人的に、ルフィだったら遊び相手で、ウソップだったら魔獣、チョッパーだったら怪我しすぎ!で、ビビだったらMrブシドー。サンジだったらにっくきクソ剣士。
 ロマンティックな意味をこめてでの『雪の音』発言だとは思わない。音、匂いだなんて、まるで動物めいているではないか。
「クソ剣士!! ナミさんにホンットーになんにも、なんにも、なんにもしてねえだろうな!」
「してねえ。…お前しつこいぞ。」
「ギャー! お前のいうことなんざ信用できるか!」
 地団駄踏み出したサンジに、手袋はめた右手が伸びる。「うるせえな。こうしただけだろ。」

『あっ。』

 ナミと、サンジの声が綺麗にハモった。

「おお、丁度いい。てめーも耳すましてみろ。雪の音、聞こえんだろ?」
 なっ。なんて、楽しそうに笑う。
「ナミが聞こえねぇなんて言うから、教えてやっただけだ。どうだ、クソコック。てめぇは聞こえたか?」
 
 何だかヘンな気分だ。
 サンジのお陰ですっかり肥えた舌が、この感じは美味しくない、と訴えている。
(―――イヤだって、思った?)
 ぽかんとして、ナミは、思う。
 手袋がサンジの金髪に、耳に、そして瞼に触れた瞬間、なんだかイヤだと思った。
 手のひらの熱が、そのまま柔らかい手袋を通して伝わってきた感触とか。
 雪の音が聞こえる、といった低い声とか。
 なんの特別もなく、ゾロにとってはありきたりで、当たり前な、心にとめる必要のない出来事なのだろうか。
 だから―――それがナミでも、サンジでも


(―――同じ?)



「は、はなっ はなっ。」
「ハナ?」
「放せコンチクショーウ!!」
「…ぐっ。」
 ナミが思考にとらわれている間に正気を取り戻したらしいサンジが、見事な蹴りをゾロに命中させていた。場所は丁度腹部。鳩尾あたりだろうか。あれは、痛い。
 一瞬の呼吸困難に陥ったらしいゾロは、グゥゥとうめきながらよろめいた。
 サンジが必死の形相でナミの手をつかむ。「ナミさん、お願い! 一緒に逃げよう!!」
「―――ぷっ。」
 何が何だかちっともわかっていないらしいゾロを置いて、ナミとサンジはタラップを駆け下りた。すぐに雪の積もった地面に足をとられて、あまり思うように先に進めなくなる。
 おかしくて、ナミが笑うと、サンジもやっと引きつったように笑った。
「ォラァ! て、んめえ! この、クソコック!」
 脅威の回復力を持つ剣士は、船から身を乗り出すようにしてこちらを…サンジを睨み付けて。
「なにしやがる!」
「うるせえ!!」
 ぐわっと怒鳴り返して、サンジは足を踏ん張り、アゴをそらす。
「俺とナミさんはしばし雪の中をデートだ! てめェは使えねー上にすぐ迷子になるから、罰として船番。以上だ!!」

「…はぁー?」
 ゾロの気の抜けたような問い返しに、ナミはまた声を立てて笑う。「…あはははっ。ちょ、ちょっと。…おかしっ。」
(ヘンなの。)
 さっき感じたすごくイヤな感情があっという間に吹き飛んで、微かに耳を赤くしているサンジを横目でみれば、ふしぎに幸福な気分になった。
「ああッ! ナミさん、もう、気をつけたほうがいいですよ!」
 必死の形相で、サンジは言う。
「あいつ、あんなツラしやがるくせに、結構タラシです。…マジ。」

(ヤだ!!)

 年上の二人の彼が、不意に見せた。

(―――可愛くない?)

 またナミが笑った。サンジも照れくさそうに笑った。
 甲板で一人、ゾロだけが茫然としていた。
「…だから、なんなんだよ?」



 ―――可愛くない?
 そんなカオって。






◆あー。ええと。これはー。…さ、三角関係?(疑問符)
◆ナミがお姫様です。ルフィを出しちゃうと絶対ルナミになるのと、あとゾロ贔屓なのでルフィはさっさと飛び出していったのであります。素直にルナミ書けよっていう。
◆ナミゾロサン?ゾロサンナミ?んんっ。とにもかくにもこの三人で。
◆ゾロ→ナミ←サンジなのか、ゾロ←ナミ←サンジなのか、ゾロ→ナミ→サンジなのか…もうわけわかんなくなってまいりました。気分的にはきっとナミ→ゾロ←サンジです。
◆もうもうとにかくナミさんはお姫様っつーか。お姫様です。だからビビちゃんはいないのよ〜う!(回転)

2001/12/21

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