◆ さんぽみち ◆


 チョッパーには、お気に入りの場所がある。
 みんなと話ができるラウンジ。
 登る時が普段の状態だとちょっとつらいんだけれど、遠くを見渡せるのがいい見張り台。
 機嫌がいいときにはナミが、食べていいわよって渡してくれる、海の上のみかん畑。
 かくれんぼするときにはキッチン、格納庫、狭いんだけども充分立派なお風呂。

 小さな船の上だけど、毎日いろんなことが起こるからちっともヒマにならない。
 遊び尽くしたら、探検し尽くしたら、ちょっとはたいくつを覚えるのかもしれないけれど。

 この船の船長さんは楽しいこと、面白いこと、わくわくすることが大好きで、チョッパーはいつも遊ぼうぜ!と誘われる。
 毎日こいつに付き合ってると身がもたねェから、お前もホドホドにしとけよーって、シブい顔をして忠告してくれるウソップも、時々ルフィに引きずられて参加する。
 ちゃんと船に異常がないか点検するのは船長の大事な仕事なんだそうだ。したり顔でルフィが腕を組んでそう言えば、すぐに鋭い狙撃手のツッコミ―――。
「お前、ただ単にトラブルがおこらねぇか探してるだけだろ!」
 しっしっしと笑う船長に引きずられて、チョッパーもウソップもゴーイングメリー号を見まわる。
 それは『警備ごっこ』らしい。なにかあったらすぐに対処できるよう、万全を期すのだ。
「今日も異常なーし!!」
 元気にルフィが叫ぶから、
「今日も異常なーし!!」
 チョッパーも負けずに叫ぶのだ。

 キッチンの床から、戸棚から、不審なものがないかって一生懸命確認していると、仁王立ちになって煙草をふかせたサンジが、ものスゴイ形相で三人を睨み、ぺいっと外に放り出す。
「てめェら邪魔だから飯時まで来るんじゃねェ!!」
 ほうほうの体で逃げ出した三人は、肩を怒らせたサンジを思い出してまたぶるぶるふるえ、次の瞬間笑い出す。ああ、どきどきした!
 でも、あんまり邪魔をすると御飯抜きになってしまうから、ここはひとまず撤退。

 女部屋にはさすがにいかない。この前、あわよくばナミやビビとも遊んじゃおうと考えたルフィの船長命令で、チョッパーがおそるおそる女部屋に入ったら、ナミに殴られるとこだった。
「あら、チョッパーだったの? どうしたの?」
 すぐに優しくナミは笑ってくれたけど、握り拳はそのままだった。

 甲板にはゾロがいる。大の字になってぐうぐう寝てる。
 折角面白いことはないかと…いやいや、異常事態にそなえて船の上を歩き回れど、些細な事件も起こりはしない。
 ここらへんでルフィはもう飽きてきていて、ゾロの腹をつついたり、ほっぺを伸ばしたりして遊んでいる。
 ウソップとチョッパーは、ゾロが怒り狂って起きあがらないかとハラハラするのに、ルフィは
「ゾロー!遊ぼうぜ、ゾロー!」
 だって!!

 でもね、やっぱりゾロなのだ。ただじゃあ起きない。
 靴の底をこんこんって叩いても、腹巻きをひっぱっても、ルフィが思いっきり腹にダイブしても、ぴくりともしない。

 仕方がないので、ゾロと遊んでもらうのは諦める。
 じゃあなにしようかっていうことになって、三人で甲板に座りこむ。

 そうして話していると、楽しく話題が弾んで行くのだ。
 話し上手なウソップが、あることないことたくさん話して見せればルフィは面白がるし、チョッパーはスケールの大きさに目を白黒させて聞き入ってしまう。
 次の島ではどんな宝が見つかるだろうか、なんて話しにもなると楽しくって踊り出してしまう。
 ルフィが笑う。
「俺の宝はやっぱり、この麦わらかな!」
 ウソップが胸をはる。
「いやいや、俺のこの最新モデルのゴーグルだってカッコいいだろ!」
 チョッパーだって手を広げる。
「お、俺も、この帽子は宝だ。大好きなひとにもらったんだから!」
 仲間の宝はみんなの宝。大事な宝。ようし、じゃあ交換してみるかと笑い合う。
 ウソップがチョッパーの帽子を頭に乗せるんだけど、なんだか似合わなくってルフィがげらげら笑い出す。そのルフィはウソップのゴーグルつけてみる。チョッパーがルフィの麦わらをかぶろうとするんだけれど、つのが邪魔してかぶれない。うーん残念、と照れくさくなって笑ったら、やっぱりお前にゃこれが似合う、とウソップが帽子を返してくれた。
 こういうちょっとした出来事が、チョッパーは大好きだ。

 そのうちゾロがくああと欠伸をしながら起きあがる。今がチャンス!と三人は顔を見合わせて、チョッパーが右足に、ウソップが進路をふさぎ、ルフィがゾロの背中に飛び付く。
『ゾロ、遊ぼう!!』

 面倒くさそうにゾロが加わって、さてなにしようかと考え合う。
「ルフィ、お前跳ね返せよ」
 唐突にゾロが立ちあがる。小脇には何故かチョッパーが抱えられる。
 すたすた甲板端まで歩いて行ったゾロが、ルフィに向かってチョッパーを投げる。
「!!!!」
「おおっ!まかせろ!」
 嬉々としたルフィがゴムゴムの風船でくるくる回りながら飛んできたチョッパーを跳ね返す。
 ぼぃぃぃんっと空中高く跳ねあがったチョッパーはまた落下寸前でゾロにキャッチされて、なんとか船に戻ってこれた。
「なんつー危険な遊びをォ!!」
 ウソップが蒼白になって叫ぶんだけど、いやいやルフィは気に入ってしまった。
 チョッパーもまだ頭がふらふら、目の前もチカチカしたけれど、世界がぐるんて回るのは楽しい!
 ゾロがバカ力で思いっきり空中に投げ飛ばすから、きゅーんと空に身体が跳ねあがって、急に落下する。そしたらまたルフィにぼぃぃぃんと跳ね返されて身体がクルクル回り出す。
「うわ!これ楽しいぞ!ウソップもやるか!?」
「俺はやらねえ!!!」

 そろそろ昼時だと女部屋から甲板に出てきたナミが、なんてことしてんのよ!と怒鳴ってストップするまで、その遊びは続いた。
 気絶していたチョッパーが目を覚ました時、ナミの拳がごちんごちんごちんっ!とみっつ、続いてたのをみて、小さな船医はようやく自分が気絶していたことに気づいたのだ。

 しばらく真っ直ぐ歩けなくってナナメにチョッパーが歩いていたら、
「三半規管が狂っちまったんだ」とサンジが笑って言った。
 なるほど、これがその症状か、とチョッパー。ナナメに、横に、くにゃくにゃ歪んだ世界を見て、後でメモをとらなきゃと思うのだ。

 午後はナミと一緒にみかん畑を探検する。
 海の上で土の匂いがするこの場所は、船員誰もが好きな場所だと思う。
「このみかんはまだ若い実なの。だから食べても美味しくないし、第一もいじゃうのは可哀想でしょう?」
 なんでも無駄にするのはよくないことだ。折角美味しいみかんの生る樹なんだから、美味しく育ってほしいと思う。
 だからチョッパーも真剣に頷いた。
「うん。そうだな。ちゃんと育てるのって、すごくダイジなことだよな」

 カルーやビビとも話しをする。
 チョッパーはカルーの言葉がわかるから、大活躍なのだ。
 ビビはカルーの言葉が分るのが、カルーはビビに理解してもらえるのがとても嬉しいらしい。
 でもね、二人の話しを聞いてると、言葉なんて通じなくっても充分分かり合えてるんだなあって思うことがいっぱいあるのだ。
「トニー君、ありがとう」
 ぎゅうっとだっこされると嬉しくって、嬉しくなんかないぞ!って否定してしまうんだけど。
 感謝されるのって、やっぱり嬉しくなることなのだ。

 夕飯前にはサンジのお手伝い。
 皮をむいたり、房を取ったり、お皿を並べることしか出来ないんだけれど、
「悪いな、チョッパー」
 と笑って、サンジは口の中に飴とか、クッキーとか、チョコをぽんって放りこんでくれるのがまた嬉しい。
 そのうち食事の話になると、サンジは真剣にチョッパーの話しを聞いてくれる。
 例えば、病気の時の療養食。怪我したときの治療食。これは血を作るし、この材料をこう調理すれば効果があがる、とか。逆に教わることもある。サンジは本当に、クルーみんなの体調に気を使っていて御飯を作ってくれているのだ、と、チョッパーは心底思うのだ。
 コックとしてのサンジの腕前と、医者としてのチョッパーの知識が加われば、美味しい料理がもっと素敵なものになる。

 サンジが忙しそうだから、チョッパーはゾロを起こしにいく。
 今日の夕飯は、だってサンジとチョッパーの合作なのだ。ルフィは肉ばっか食べるから、栄養が片寄らないように注意するし、ナミにもビビにも健康にいいものを、好き嫌いの多いウソップにだって、うまーく食べられるように。それから、しょっちゅう刀傷を作るゾロのために、身体を早く治せるように、いろいろ二人で考えた。
「ゾロ、ゾロ!」
 蹴りたおさねえと起きねェから、その立派なツノを腹に突き刺してやれ!とサンジは鼻息荒くいったけど、そんなことはさすがにできない。
 何度か揺さぶって、起きないから、これは本当にツノでつつくしかないのかなあ、と困ってしまう。

「あ! そうだ!」

 ナミにね、昼間に貰ったみかん。
 ひとふさとって、ゾロの大きな口に放りこむ。

「………。………。んあ?」

 ほら、起きた!

「あー…。チョッパーか。なんだ、飯か?」
「うん、そうだ!」
 こっくり頷いたチョッパーを眠そうな目で見て、くあ、と欠伸をしたゾロが起きあがる。
「おし。じゃあ行くか」
「お、おう!」
 チョッパーはゾロに肩車されて照れくさそうに笑った。

 ああ、ほら。夜空の星もこんなに綺麗で、みんなの声が聞こえる部屋からはとってもいい匂い。
 毎日毎日、おなじようで、くるくる変わる景色と出来事。
 お気に入りの散歩道も、いつだっていろんな顔を見せる。

 これがね、チョッパーの一日なのです。

■トニートニー・チョッパーのある日。でございます。
■チョッパーは可愛いね、っていうだけの話しです(笑)
■なんか散文のようで、小説って感じはしません…。言葉遣いもちょっと絵本のような、正しくない教科書のような喋り方にしてしまいました。
■とりあえず新年明けましておめでとうございます。正月にもなんにも関係ナッシンな内容ですが…。2002年もシキと198をどぞ、よろしくお願いします。(ぺこり)

2002/01/02 (水)

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