◎ あおぞらシャワー ◎ |
オレンジシャーベットを口に含んで、ふんわり優しい香りが広がったところで、こくんと嚥下する。 天気がいいと自然と気分も昂揚して、すこし暑いくらいの空気に反応して気の利くサンジがシャーベットを作り、ルフィ以下ハラペコ集団に大人気となった。 勿論、それはナミもお気に入りのデザートで。 「ふふふっ」 スプンを唇の上で滑らせて、甲板の上で上着を脱ぎ捨てた連中……といってもルフィもウソップも、チョッパーは勿論薄着すぎて上着があってもなくても同じようなものだが……とにかく、元気な連中がはしゃぎまわってる。彼らを横目でちらりと見てから、ナミは思わず笑った。 ギャアーとか、ワアーとか騒いでる声を聞くと、ほんのすこし…ほんのすこしだけ、心がうずく。 あいつらほど、お子様じゃあないつもりだけど、やっぱり。 (誘われてみたくなるじゃない?) 少し肌がじんわりするほどの暑さだ。多少の水分くらい浴びたところですぐに蒸発して、逆に気持ちよくなれるだろう。 「ちょっと、水の無駄遣いしたら駄目だからねっ!」 海水を汲み上げて濾過する機械は確かにこの船にあるが、それも結構な重労働なのだ。しかも度々壊されていてウソップが目から火を吹く勢いで直している。 「でもナミィ! 気持ちがいいぞう!」 ウヒヒと頬をこれでもかと緩ませて、上機嫌らしいルフィが怒鳴る。 「とりゃあ! 水鉄砲ウソップアタック!」 「ギャー! やられたー!」 アホな会話だ。知能レベルが低いんだから…とかなんとか呟きながらも、 (なんで誘わないのよ、気が利かないわねっ!) なんて身勝手なことを思ってしまうのも、女心のなせる技。 「だあ、てめえら! ナミさんに水がかかったらどうするんだッ」 威嚇しながら現れたサンジはいつものスーツ姿。暑くないのかと聞いたら、 「以外にスーツは通気性に優れてるんで、楽なくらいですよ。まあ、黒いから上着はさすがに脱ぎますけどね」 そうにこやかに説明されてなるほど、なんてスプーンを噛む。 「でも…何か」 気持ち良さそうだわ、なんて言おうとしたナミに、 「しょうがねえガキどもだなあ…! あんな遊び、ナミさんはやりませんよねえ?!」 「―――そうね。子供の遊びよ!」 つい、同意してしまって唇を噛む。 「あ、やべえ!」 「あわわわわっ!」 慌てたようにチョッパーがうろたえ、おそるおそる視線を投げたその先には、 大口を開けて寝続ける剣士の姿。 「ぶっ。なんだ!? 敵襲か!」 顔に思いきり水鉄砲を……正確には、ウソップに当たるはずだった(ルフィの放った)水鉄砲を……浴びせ掛けられ、さしもの剣士も刀を掴んで起きあがる。 「―――あー?」 「あっ、ゾロ。悪ィ悪ィ!」 悪びれずにわっはっはと笑うルフィの手元と、自分の顎から滴り落ちる液体を眺めて、苦虫を噛み潰した顔になる。 「ぶっは! ざまあねえ、クソ剣士!」 「やだ、ゾロったら! とんだ“敵襲”ね?」 サンジが吹き出し、ナミが容赦なく畳みかけるとゾロは思いきり顔をしかめる。 「い、いやー。恐るべき事故だった。事故! そうだよなっ、チョッパー!」 「う、うん! ウソップが避けたから、ゾロにあたったんじゃないぞ!! じ、事故だ!」 ウソップが視線をさ迷わせながら胸を張り、チョッパーがその足元に隠れるようにして頷く。 「………犯人はてめえらだな」 「えーと、なんだ! ゾロ! 水もしたたるなんとかだ! 多分!」 水鉄砲を持ったままルフィが首を傾げ、サンジがフォローにもならないフォローをする。 「ルフィ、そりゃ水もしたたるいい男だ。まァ、俺には似合うかもしれねえが…まりもじゃあなあ! せいぜい、血もしたたるアホまりもってトコだ。ねーっ! ナミさぁんっ!」 「及第点ってトコね。でも、ゾロ」 隣でがっくりと膝を落とすサンジをすげなくあしらって、ナミはにっこり、仏頂面の剣士に微笑む。 「気持ち良さそうじゃなーい! よかったわね?」 これは、ちょっとしたやつあたり。 だって男の子ばかり遊んでいて、ずるいんだもの。 (こういうとき、女は損なのよ!) 時々開けっ広げで馬鹿馬鹿しいほど、能天気で、無邪気な遊びに身を投じたいと思っても、やっぱりそんなの子供っぽいわ、なんてツンと澄ましてしまう意地があるから、駄目なのだ。 ゾロもそんなの興味ないとばかりに寝ているけれど、やっぱり船長たちにせがまれればしぶしぶ起き上がって遊びに付き合ってやるのだろうし…なんだかんだいって、義理堅いというか、人が良いゾロだから頼まれたことを断られたことがない。 渋られたことなら、何度もあるのだけど―――結局手を貸してしまうあたりがあの男の弱さで―――好きなところだ。 「…そうか。俺の安眠を邪魔しといて、てめえらは」 ロロノア・ゾロは不敵に微笑んだ。 「―――ッ!」 ゾロはその場においてあった水のバケツを掴み、うらァとルフィ達に向かって思いきりぶっかける。 「ぞ、ゾロが暴走したァァァ!!」 「逃げろ〜ッ!」 年下のガキどもが逃げ回るのを見て、サンジが飽きれたように顎をしゃくる。 「っだー。これだから寝起きの熊は」 「誰が熊だッ!」 「てめえだ、てめえッ! 俺やナミさんにかかっちまうだろうが!」 「ナミは気持ちよくなりてえんだとよ!」 「ちょ、ちょっとなに…!」 今度は水のたっぷり入った樽を難無く持ち上げて、ゾロはニタァと笑ってのけた。 「そうだよなァ?」 「キャーッ! ばか、ゾロッ!びしょ濡れじゃないっ!」 文句を言いながら、甲板を逃げ回ってナミは何だかおかしくなる。 「うるせえ」 仏頂面なはずの剣士は、何だか珍しく笑っているものだから、ナミも強く文句を言えない。 元々はしゃぎたくてしょうがなかったのだ。 羽目を外したいと思っても、理性と良識がストップをかける。 (やーね、天然は!) 「くンの……クソ剣士ィィィ!」 ナミを庇ってモロに水を浴びたサンジは全身びしょぬれ…まるでそのままスコールを浴びたかのように見事な姿で、かばわれたはずのナミも思わず吹き出してしまう。 「あーら、サンジくぅん? 水もしたたるいい男なんじゃないの?」 「そ、そりゃないよう、ナミさあ〜ん!」 「これだからエロコックは」 「カッチィ〜ン! やるか、コラァ!」 「ハイハイ、ストップ、ストップ!」 ナミは濡れた髪をぎゅっと絞って、ついでに輪ゴムで一つにまとめてしまう。 「ルフィ! 水鉄砲貸しなさいっ!」 「おうっ!」 ただ事じゃない雰囲気にうきうきしていたルフィは喜んで、ウソップ特製水鉄砲をぽおんと、放り投げる。 「ちなみに明らかに濡れた部分が多いやつが、甲板掃除よっ!」 「うわあーっ!」 凶器を持ったナミほど恐ろしいものはない。ウソップがお鍋の蓋を盾に逃げ回り、チョッパーは樽に隠れようとしてひっくりかえったそれから脱出できずにもがいた。 「ナミさん! まるで闘いの女神のような美しさだあ〜!」 サンジもウソップから奪った水鉄砲片手にナミを援護し、追い詰められたゾロがこの野郎!と怒鳴る。「おい、ウソップ! 水もっと持ってこいっ!」 「ギャーッ! ちょっと、何で樽二つも抱えてンのよ!」 「反則でーす! ゾロくん反則でーす!」 「やかましいっ!」 「ゾロ、隙ありっ!」 「ルフィ、てめえどっちの味方だ!」 「あら、ルフィはわたしの味方よね?」 「おい、チョッパー。今度腹巻きの中身を教えてやるよ」 「ほ、本当か!!」 「水鉄砲まだあるぞーっ!」 「シャボン玉やるか! シャボン玉! サンジィ、石鹸とタライどこだーっ?」 「うわあっ! てめえら、俺を集中攻撃するとはどどどどどーゆー了見だコラァ! 狙うならサンジを狙えェ!」 「あーん? 長っ鼻ァ、そんなにキノコフルコースを食らいてえとはいい度胸だ!」 「ウソでーす! サンジくん最高でーす! とみせかけてさあ、いけゾロォ! やっつけろォ!」 「だあっ、俺の背中に隠れるなッ。俺が標的になるだろうが!」 「行くわよ、ゾロ! 食らいなさい!!」 「てめえ、根に持ってやがるな!?」 「チョッパー、二段攻撃だ! 俺の肩に乗れ!」 「う、うんっ!」 「あー。もう、びしょ濡れだわ! 結局!」 タオルで頭を乾かしながら、ナミはそれでも楽しかった余韻を引きずった顔で笑う。 結局、ナミ以外の連中がモップを片手にびしょぬれの甲板を掃除している。 時々大きな音や、声が聞こえるからきっと滑ったり、さぼったりでなんだかんだ騒いでいるのだろう。 やがてがたがたと掃除用具を片付ける音がして、ナミはそっと蜜柑畑へと向かった。 片付けないでおいたバケツからじょうろに水をいれていると、空樽を抱えたゾロが現れる。 「おう」 微かに顎を揺らして、それでも先ほどの攻撃を思い出したのか一瞬顔をしかめ、そのまま行ってしまいそうになるから、 「待って、ゾロ!」 「なんだよ?」 ちゃんと振り向くその姿がいい。 「思ったんだけど、あんた、髪伸びたんじゃない?」 サンジたちを協力させて、ゾロに水を頭っからかぶせたとき…水を含んで重たくなった髪をゾロが鬱陶しそうに払っていたのが目についたのだ。 「そういや、伸びたかもしんねえな」 まだ雫の滴る髪をぶるぶるさせる姿は、大型犬みたいでナミはわらう。 「切ってあげようか?」 「金取るんだっ…」 「タダで」 言葉の途中で割りこむようにナミが言うと、ゾロは疑うような視線を投げてくる。 「裏があるんじゃねえだろうな?」 「ないわよ! なあに、人の好意を邪険にしていいわけ?」 腕を組んでちょっと首を傾げると、ゾロは困ったような顔になる。 「あー。じゃあ、頼む」 少し迷ったのだけれど、結局素直に頭をさげるから、だからナミは顔をほころばせてしまうのだ。 「よろしい!」 結局楽しい事のきっかけをくれたのは彼だから、お礼もこめて…なんて。本人を前にしては口が裂けても言わないことだけれど。 キッチンから椅子を引っ張り出してきて(勿論、持ってきたのはゾロ本人だけれど)タオルとシートを広げて、大人しく座らせるとゾロはまた困ったような顔をする。 「ちゃんとやってあげるわよ! 少なくともルフィのように滅茶苦茶にする危険性はないし、ウソップみたいに器用だけど妙な芸術性を出して、目をむくような切り方もしないわ」 約束してあげる、と。 その言葉にどれほど効力があるか…重点を置いてるか、ナミは知っているからあえて使った。 「ん。わかった」 そうするとゾロは大人しくなるから、ナミは緑頭を見つめたまま少し、笑みを零す。 天気がいいから、シートを広げて、髪を切るには丁度良い。 「あんた、有り難く思ってよね。わたしに髪を切ってもらえるひとなんて少ないのよ!」 「クソコックに見つかったらうるせえから、とっととやってくれ」 「感謝してよね!」 「わかったわかった」 (凄い。根元まで真緑!) 濃厚な新緑を思わせる緑のひと房を掴んで、ナミはじいっとそれを眺めてしまう。 サンジの金髪も綺麗だし、ナミ自身のオレンジだって魅力的な色だと思う。とても、気に入っているし。 ただゾロの髪は凄いと思うのだ。印象的な、緑。 (こういう機会がないと滅多に触れないもんね) 触りたいなんていうことはできないから。 (わたし、意地張ってばかりだわ) だから、だから精一杯の譲歩。 ハサミも一応刃物だから、ゾロ本人が切ったほうが案外巧いかもしれない。 だけど当人の性格を考えれば適当にブチ切って、適当に終らせてしまうんだろう。そう思ってナミは丁寧にハサミをいれた。 (ベルメールさんに、良く切ってもらったなあ) やっぱり、外に出てお日様の下で。 ノジコと交代で、椅子に座って。小さな島だから勿論美容院なんて洒落たものなどなかったけれど、おしゃまな子供は生意気にも養母に向かって、 「ちゃんと櫛でとかして、しゅっしゅって、霧吹きをかけてくれなきゃ!」 はいはい、と笑ってベルメールが頷いたのをようく、覚えている。 それは揃えるだけのものだったけれど、やっぱり少しかわったかと思うと嬉しかった。 服はノジコのおさがりだけど、少し可愛くなれた気がして嬉しかった。 ―――ベルメールに愛情を注がれているのがわかって、確かめられて、嬉しかった。 指を髪の間に滑らせて、ナミは一瞬頬を赤らめた。 ゾロは微動だにしない。目をかるくつむって、腕を組んでじいっとしている。 「…ゾロ」 髪を切る行為に、愛情を感じていたなんて。 「―――ゾロ」 「ねえ」 「…寝てるでしょ?」 むに、と思わず頬をつねると、んが、とゾロが答える。完全に寝ている。 「もうっ!!」 怒って、ナミはふと蜜柑畑に置いたそれを見つめてにんまりした。 「ぶは」 本日二度目の冷たい、水の感覚にゾロが目をあければ、ナミが蜜柑畑からじょうろを傾けて笑っている。 「気持ちいいでしょ?」 「おまえなあっ!」 「髪切り終わったから、一度洗い流してるのよ」 せいぜい、それらしい理由のように澄ましてみるのだけど、ゾロには通用しなかったらしい。 「おい、ナミ!」 「なによ、さっきは思いきり私に水かけたくせに!」 「はっ…お前、羨ましそうな顔してみてたからじゃねえか」 飽きれたように、ゾロは言う。 「てめえがつまらなそうなツラしてるからだ。文句あんのか」 (ないわ) 逆光で良かった。多分、今のゾロの位置からナミの表情は見れないだろうから。 (もう、ヤバイくらい) 好きだと思う。この無遠慮で愛想ナシの剣士のことが。 「ゾロッ」 じょうろを置いて、身を乗り出すと下で剣士は慌てた顔をする。「おい、何を…!」 「両手広げてっ!」 命令して、 「ちゃんと受けとめなさい!」 「あ」 首根っこに思いきりしがみつくと、ゾロの声が直接身体に響く。 「危ねェ女!」 「―――上等だわ」 こんなに天気がいいんだもの。 「私は最高でしょ?」 にっこり笑うと、ゾロは飽きれたように、溜息をついた。 「ハイハイ」 素直になってもいいじゃない? |
◎最初はオールキャラでわいわいやってるので、え?これ?なんなの?カップリング?え?とか思われた方もいるかと。 ◎カワイイ感じのゾロナミは、相方さんが「こんなのどう?」とネタをくれたのがきっかけ。 ◎ゾロの髪をナミが切ってあげるの〜vとかわいくいわれてしまいましたが、ワタクシの印象は「え…エロい!」でした。ぎゃふん。ごめんなさい。 ◎食べ物を咀嚼する行為や、髪を洗う、切るなどの行為はある意味エロティシズムがありまたフェティシズムを感じてしまうのだけど。 ◎ワタシがエロいだけかしら(がびーん) ◎とりあえず、そんな感じです。 02/05/25 |
SEO | [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送 | ||