***共犯者*** | |
ナミの許可なく、みかんの採取を禁ずる。 呑気な羊の船首がにっこり笑うゴーイングメリー号の、それは絶対的法律だった。もし、彼女の許可無くそのオレンジの甘い果実に手を伸ばせば、百倍返しの制裁が待ち受ける。 どんなに食糧難に陥ろうとも、ナミの育てるみかんには手を出してはいけない。 一度空腹に耐え切れずにルフィが手を伸ばした…文字通り、ゴムゴムの力でぐいーんと腕を伸ばしたら、手入れ専用の大きなハサミで腕をちょんぎられかけた。 「ナミの目はマジだった」 その時のルフィの怯えようといったら、他のクルーを震撼させるに充分な様子で。 まだ飢えを我慢したほうが命が永らえられる。時々みかんの成長具合を確かめて、おやつにみかんが使われることもしばしばあったが、いつでも空腹で、育ち盛りな少年達にとって、まるで宝が実っているようなものである。 「ああっ。食いてえ〜」 両手足を投げ出して、みかん畑を下から眺めるルフィの腹はいつでも食べ物を摂取する気まんまんだ。 それなのにナミはダメっと眉と目をつりあげて怒るのだ。時々鉄拳もオプションについてくる。 ナミに逆らうとロクなことがないので、堪え性のないルフィもがまんする。がまんするのだがやっぱりぐにーんと手が勝手に伸びて、オレンジ色の素敵な果実をもぎ取ろうとするものだから、いやいや、ナミにまたぐーで殴られる。もしかしたら逆さ釣りにされて海に向かって放り投げられるかも。 なんにせよ、ナミが怒るのはイヤだと思う。口を聞いてもらえないと淋しい。 「んん。がまんだ!」 ぐ〜るぐるぐると腹を思いきり鳴らして、大の字にひっくり返ったままみかんの樹を見上げた。 影がひょいとルフィを覗きこんで、ルフィの顔を刺していた木漏れ日が一瞬揺れる。 「なにしてるの、ルフィ?」 からかうように言われてルフィはぴょこんと起きあがった。 「うししっ。みかん見てた!」 「食べて無いでしょうね?」 「食べたら、ナミが怒るだろ」 怒られるのやだから我慢してた! 元気良くルフィが笑うと、ナミは一瞬拍子抜けたような顔をして、くしゃんと顔をしかめる。 「わたしがいっつも怒ってるみたいじゃない。 ―――みかんはね、育てるのが結構気を使うのよ。実を採り過ぎてもだめだし、採る時期を間違ってもだめなの。 あんた、最初みかんを盗み食いしたとき青い実採ったでしょ」 「んんっ? そうだったか?」 「あれはまだ若い実だから、採っちゃだめなの! すっぱくなかった?」 「うまかったぞ!」 「―――んもう」 とうとうナミは破顔して、ちょっと待っててとみかん畑へ駆け上る。 「まだ一個ぐらいしか、丁度食べごろのがないのよ…あと三、四日なんだけど…」 にんまり笑って「ルフィ〜?」と笑う。ナミの顔は猫みたいで、ルフィもニカッと笑う。 「一個だけよ。どうする?」 「食いてえ!!」 「大声出さないで、一個しかないのよ?」 「―――食いてえ」 わざわざ小声で同じ言葉を繰り返すルフィの麦わら帽子をひょいと奪って、じゃあナイショで、と渡すと船長の瞳がきらきらと輝いた。 小さなことでも幸せになれるこの少年が少し羨ましくて、彼に選ばれた航海士である自分を誇らしく思う。 (面倒ごとも多いけど!) 嬉しそうにみかんを剥き、丸のみしようとあんぐと口を開けたルフィは、口を開けたままぱちぱちと瞬いた。思い立ったようにして食べるのをやめたルフィはみかんを真っ二つに割って、にししと笑う。 「これ、ナミの分!」 「―――わたしの?」 「ナイショだぞ!」 それはナミのみかんで、 ルフィにあげたみかんで、 それはルフィのみかんで、 ナミが、もらった、みかん。 「いいわ。共犯よ」 ナイショだからね? 船長と航海士はにんまり笑った。 |
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■初ルナミSSになってしまいました(ガビン) ■元々はキリバンリクのルナミイラストのオマケみたいなものです。 ■実は管理人、ルナミも大好きでございます(笑) 02/07/17 |
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ちなみにイラストルナミはこちら。 |
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