Presented by Rinya_yuki Her homepase is here.

繊細な、指。


 それに気付いて、思わず噴き出した。
「おいゾロ。ケツが見えてんぞ」
「ん」
 ケツの開いた剣豪は甲板でくるりと振り返った。
 其処にいたのは上着を脱いだシャツ姿で腕まくりをしたコックの姿。
「?」
 ゾロはもう一度、くるりと百八十度回転した。そして再び首を傾げる。
 その様子を眺めていたサンジはあることに気付き、言った。
「ケツはてめェの後方についてんだから一回転したって見えねェぞ。寝ぼけてんのかお前」
「……あー」
 唸ったゾロが目を閉じた。やはり寝ぼけていたらしい。
 一つため息をついてサンジはゾロに近づいた。こちらを向いて停止している剣豪をまたもくるりと回転させる。
「盛大に穴開けたなてめェは」
「……寝てただけなんだがな」
「寝すぎなんだアホめが」
 寝ているだけでズボンの生地をすり減らすなんて聞いたこともない。
 サンジはさっきよりも大きくため息を吐いて、きっぱりと言った。


「脱げ」
「は」


「いいから脱げ。繕ってやる」
「よし、任せた」
 頷いてズボンに手をかけたゾロの脳天に、降り注いだのはデッキブラシだった。
 がつんと小気味良い音がしてゾロが床に寝そべる。
「ここで脱ぐ奴があるか。露出魔かてめェは」
 口で言えば良いものを手が出るからタチが悪い。恥じらいもなくズボンを下げて下着姿を披露しようとしたゾロが悪いのか、そもそもいきなり脱げと言い出したサンジが悪いのかはどっちとも言えない。
「……お前の手は料理専門じゃなかったか」
 やがてダメージから回復したゾロが立ち上がった。回復早ェなあと思いながらサンジは肩をすくめてみせる。
「下積みってーのは全般的に万能でなくちゃいけねェんだよ」
「ほう」
「まあいいから、それ貸せよ。代わりのズボンは誰かに貸してもらえ」
「嫌だめんどくせェ。毛布でも纏ってりゃ充分だろ」
「まあそうだけどよ……いやとりあえず此処で脱ぐなって」
 再びズボンを脱ごうとしたゾロを、海に放り投げてやろうかとサンジは頭の片隅で思った。








「しかし嫌なところを破きやがるなてめェも」
 見事にぱっくりと開いた割れ目がサンジをとても嫌な気分にさせた。
「こんなん麗しのナミさんになんか縫わせられねェだろ」
「ルフィのなら縫ってたぞ」
「ありゃあ帽子だろうが!!ケツの開いたズボンと一緒にすんな!!」
 毛布を下半身に巻いたゾロと並んでサンジは甲板に座り込んでいた。船のど真ん中で何をやっているのかと少し空しくなる。けれどもやはり、ケツを開けてパンチラしながら歩く剣豪はどうにかしてやらないといろいろな意味で困る。
「……つーかてめェ、人が作業してる横で早速寝るんじゃねェ」
「いてえ」
 ちくっと刺してやったらゾロが呻いた。
 少しだけ楽しい気持ちになったサンジは満足してそのまま作業を再開する。
 睡眠禁止を言い渡されたみのむしゾロはあーだのうーだの言っている。何か口から発声していないとすぐにでも意識が遠くへ飛ぶのだろう。なかなか哀れな光景だ。
 やがてゾロは、サンジの相手でもしようと思い立ったらしい。普段は話しかけられない限り滅多に自分から開かない口を開いてサンジに問いを投げた。
「それは、お前の持ち物か?」
「ん?どれだ」
「その裁縫道具だ」
「ああ、これな。そうですが何か?」
「何でそんな花柄なんだそれ」
 サンジが手にしているソーイングセットは、ピンクの色をして花の模様が渦巻いている。はっきり言ってひたすら可愛い。
 だからこそ、この男が持っていることが不気味だった。
「ソーイングセットってのはそういうもんなんだよ」
「何でだ」
「本当なら可愛らしいレディが持っている携帯アイテムだからだ」
「それを何でお前が持ってる」
「決まってんだろ俺様が天才でかつ器用で何かあった時のために迅速に対応できるようにとの配慮からだ。ケツが破れた時とか」
「ケツじゃなくてズボンだろ」
「細かいこと気にすんなよ!!ケツの穴の小さい野郎だな、アアッ!?」
「何で喧嘩売ってくんだ」
 ケツ、ケツと連呼する二人は明らかに異様だったが、それを指摘する者があいにくこの場にいない。
 ナミあたりが聞いていれば二人の後頭部に大きなこぶが三つずつくらい出来ていただろうに。


「――――器用ってのは、頷けるけどな」


「ん?」
 眠気を堪えて首を鳴らしたゾロのつぶやきにサンジが眉をひそめる。
「だから。お前の手だ。器用だろ、いろいろと」
「……いきなり何だ気色悪ィ」
「そうか?」
 そうだ、と心中でサンジは叫んだ。この男が褒め言葉など口に出すからじんましんが出そうだった。
「料理にしろその裁縫にしろ。喧嘩の時に手を使わないのだって、器用だろ」
「コックは手が命だからな」
「だろ。怪我一つしねェ。だから器用だっつったんだ」
 それは何に対しての器用との感想だったのかその発言で判別がつかなくなった。
 サンジがゾロを見ると、男は相変わらず眠そうに瞼を押し上げて欠伸を堪えている。だからこそ本気か戯言か、わからなくなるのだ。
 器用だと言う。
 サンジにとっては当たり前のことを。


「……何が言いてェ?」


 知りたいような気持ちになって尋ねた。
 そして一瞬後には激しく後悔する。この男の真意など、知ったところで、ただ。


「……繊細だと、言ってる」


 変わらない口調でゾロがつぶやく。
 それがサンジの心臓を握り潰すのが自覚できた。きりきりと、ぎりぎりと、傷みが駆け抜ける。


「傷一つ、つけんな、と、言ってる」
「――――勝手なことを……」


 言い返そうとして言葉に詰まる。ゾロが視線を外してくれていることを心から感謝した。
 この上、瞳を見てなんてしまったら。

 死んで、しまう。

「……情けねェ姿で口説くもんじゃねェよ」
「口説く?何言ってんだお前」
「うるせェ。殺し文句だそんなのはてめェに自覚がなくてもな!!」
 半ばやけくそになってサンジは怒鳴った。
 今すぐにでもこの男の言葉に逆らって指に針を突き刺したい気分だった。そうしたらゾロがどんな顔をするかが想像もつかなくてなかなか興味深くもある。
 だがそれでもサンジは縫い物を続けた。別に何の感慨も抱かない衣服を、ひたすら修復する。
 そうすることで、己の心をも修復できるようにと。



 神でもなく、誰かに、祈りながら。








「出来たぞ。俺ァ天才だなやっぱり」
「おう。サンキュー」
 直ったズボンを受け取って、その場で履こうとしたから思わず蹴りつけた。
「何しやがる」
「だからやめろっつーの下着姿を晒すのは」
 先ほどの心地よくも不快な気分は吹っ飛んだ。ズボンと共に思考を放り出してサンジは立ち上がる。
「あーあ。余計な労力使っちまったな」
「上手いもんだな。元通りだ」
「当たり前だろうがクソマリモ。俺を誰だと思ってんだ」
「コックだろ」
「…………」
 そういうことではない。不穏な気配を身に纏い、サンジは疲れた足取りでその場を去ろうとした。
「……あ、おい」
「……あんだよ」
 おい、で呼び止めるゾロに腹を立てつつもサンジは振り返る。
 ずいっと目前に何かが突きつけられた。


 緑の腹巻。


「……なんだこりゃあ」
「ほつれてる。直してくれ」
「――――」



 今度こそ、ゾロは海に落とされた。



■本人曰く「パンチラ話」だそうです。
■それを聞いて「ぞ、ゾロのパンチラ…ッ!」と、鼻血を出しかけた変態がいたそうな!
■お誕生日プレゼントとしていただきました。やった〜vv でへへー。しやわせだー。
03/01/29

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