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消えるなら、消えてくれるなら

 きらいだ きらいだ

 そこにいるだけで眠れない。
 おまえが起きてそこにいるだけでオレは眠れないんだ。

 いなくなってくれて結構。
 いっそのこと死んでみるか?


「だから、どうすりゃいいんだ」

 その口からその言葉が聞けるとは思わなかった。
 勝手にしろという言葉を待っていたのに。
 どうすりゃいいんだ、だと?
 それはどう言う意味でいってるんだ。
 オレの言葉を参考にでもしてくれんのか。

「オレがここから消えればいいのか」
 
 ある意味そうかもしれない。
 おまえが消えた方が、オレの精神的平穏は訪れるのだから。
 だからオレはその言葉にこういったんだ。

「『消えて』くれんのかよ」


 薄笑いを浮かべて言ってやった。
 本気で消える気もないくせに。
 できないことは言わない方がいい。
 そんなことは、おまえもわかっているだろうけど。
 
「―――たぶん、ムリだ」

「そらみろ」

「オレは―――死ぬことだけはできねぇ。おまえの言ってることはそういう『消えろ』だろ…ムリだな」
 肩をすくめて薄笑い。
 そんな仕草もいまはムカツク。
 おまえがいなけりゃ、こんな思いしなくてすんだのに。

 こんな苦しい気持ちを持たせておいて、知らん振りしているこいつに腹が立つ。
 知らないとは、言わせない。

「よく、わかってんじゃねぇか…オレは、てめぇがきらいだ。死ぬほど、きらいだ」
 さっきも言ったセリフだ。
 ヤツの顔を見ていたらふいに言いたくなった。

 おまえがきらいだ

 神経が逆立つ。
 ささくれて、千切れそうになる。
 苦しくて苦しくて、いっそのこといなくなってくれればと。

 それともオレが消えた方が、簡単なんだろうか。

「死ぬほど―――」

 息を詰めれば死ねる。
 すぐこの真下にある海に身を投げれば死ねる。
 そこのキッチンの刃物を使えば死ねる。

 いいや―――目の前にいい獲物があるじゃねぇか。
 オレが死ぬほどきらいなやつの、命より大切な三つの宝。
 至上最大の、嫌がらせ。

 簡単だ。
 それを奪ってどちらの命を絶っても、オレは救われる。
 どちらの命を―――。


「やめとけ。おまえにはムリだ」

 逆撫でる。
 胸に込み上げてくる思いは、果たして憤りなのかもどかしさなのか、区別がつかなくなっていた。
 どっちでもいい。
 どっちでも大して変わらない。

「―――苦しいんだよ…オレは、てめぇがいると、苦しくてたまんねぇ…。だから『消えて』くれたほうがマシだと思った」
 いなくなったなら仕方ないから、この憤りやもどかしさはなくなるのだと。
 手に届くところにない、きらいなおまえが、近くにいないならそんな思いもなくなるのだと。

 きらいなのか、それとも焦がれているのか。
 区別のつかないこの感情抱えているくらいなら、なくなってしまえ。
 その原因たるモノが、この世からなくなれば。

「じゃあ、消えようか?」

「なに…?」

「そこまでおまえがいやなら、ここで消えてやってもいい。――じゃあな」

 水音が
 水音がずいぶん遠くから聞こえた気がした。
 目の前でにくたらしいツラを晒していたヤツの姿が消え、大きなモノが落ちる水音が響く。
 オレは…オレは――――
 
「―――」

 そのあとは波音だけ。
 時々船体にぶつかる大きなおとが、また響くだけ。

 目の前から消えた。
 オレの一番きらいなやつの姿が。
 心から消えてくれと願った相手。
 姿が消えたのは、一瞬まえ。
 
「おい…冗談は顔だけにしろよ…いい加減上がって来い。あんまりにもクサイ入水自殺ごっこは見飽きたんだよ」

 白いしぶきを上げている波は、そこからは何も語らない。
 飲み込んでしまった感情も、誰かの思いも、記憶も、すべてがあの波間の向こうに。

「おい…てめぇが海に落ちて死ぬタマかよ…。できねえことは最初からすんなって―――もういいから、早く上がれ」

 オレは海周辺を見回した。
 波しぶき以外は、その海にはなかった。
 ぽっかりと浮んで、趣味の悪い笑顔をはりつけた間抜けな顔はどこにもない。
 
「―――ホントに『消えた』わけじゃねぇだろ――」

 動機が激しくなって、あのアホヅラを探す。
 きらいだった。いつも側にいて、カンにさわるヤツだった。
 何かというと意見が衝突し、しょっちゅう命がけの喧嘩もした。

 たまに笑いかけられる顔がきらいだった。
 胸が苦しくなるから。
 そのたびにオレは、ふざけんなと心の中で毒づいていた。
 どうしてオレが苦しくならなきゃいけねぇんだ。

 いつからかは分からない。
 隣にいて、朝起きてメシ食って、闘って笑いあって。
 そこにいるだけで、オレの精神は削られていく。
 ちくしょう、と何度叫び出しそうになったか、わからない。

「――――ゾロ…ッ」

 叶わない願いは、その重さを増やしていったから。



 青い海を目指した。
 どこにでもある海を想った。
 どこにもない海を想った。
 オレがほしかったのは、すべての青。
 それは夢。
 夢は叶えるためにみる物だから、だから…夢見たヤツらには、現実にしてほしいと思った。

 本当に。
 だから、おまえにも――ゾロ。
 消えろだなんて、いわねぇから。


 原因はオレ自身だ。
 ヤツのせいじゃない。
 オレが耐えられなくなったからだ。

 オレの叶わない想いに怯えたから。


 手すりから、オレの夢につながっている海へ身体を躍らせた。

「―――!?」

 がくん、と身体が空中で止まった。
 眼下には青い海。
 さざめく白い波。

 腕が、何かに支えられてそこで止まっていた。

「おまえまで死ぬ気かよ」
 見上げるまでもなく、その声はクソ生意気なオレのきらいなやつだとわかった。

 消えてなかった。
 
「おまえよー、本気で死んでほしいなら…もっと本気で死ねって言えよ」
「な…」
 空中にうかんだまま、頭上から呆れた声が降ってくる。
「本気の声にしか、オレは答えねぇからな。真剣な声には…答えてやることもできるかもしれない」
「何言ってやがんだ、オレもうてめぇが死んじまったと思って――――」
 見上げると、全身ずぶぬれのヤツがいやに真剣な顔でオレを見ていた。
「オレが、消えちまったほうがよかったんだろ?――なら万々歳じゃねぇか、なぁ」
「そうじゃね…」

「なんでてめぇまで飛び込もうとしてたんだよ?」

 そこで聞いてくるか。
 オレはいま、まともじゃねぇんだから。
 何言うか、わかんねぇ。

 止められなくなっちまうだろう…。


「オレは…ッ」

 反動をつけて、ヤツにしがみついてやった。

「……なんだ、はっきり言えよ…」

 仏頂面が、ふいに皮肉ぶった笑みを作る―――いい加減にしろよ…。

「オレは…ッ てめぇが だいっきらいだから最期くらい看取ってやろうと思ってたんだよ…ッ!」

 そのあと、嫌そうな顔をして甲板にオレを放り出しやがった。
「へ…なら、当分先の話だな、そりゃ」








 いまでもオレはヤツがきらいだ。
 いつも皮肉げに笑って、オレのことを小ばかにしやがる。
 でも消えてほしいほどだったあのころの苛立ちはなくなった。
 あいかわらず、もどかしさはあるけれども。

 


 真剣な声には…答えてやることもできるかもしれない




 時々その言葉の意味を考えては、自分勝手に解釈してまた自分の気持ちを再確認する。
 すきだと思えるきらいなヤツに対しての、複雑な感情を。


■正直、誼さんという彼女がこういった「ゾロサン」を書いてくれるとは思っていませんでした。
■ネットで知り合って三年以上のお付き合いになりまして半ば無理矢理ゾロサン(ギャグ系)にはめた本人がいうのもアレですが、いつも襲うか襲われるかの攻防(※乙女を失敗しているアレで)をしている相手なので度肝をぬかれたのも事実、感動したのも事実なのです。


03/01/29

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