*「Valentine Flavor」*
presented by ruirui thanx so mach!


「…オマエさっきのアレは一体何のつもりだ?」
 あれから暫くの後。キッチンではゾロとサンジが対峙していた。
 ランプの一つも無かったが月明かりが影を落とすほどに明るかった。
「イカしてただろーが」
 咥え煙草でニヤリと笑うコックはイタズラが成功した子供そのものだ。
「…なんかめちゃめちゃエロかった気がする…なんだありゃ」
「エロい?」
 少しばかり顔を赤くしたまま渋面をつくるゾロにサンジはきょとんと言葉を返した。
 先ほど配ったココアにはゾロの分だけ一粒のイタズラを落としておいた。それは今日という日に気がつきもしない鈍感男への意趣返しの意味しかなかったのだ。その企みがきっちり成功を収めてくれたものだからサンジは充分満足していたのだけれど、どうしてそんな奇天烈な単語が飛び出してきたのかが分からない。
「なんで?」
 再び疑問をのぼらせたサンジの表情にはどうにも裏はなさそうだ。
「あー、じゃあ珈琲入れてみろ。それからさっきのアレまだあんだろ?それもいれとけ」
 それだけ言うとゾロはガタンと椅子にかけてしまった。
「?…まぁ入れろってんなら入れるけどよ」
 疑問符を浮かべながらもとりあえずはと言われた通りに湯を沸かし珈琲豆を挽き始めた。先ほどのココアとは違う独特の香ばしい香りが夜のキッチンにぷんとばかりに広がっていく。その作業をしているサンジの背中を見ながらゾロはにやりと意地の悪い笑みを浮かべた。先ほどのアレには確かに驚いたがサンジの言わんとするところは理解した。だがそれに付加価値がついている事にまさか当の本人が気がついていないとは思わなかった。堪えきれない笑みを隠そうともせずにこれからの展開を待ちきれない気分でゾロは大きく珈琲の香りを吸い込んだ。
「ほい」
 カタンと2つのカップに注がれた珈琲がテーブルの上に置かれた。それから缶の中から作り置きのそれを取りだしぽとんと音を立てて黒い液体に落とし入れる。大粒のアーモンドを香ばしく炒って少しだけキャラメルを絡めてセミスィートのチョコレートを上掛けし、ココアパウダーを振った上品でシンプルなそれはサンジの作ったおやつの中でも自信作の一品だ。甘過ぎなくて美味しいとGM号のメンバーの評判も勿論至極よろしかった。
 2つ目のカップにも入れようとした手を止められてそのまま入れたほうの珈琲を目の前に差し出された。
「飲め」
 入れたのは俺なのになんでオマエの方が偉そうなんだよ、とぶつぶつ言いながらカップを受け取り口にする。
「んだよ、普通じゃん?」
 ゾロも熱い珈琲をすすりながら「まぁな」などど答えている。
 静かな珈琲タイムはさほどの時間もかからず終わってしまう。
「んで、底の方に溶けたのが見えるだろ?一気に飲んでみろ」
「…なんでそれがエロいに繋がるんだかなー」
 訳わかんねェよ、と最後の一口を口に含んだ途端
 ぶうっっとサンジが噴出しかけた。慌てて口を抑えて真っ赤に染まったサンジの顔を見つめながら
「ようやくわかったか」 
 とこれまたイタズラ大成功の顔をしてゾロが立ちあがった。
「オマエやるなら自分で試してからにしろよ」
 そう言ってサンジの頭を一つ叩いてそのままゾロは部屋を出ようとしたのだが後ろからぐいっと腹巻を掴まれた。
「んあ?」
 振りかえると今だ口元を抑えたままのサンジが物凄い形相で睨みつけてくる。顔が赤いので怖くもなんとも無いのだが気迫がこれまた凄かった。
 サンジは内心で驚愕の極みを迎えていた。
 ブラック珈琲の苦味が広がる中溶けた甘いチョコレートがふわふわと口に入ってくるのに(あ、悪くないじゃん)と思ったのも束の間、次の瞬間ぼんっと顔から火を噴きそうになった。
(なんっじゃこりゃあぁぁぁぁ!)
 確かにエロい、もんの凄くエロかった。とろりとしたチョコレートの中からにゅるりと出てくるアーモンドの感触ががなんともいえず…確かにこれはエロかった。自分からしでかした事とはいえよくもまぁそ知らぬ振りして仕返ししてくれやがったものだ。そんなゾロにも腹は立つ。立つんだが、しかし!
 しかし!である。ここで退場されるのはそれはそれで非常に困る。   
 何が困るってこのままこの状態で置いてけぼりにされてしまうと物っ凄くヤバイのだ。
 意を決したサンジはごくんと口の中の珈琲とチョコレートを飲み下し、ゾロに向かって
(カシッ)
と微かな音を伝えた。
 静かな月夜。誰もいないキッチン。心地よい風と月明かりに落ちる影。
 そしてガリガリとアーモンドを噛み砕く音。鬼のような形相と鷲掴みにした腹巻。
 ムードもへったくれもあったもんじゃない。
(どうしようもねぇよなコイツは)
 面白そうな表情を隠しもしないでゾロは身体ごとサンジに向き直った。
 伝われ伝われと顔を赤くしまるで片思いの少女のように必死になって念じながら見つめてくるサンジの顔から覆った片手を無理やり外し、ぐいっとばかりに引き寄せて「いいか、忘れんなよ?来月にはこの3倍返しじゃすまねぇからな」
 それだけを告げたゾロは本日2度目のバレンタインチョコレートを味わったのだった。



珈琲 それは夜のように黒く、愛のように熱く、そして恋のように甘きもの



■裏、ヴァレンタイン・フレーヴァー。

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