Presented by matsuko Her homepase is here.

★ 犬ができました。 ★


 目下、サンジ博士が発明しているのは、「空間移動機」である。
 地点Aから地点Bへ、持ち運ぶのではない方法によって、物体を運ぶというもの。これが発明されたならば、世界に革命をもたらすだろう。
 研究は今、確実に成功に向かっている。構想が実現しようとしていることに、若干19歳で博士号を幾つも持っている天才博士サンジの胸は躍っていた。

 そこへやってきたのが、ロロノア・ゾロという名の男。
 彼はサンジと同い年で、研究には全く関係のない、無能で優良な一般学生である。サンジとは幼なじみの関係で、彼の明晰な研究資料を狙う人も多くいる中、重要書類が山積みになっているラボラトリーの、厳重なセキュリティシステムにノーコードで入れる、サンジを除いた唯一の人間である。
 ここ、サンジ個人のオフィスであるラボには、アニマルテラピーと称して放し飼っている仔犬がいるのだが、サンジは研究に没頭してしまうと周りが見れなくなってしまう悪い癖があるので、ゾロがたまに犬の面倒を見にやってくるのだ。
 ラボは壁の隔てない一つの開放的な空間になっている。ゾロは奥の方に設置されている大型のコンピューターをいじっているサンジを見つけるが、こちらに出迎えする余裕のない時にヘタに話かけると烈火の如く怒り出す(しかも覚えてない)のをゾロはよく知っているので、邪魔はしない。
 サンジの代わりに、尻尾を振って走りよってきて出迎えてくれた、豆柴の小犬をゾロは抱き上げた。ペロペロと顔を舐めてくるのを好きにさせてやり、「よー、元気にしてたか?」と話かけたりする。ふたりは仲良しさんなのである。サンジが研究に没頭してしまっているために構ってもらえなくて寂しい思いをしていた仔犬は、ゾロの訪問を、ちぎれんばかりに尻尾を振って、歓迎した。
 この犬、元はブリーダーをしているゾロの実家で産まれた犬で、サンジによってゴージャスな女性の名前(ただし、犬はオス)が付けられているのだが、ゾロはそれで呼ばない。
「よし、チビ。散歩に行くか」
 と、犬の首輪にリード紐を繋ごうとしたところを、遠くにいるサンジが、「ちょっと待った!」と引きとめた。
「ん?」
「ちょい、来てくれ」
呼ばれたので、ゾロは頷く。抱き上げていた犬をいったん下ろし、サンジの研究スペースへ素直に足を運ぶ。
 研究はうまくいっているらしい。サンジは達成感に顔を輝かせていて、ゾロはそういう自信に満ち溢れたサンジを見るのが好きだった。しかし、サンジはゾロの好きなすがすがしい笑顔のまま、こう言ってくれた。
「よし、これから最終実験するんだ。ゾロ、このAのボックスに入ってくれ!そんで、あっちのBのボックスから見事ゾロが再生されれば実験成功だぜ!」
 二メートルほど離して置いてある、二つの電話ボックスくらいの大きさをした、透明のカプセルボックスを、あっちからこっちへ、と指さした。
「再生…?」
 無邪気な口調であったが、大変奇妙な単語を聞いた気がして、ゾロは勝手に実験台にされようとしている事に異論を唱えるよりも先に、その単語を復唱した。『再生』…再び生るというからには、生っていない前段階があるわけで。恐る恐る尋ねる。「俺が再生って、言葉がおかしくないか…?」
「ん? なんもおかしいとこねェよ?」
 サンジはニコニコと機嫌の良い笑顔を浮かべたまま、健やかに否定した。
 ゾロはサンジの研究を理解しようとすることは既に諦めていたので、サンジの研究していた機械がどういった仕組みなのか理解していない。サンジが発明した『空間移動機』とは、一度物体を分解し記号化し、そして移動先で物体を再構成するという技術である。仕組みの本質はかなり違ってしまうが、イメージとしては電話のファックスのような機能を思ってくれればいいだろうか。
「大丈夫だって、いいからいいから!」
 だいじょうぶ、などと軽く言われても、信用できるものではないだろう。だって、人間を『再生』だ。
それでなくても、ゾロは昔から幼なじみのサンジの実験台に使われてきて、散々な目にあってきている。ついこの間も、エクスタシーを体感させるとのたまって、これは彼なりの告白だろうかと誤解して受け入れたところ、臨死体験をさせられたばっかりだ。
「なんだよ、この俺が信用できねェってのか?」
 サンジは今にも逆ギレせんばかりに、チンピラっぽくゾロにすごむ。普通の人ならば震え上がってしまうような柄の悪さだが、サンジの性格を熟知しているゾロはそれに欠片も怯むことなく、
「それは俺がおまえの実験で幾度生命の危機に晒されてきたか覚えてて言っているのか?」
「そしたら幾度も俺の発明の人体実験をしたゾロが今も生きているということが俺の実力の証明だろ」
 サンジは今、世界でもっとも注目されている天才科学者の一人で、その実力の限界は未知数だ。しかし、たとえブラックジャックなみの天才的なメス捌きの医者がいようとも、痛くもない腹を切られたい者がいるだろうか。
「とにかく、いやだ」
 ゾロは顔を背け、今度こそ絶対に協力しないぞと、堅く意志表示した。
 それでも、なぜか、いつもなんだかんだで実験に協力してしまうことになるのは、
「そうか…。じゃあ、この機械の使い方を教えるからお前は操作してくれよ。俺が実験台になるからさ」
 シュンとして、そんなことをサンジは言い出すからである。サンジに言わせれば、決して実験で痛い目にあってもかまうものかと思ってゾロを実験台に使おうとするのではない。むしろ、我が身ほどにゾロを大切な存在だと思い、研究者として実行する生命実験という行為に責任を持ちたいと思うからこそなのである。
「わかったよ!この中に入ればいいんだな」
「ゾロvv」
 サンジはゾロに飛びついて、勢いでほっぺの両方にチュウをして歓喜を示した。ゾロが人体実験に協力する時、サンジはよくこうやってキスをする事で感謝と友愛の念を示してくるが、これが今生の別れの餞別だというのならば自分の人生は傍から見れば安いものだな、とゾロは己をなさけなく思ったりする。

「では実験!カプセルを締めまーす!」
 と、今にも踊り出さんばかりのウキウキした調子でサンジが言って、実験が始まった。ゾロが入った透明のAカプセルボックスのドアが、ごごご…、とゆっくり閉まってゆく。
サンジがコンピューターを操作する為に後ろを向いたすぐ後、ドアが閉まり切る直前に、いつまで経っても散歩に連れてってもらえずに不満を抱いていた仔犬がゾロの元に駆けてきた。
「あ!」
 犬が入ってきたと同時に、ゾロのいるカプセルは閉まってしまった。仔犬はゾロの脚にじゃれて、尻尾をハタハタと振って、さんぽにつれてって!、と目で訴えてくる。「お前、入ってくんなよ。おい、サンジ…」
 しかし、サンジはこちらを向かない。カプセルの狭間が真空で密封されていて、中の声が届かないようだ。二つのボックスと繋がっている巨大な機器のコントロールパネルをいじっている後姿が見える。このボックスは、中からは開けられない、少なくとも、ゾロは開け方を知らない。
「まいったな…」
 サンジは研究時こそ周りが見れなくなるが、普段はこのペットをたいへん可愛がっていて、絶対に実験材料に使ったりしない。…ちなみに、サンジがペットは実験材料に使わず、ゾロは実験材料に使うのは、世の母が、たとえ夫と死ぬことになろうとも、我が子だけは生かしたいと願う感情に似ている。
 だからゾロは困っていたのだが、問題はそこではなかった。

 ぽち、っと。
 最後の決定ボタンを押して振り返ったサンジが、ようやく犬と一緒にいるゾロを見つけて、驚愕の表情を浮かべた。急ぎ、取り消しの操作をしようとするが、遅い。サンジがコンピューターに振り返る間もなく、機械が作動し、ゾロと犬はAボックスから姿を消した。
 
 ゾロが分子化されている一瞬の空白は永遠のように感じた、と後にサンジ博士は当時を振り返ってそう語った。一個体の生命体移動については成功を確信できていたが、二固体の生命体の移動は、まだ不確定要素だったのである。

 移動は、あっという間だ。
 Aボックスに入ったゾロとサンジの犬は、Bボックスに移動される。はたして移動は計画通りに実行された。しかし。
 その、現われたシルエットは、サンジを愕然とさせるものだった。
影はたったひとつのみだった。すぐに駆け寄り、蓋を開くボタンを押す。
「ゾロ!」
 エレベーター移動時の何倍かのめまい・吐き気を覚えて顔をしかめていたゾロは、サンジの姿を見るとそれでも立ち直り、おう、と返事をする。
「無事か?意識はしっかりしているのか?俺が誰だかわかるか?」
さっきまでは必要以上に自信満々だったくせに、らしくもなく慌てふためいている様子に、ゾロは疑問を抱く。きょとん、と目を丸くしてサンジを見て、それから自分のまわりの違和感を見つける。
「あれ、チビは…?」
一緒にいたはずの、サンジの飼い犬の姿が消えているのだ。しかし、あれだけ可愛がっていたペットが消えたというのに、サンジはゾロしか見ていない。泣きそうな目をして、ゾロに触れてくる。
「おい、喋れるんだな…よかった」
 と、ヘンなものを触られた気がする。サンジはゾロの頭に手を伸ばしてきたのだが、頭を撫でるでもなく、何かに触っているのだ。というか、己の頭に何かあることに気がつき、ゾロが手を伸ばすと、そこにはふわふわとした……
「?」
 不審に思って、ボックスにうっすらと映る自分の姿を、ゾロは見た。そこには、頭に犬耳がついている自分がいた。
 ちなみに、首にはチビのしていた首輪が巻いてある。そういえば、なんか苦しいと思った…。
「なんだコリャ!!」
「ああ、どうやら、二個体の再生時にエラーが生じ、むりやり一固体に合体することで処理してしまうという現象が起こったようだな」
 サンジは鹿爪らしく推論を口にした。
「てことは…?」
「ああ、お前は今、犬と合体しちゃっている」
「が…」
 昔見た、アニメのロボットじゃあるまいし…。合体って。ゾロは愕然とした。
ゾロに現われた外見上の変化は、耳だけではない。とりあえず、ゾロは自分の首に巻かれていた首輪を外すと、ふと自分の尻の後ろあたりに違和感を抱き、ズボンのベルトを外し、ウエストボタンを外してすこしだけ脱ぐと、自分の尻の付け根あたりから尻尾が生えているのを見つけた。
 ふさふさとしたそれは見覚えがあるもので、確かにさっきまでいたサンジのペットである豆柴のしっぽである。クルンとカールした、あの、茶色毛の。
 愕然としながら、ゾロは尻尾を揺らしてみた。「動く…」とか呟きながら。
「!」
 こんな事態だが、その姿は、目撃したサンジの心ときめかせるものだった。ストイックに鍛えられた身体と端正な顔立ちをしていて、周りからは何考えているんだかわからないと恐れられていて、でも性格は自分のポリシーを持っていて愛すべきバカな、自慢の幼なじみが、動物耳を頭に付けて、
「うわー、チビの尻尾だよな、これ」
 なんて、無邪気にこちらへと尻尾を振って見せてくるのである。ていうか、もう、あのゾロが尻尾を生やしているのである。…ちょっとマニアックだが、サンジ目にはとてもかわいらしかった!
 サンジは頬をほくほくと紅潮させ、かつてないほどドキドキしていたのだが、ゾロはそんなサンジに気がつく様子もなく、
「なんだ…、こんなのまでありやがるぜ…」
 と医者に報告する塩梅で、掌を見せてきた。ゾロの無骨な手の平の真ん中には、こげ茶色の丸いふくらみがあった。サンジのときめきは、マックスに達した。
「…どれどれ、こりゃー…にくきゅう、のようだな、にくきゅうだなこれは。そうか、にくきゅうか。にくきゅうまであるか」
 まるで調べるような手つきでゾロの手の平にできたものをぷにぷに触っていたが、サンジの表情は夢心地だ。ゾロはようやく、サンジが危ない表情をしている事に気が付いた。
「……もう、放せよ」
「もうちょっと…」
 サンジはゾロの手の平の感触を気に入ってしまい、放そうとしない。そこをゾロは力づくでサンジの手から離れた。
「おまえ、気色わりいぞ」
「だって触り心地がいいんだもん。けど、おまえも気持ちよかったはずだぞ!今、尻尾振ってたもんな!」
「ふ、振ってねェよ!!」
 何か、とてつもなく恥ずかしいことを指摘されたような、ひどい羞恥を感じて、ゾロは声を荒げた。主導権はゾロにあるようだが、今は合体した身の上。人懐こくて、構われるのが大好きだったサンジのペットの本能はゾロの中にちゃんと存在しているようだった。
「ゾロよう、直るまでずっとここにいていいからな!」
「いや…なんか…、止めとく」
「あ? その姿で外に出る気かよ」
「平気だろ。まさか動物と合体しただなんて思うヤツはいねェだろうし。ヘンな格好してら、って程度だろ」
 人の目を気にせず、ゾロは平気で腹巻きをしたままコンビニに買い物に行ったりする男なので、動物耳+動物尻尾をつけた今のマニアックな姿で衆人環視の元に出ることも、たいして動じないことであるらしい。
 ゾロはわかっていない。実は、おかしなスタイルで『サンジのラボから』出てきた、というところは重要で、今はあやしげな生命体のゾロは、サンジの研究を狙う黒ずくめの男たち(?)にさらわれて、サンジの取り掛かっている研究を知る手がかりとして人体実験されてしまうという展開も、無きにしも非ずなのだ。
 しかし、サンジはニヤニヤ笑いながら、ゾロの外した犬の首輪を手にとって、
「いやいや、外に出るなら首輪しとかねェと野良犬だと思われて保険所につれてかれちまうかもって」
「てめぇ、他人ごとなのかよ!」
「まさか!」
 サンジはオーバーリアクションで、ゾロの言葉を否定した。「俺は犬の飼い主として、義務を全うしようと思っただけだ。今、おまえは俺の犬でもあるんだかんな!」
「……」
 ゾロは無言でサンジを見た。目がものを言った、元はと云えばてめェが悪いんだったよな、と。
 ゾロの勘気を感じて、サンジはふざけすぎたかな、と咳払いをして身を正し、
「えー、さっそく二固体を安全に分離する方法を見つける研究に着手しようかな、はは」
「ああ、そうしてろ」
 ゾロは投げやりに言う。投げやりな口調で返答され、サンジは唇をかむ。イラだたしげに風に頭をがりがりと掻いて。白衣の下のシャツの胸ポケットからタバコを取り出して、口に咥えた。
「あ、あのよ。ゾロ、俺、こんなことになって、その、…心配してるぜ? だから、俺の目の届く場所にいて欲しいなっていうかよ…」
「アー、いうな。てめェのそういうのはわかってるよ」
「…なら、いいけどよ」
 サンジがそう言って、資料の並べられたデスクに足を向けた。サンジのラボには、機器の置かれた実験スペースと、資料の置かれた研究スペースと、ソファのあるくつろぎスペースがある。ゾロはソファの場所へ移動しようとしたが、歩き出そうとして、後ろを向き、尻尾があるせいで、うまく穿けていないズボンをどうするかなと悩んだ。それにしても自分の尻に尻尾がくっついているという事態である。ハタハタと動く尻尾になさけないような心地で眺めていると。サンジが振り返って、
「………な。研究頑張るから、その前に、もも、も一回だけ、にくきゅう触らして?」
 まるで変態さんのように興奮気味に言ってきたので、ゾロは犬歯の伸びた歯を剥いた。



「calm mind」の竹井松子さん宅にて、「29659」を踏んだ際、冗談のように「キリバンやゾロバン狙ってるのですが゛憎むコック゛じゃダメですよね〜」と言ったら、なんとキリリクとして受けつけてくださったのが始まりでした。
■しかも「ゾロが好きなんだけど可愛さ余って憎さ百倍な逆ギレサンジと、もうなんなのこの子という感じでリアクションに困り果てるゾロ」というアホ過ぎる内容のリクも快く引き受けてくださったまつこさんは女神様です。

■すいません。ワタクシ、大爆笑しました(笑)
■タイトルもお揃いにしてくださったのですー!ギャー!光栄です!
■まめしばというチョイスも最高だと…ッ。松子さん、ありがとうございました!好きだ〜!!!

03/02/21

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