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恋の味は |
こひ、とは甘く甘美なるものなり。 ラブコックはその日、かなり機嫌が悪かった。 とにもかくにも悪かった。何故かといえば、理由は至極簡単だ。 もしかして俺は、一生に一度あるかないか(多分二度とない)、男に恋をしてしまった。 しかも色恋沙汰にはとんと無縁の剣豪、ロロノア・ゾロにである。 あの船長ルフィですら、ナミに人知れる(!?)恋心を抱いているのだ。だのにこの男ときたら、女には興味持たないもちろん男にも興味持たない。女であろうが男であろうが、船長の命令とあらば、または己の意志でその刀の錆にしようとする物騒な輩だ。はっきり言って自らのポリシーにはとことん反する身勝手野郎である。 だのに、そいつに、恋をした。 (不名誉だ) 考えられた事態ではない。予測のつかない人生なんてこれまで嫌というほど経験してきたはずなのにこればかりはどうにも出来ない。 事の発端は、その噂の剣豪がよもやこんな病気にかかるとは、というような風邪にかかったのが原因である。 それをひょんなことから看病することになってしまったサンジが、ゾロに素直に礼を言われてしまった瞬間から、何かの歯車が壊れてしまったのだ。 『ありがとう』 殺人的な破壊力で胸に突き刺さったその一言は、ラブコックの心を陥落させるには十分な勢いを持つ代物であったのだ。 「チクショウ。俺は認めねえ……!恋心なんて、認めねえぞ……!!」 恋をしてしまったという自覚がある割には意地っ張りな言葉をぶつぶつとつぶやいて彼は今日も厨房にいた。 いつもどおり、人より余計に食べる船員分の朝食を用意する。 実に鮮やかな手つきで次々と作られていく朝食は感嘆に値する量と質だ。 ……けれど。 コックの心は、暗澹たる気分に彩られていたのだった。 食堂は、緊張に包まれていた。 それというのも厨房の主から伝わるオーラがびしばしに怒りで占められているからだ。 せっかくの豪勢な食事がこれでは美味しくない。鈍いと評判のルフィですら、ぶすっと唇を尖らせてあまり箸が進んでいない様子であった。 「……おい、ナミ」 「何よ」 ここぞとばかりに、隣の席を陣取ったナミへと話しかける。もちろん、厨房に立つには聞こえないようひそひそ声で、なのだが。 「なんか、どうしたんだ?この雰囲気」 「何で気づかないのよアンタ。まあ場の空気を察しただけでも褒めてあげるべきかもしれないけどさ」 「褒めてくれんのか?」 「わくわくしない。……なんか、サンジくんがおかしくない?」 「サンジがか?そうなのか?」 「そうじゃないよー。なんか厨房から漏れてくる雰囲気がおっかないったら」 「そうかー」 そこでナミは、ルフィには気づかれないようにちらりとゾロを見た。 黙々とスプーンでスープを口に運んでいるロロノア・ゾロは食堂のそんな雰囲気にさえ気づいていない様子でいつもどおりの表情である。 サンジの不機嫌の原因として考えられるのはつい先日の騒動から見てこの男であることに間違いはないのだが、それを果たして本人は気づいているのかどうか。能面のように無表情な顔からは何も窺えないのが癪だった。 やがて片づけが終わったのか、厨房からサンジが席に戻ってきた。 がたごとと席に着き、メンバーと同じ内容の朝食を口に運び始めた。 それからは終始無言で、そろそろ食べ終わり始める仲間たちすらなかなかスプーンやらフォークやらを置けずにいた。 席を立つ瞬間、この静寂を、緊張を壊してしまうのが怖い。 ただひたすらその一心だけであった。 だが、やがて。 「ごちそうさん」 そう言って、真っ先に席を立った者がいた。 言うまでもない、ロロノア・ゾロである。 ぴしーんと張り詰めていた空気ががっしゃんと派手に割れるのがわかった。 思わず他のメンバーはサンジを見た。見てしまった。 サンジが、自分の皿から瞳を上げる。 唇を開き、第一声を放った。 「おい。感想は」 割れた空気が粉々に踏み砕かれた音を何処か遠くでメンバーは聞いた。 「あ?」 ゾロが眉をしかめてサンジを見る。 挑まれた瞳に負けないよう眼光を鋭くし、サンジはゾロを睨みつけた。 「だからよ、何か感想言ってけっつうんだよ。食ってばかりじゃなくてよ」 「何でそんなのいちいち言ってかなきゃなんねェんだよ」 「俺が作ってんだぞ」 「お前コックだろ。この船のコックやってる限りメシ作るのは義務じゃねェのか」 喧嘩腰で来られた以上、ゾロとしても素直に言葉を返すわけにはいかない。多少口を滑ったか、と思ったが後の祭りだ。 サンジの片眉が上方向に正確にぴんと跳ね上がった。 そうではない。 ただ、一言。 「そうじゃねェだろうよォ!!!」 立った。 がたんと、勢いをつけて、ラブコックは立ち上がった。 「俺はただ一言。お前から美味いって言葉が聞きたいだけなんだあああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」 絶叫した。 声を枯らさんばかりにして、大声で、ラブコックは叫んだ。 一瞬後、食堂は静寂に包まれた。 呆気に取られてぽっかりと大口を開けた船員と。 無表情にそれを聞いた、剣豪と。 絶叫した後、我に返れなかった頭ヒート済みのコックとで。 そして更に一瞬後。 口を開いた剣豪が、真顔でこう言った。 「美味かった。ありがとう」 余計な一言まで付け加え、ラブコックの繊細なハートをどかんどかんと叩きあそばされたのだ。 「な、なんじゃお前はあああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!??????????」 もう泣くことしか出来なくなって、サンジは食堂を飛び出した。 嬉しいやら恥ずかしいやら悔しいやらでごちゃまぜになった思考に比例して心臓がどくんどくんと激しく動き回る。 ああ、やっぱり。 やっぱり。 俺は、こひ、してるのかもしれない。 恋の味は、甘美な味。 ゾロが美味しいといったいつもの自分の料理は、今日は格別に美味しいと思ったと、後にラブコックは語ったという。 |
■前回の続き、でゾロサン!ゆきぃー!ゆんちゃ〜ん!愛してるぜベイベ!(投げチッス)←呪? ■またなんかサンジィが気の毒なんですが(悶々としてて)でもゾロが不動激ニブでそんなロロが好き。 ■ヤフメセでゾロサンごっこ(ぎゃふん)してた時に書いてたらしいです。凄いよ、ゆんちゃん。 ■こひ、とか言っちゃう古風なサンジィも大好きです。 ■また書け!このやろう!(命令形でしめつつ) 02/05/07 |
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