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*キッチンスタジアム*

目を凝らせ!耳をそばだてよ!

総て世の理は、一寸先は闇なりき。
息を潜め、感じよ!
扉…その向こう岸を。





ロロノア・ゾロは今、猛烈に喉が渇いている。
いつもどおり、日課の鍛錬を終えたところだ。
暖かな海域での人外な運動量に、体は正直に失った水分の補給を要求している。

(お茶でも水でも…。とにかくなんか冷えたモンが飲みてぇ。)

そう思い立って持ち上げていた超巨大ダンベルを置き、キッチンの扉前までやって来たのがつい先刻のことだった。
そして扉を開こうと手を伸ばしかけて…ゾロはそのまま動きを止めてしまった。


(…怪しい。)


怪しい。あまりにも怪しい。
何がって、この静けさだ。
コックは間違いなくこの中にいる。のだが、しかしバカに…静かだ。
つまり今は片付けだの仕込みだのはしていないのだろう。
にもかかわらず、あの男はひたすら静かに、こんな真昼間に一人でキッチンに篭っている。怪し過ぎる。

ゾロは悩んだ。開けるべきか否か悩んだ。悩みなど殆ど知らぬ男だがしかし、悩んだ。
そうしてどのくらい悩んでいただろうか…最後にはやはり、喉の渇きが勝ったのだ。
どうしても何か冷たいものが飲みたい。飲みたいったら飲みたい。

ロロノア・ゾロは扉を開けた。








閉めた。










(あっぶねえぇーーッ!!!)

心拍が増す。鍛錬の時の倍の汗が流れてつたう。
危ない危ない危ない。
居た。当たり前だが奴が居た。
しかも…間違いなく「アレ」の最中だった。

(逃げよう)

冗談じゃない。こんな場所に水を求めて入るくらいなら海水飲んで寝たほうがマシだ。
逃げる時は力一杯逃げる。三十六計逃げるにしかずと、昔の兵法でも言っている。
そしてゾロが逃げの一歩目を踏み出そうとした、まさにその時…地獄の蓋は開いたのだった。現実はいつも人に厳しい。
サンジがゾロの腕を、掴んだ。

「よぉお、ゾロ…。」

(あぁ…)

「なんで一回開けたドアをまた閉めるんだよ。」

(マジかよ…)

「あれだろ?喉渇いたんだろ?」

(嘘だといってくれ…)

「入って来いよ。スペシャルレモンスカッシュを用意してやろう。」

(いらねぇから離せ…)

「俺もちょっと手伝ってもらいてぇことあるしな。」

(無理…)



何故か、こんな時のサンジには逆らえない。
抗うという選択肢はないのだ。

冷や汗を滝のように流したロロノア・ゾロと、その二の腕を強く掴んだサンジは、そのままキッチンの奥深くへと消えていった。

「ゾロ…、なぁ…どう?この角度…。」
潜めたサンジの声がキッチンに響く。
「やっぱ…ゾロには全部…見える…?」
(…。)
「この向きだと…楽しめねぇ?なぁ、ゾ…」
「だっから俺の知ったことじゃねぇって、――グハァっ!!」
荒げたゾロの言葉に、サンジが綺麗な斜め方向の蹴りを放った。
「声がデケェんだよキングオブマリモ!!!!ネタバレしたらどーーすんだっ!!!!」

お前の声の方がよっぽどデケェ…と思いつつ、ゾロはサンジを睨んだ。
しかし強い視線は持続せず、あっという間に絶望的なものへと変化する。
(アホだ…。こいつはキングオブアホだ…。)
いっそ清清しいまでにそう思わせるアホ王サンジの姿は、いつもの黒いスーツにド派手なハンカチーフを持ち、さらに黒のステッキとシルクハットというまさにアホの真骨頂ここに極まれり、というものだった。
正直、頭痛がする。

「いいか、ネタバレ即ちトリックがばれるということはマジックにおいて最も忌むべき悲劇だ。観客にとっても、マジシャンにとってもな。」

と、酷く真面目な表情で言われたところでこの男に対する”アホ”という見解に一体何の変わりがあるだろう。
三角形の内角の和が常に180度であるように、サンジは不変にアホい。
この料理のやたら上手い暴力コックが、実は「コック」というものに対して酷く個性的で特異的な観念を持っていると皆に知れたのは、いつの頃だったろうか。
なんでもこのアホ曰く、コックは…。

「いいかゾロ!!耳穴かっぽじってよーーく聞け!!」

(…出るぞ、お得意の決め台詞。)


「コックはエンターテイナーだぜッ!!!!!!」


チーン。
(…なんて不変に不滅にアホなんだ。)
そんなサンジの生き様は、いっそ自分よりもよっぽどアナーキーだと思う。
なんでもコックとは、味覚だけでなくあらゆる五感で客を満足させてこその職業とのことで、サンジはいつもこう言うのだった。

『最高の料理と最高の時間の提供が命!デリシャスでワンダフルでラブゲッチューなイリュージョンタイムが理想だ!!』

それはもはやゾロの容量を超えた高次のサンジ的理論であり、サンジ語という新たな言語領域を作り出していた。
要するに、理解不能。

「だからエンターでもハンターでもなんでもいいから、俺を使って練習するのはやめろ…」

そう、それだ。別にサンジがどんなにアホかろうと、どんなに暴力的だろと、コックなんだから料理ができれば構わない。
料理に対して手抜きを一切しないのは共に生活していて簡単に認められることで、それには好感さえ持っていた。
だがどうか、こうして自分を…ハンカチーフからタコだかカニだかを出すマジックのタネが、どんな角度から見ても分からないかという検証に付き合わすのだけはやめて欲しい。


「そうだよな、確かにお前にはワリィことしてると思ってる。」
(…お?なんだ殊勝じゃねぇか。)
「検証中にトリックが分かっちまったら本番を楽しめねェもんな、ほんとにすまねぇ。」
(…。)
「けどウソップは妙に手先が器用で俺より上手かったりするからムカつくし、チョッパーとルフィはキラキラお子様の目だし、ナミさんのお手は煩わせられねぇし、お前しかいねぇんだよ。分かってくれ。」
(……。)
人間ってのはここまであっぱれに勘違いできるものかと、ゾロは人類の新たな可能性を見た気分で少し厳かになった。
結局、アホには勝てない。

「どうか付き合ってくれ…。…クソジジイの立派なよさ毛エンターテイメント精神を俺が会得する、その日まで!!」
「あぁ…、ハァ…。」

もう何も、言えない。
ゾロの諦め9割同情1割の頷きに、サンジはとたんに顔を輝かす。

「サンッキュウ、ゾロ!!いやもう、テメェの剣士の目で見てもらえればあとはどんなステージでも怖いもんなしだぜ!!」

こんなに切ない剣士の利用法を、ゾロは他に知らない。
やはりサンジの物言いは奥が深い。


「よし、じゃあ次はイリュージョンその3、ナミさんに捧ぐ魅惑のプリンストランプの舞だ!!」

何だかもう、これで毎日の美味い食事が約束されるのならそれでいいのかもしれないと思えてきた。

「おう…。で、俺はなにすりゃいいんだ。また斜め横から手元を見てりゃいいのか?」
「いや、今度はそこにあるドライアイスを湯につけて白煙を出してくれ。」
「………。」
「ハイ、これうちわな。仰ぎまくれ。腕鍛えてんだろ?期待してるぜ。」

三刀流の世界一を志す剣士はやっぱり少し―――切なかった。






目を凝らせ!耳をそばだてよ!

総て世の理は、一寸先は闇なりき。
息を潜め、感じよ!
扉…その向こう岸には……魔(ジシャン)が潜む。




 FIN  キッチンスタジアム〜こんなに切ない剣士の利用法〜


■「コックはエンターティナーなんだよ!!」
■すべてはこのおそるべき一言から始まりました。
■ていうかサンジさん、サンジさんしっかり!しっかり!というよりゾロが不憫で仕方がありませんとも(にやにや)

03/01/31

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