★ 小噺。 ★ 〜犬がきました オフライン物語〜 |
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サンジは不て腐れている。 理由は沢山あるのだ。折角可愛い衣装をつけて、美容院にも行って、近所のデパート屋上で行われる特別行事に参加すればゾロの好物がたんまりもらえ、優勝すればもっといい賞品がゲットできたというのに。 当初、ゾロは息巻いて目を爛々と光らせるサンジを見上げ、慄然とした。 近くの美容院でアルバイトをするウソップ(何にしても器用な男だ、とゾロは思う)に頼めば、金がかからないし、こういったケースの物事をナミに相談すると、普段はケチで守銭奴な彼女も意外と懐の大きいところを見せてポンとものを貸してくれたりもするのだ。 しかし、ふりふりだの、鈴だの、余計なものがごたごたとついた装飾品の山を見て、ゾロが沈黙してしまったのは仕方がないことといえる。 「わかっちゃいるんだ…俺だって、無理に着飾ることを強要されればカッチーンとくることもある、だがな、ゾロ」 煙草を咥え、シニカルに微笑ったサンジはどことなく陶酔した目で言うのだ。 「生活がかかってるんだ。てめェも協力しろ? ほーら、可愛い! うわ、ゾロ可愛い〜!」 ピンクの可愛らしいベイビーハットを被ったゾロは物凄い目で抗議した。 しかも上着はフリルとリボンのついた妙ちきりんな衣装で、首のあたりが絞めつけられるような感覚がする。手足には毛糸の靴下だ。 先ほどまでナミがいて、女特有の、 「いや〜ん! かわいい〜!」 とかいうアレに付き合わされてしまっていたので、ゾロの機嫌はこれ以上ないほど低滑空していった。忍耐の文字を腹に据え、ひたすら時間が過ぎるのを待ち、ゾロの表情が段々険悪みを帯びてきてか、ギャラリーもやっと去ったところで、ゾロは耐えかねて靴下を放った。 「あ! なにすんだ、このクソ犬!」 「がうっ!」 滅多に吼えない子犬のゾロだが、この時ばかりは毛を逆立てて怒りを露わにしていた。 靴下と妙な鈴のついたアクセサリーはとれたが、ベイビーハットと犬用の(よくこんなものがあったものだ、と飽きれるほどの)ロリータチックな衣装は外れない。 自棄になって尻尾を追いかけ回すようにゾロがその場をぐるぐるぐるぐる回り出すと、さしものサンジもやりすぎたか、と慌ててベイビーハットの紐を解き、腹のファスナーを引っ張って衣装を脱がしてやる。 しめたとばかりに犬はその瞬間、くん、と前足を仰け反らせて、サンジの肩を押した。 「んなっ!」 「ふざけんな、てめェ!」 琥珀の目を爛々と輝かせながら、ゾロは、言う。 「俺はオモチャじゃねェぞ、いい加減にしろ!」 衣装があったから我慢をずっとし続けた。なにせ貸しだし主はナミである。破ったり、汚したりしたら相当ふっかけられるだろうし、と主人の立場を思い我慢していたのだが―――限界だった。 「こんな着せ替えされるくらいだったら、俺は二度と犬の姿にゃならねェ!」 「ええっ!」 その言葉を聞いて仏頂面だったサンジは驚き、反応する。 「だ、だ、駄目だ! お前はわんこだからこそ愛くるしい利点もあるんだ、てめェみてえなアホ面の男くさいしがたいもいい目つきの悪い野郎だからこそ、子犬になったときのギャップが葛藤も呼びつつこの俺様のわんちゃんに対する愛情をフィーバーさせるっていうか!」 「落ち付けよ」 興奮して胸倉を掴んでくるサンジを押しのけ、 「てめェなあ」 飽きれたようにゾロは肩を竦めた。 「犬の気持ちになって考えたことあるか? なんのために俺には分厚い毛皮がついてると思ってやがるんだ? 人間みたいにつるつるじゃねェからだろ。つまり、服も着る必要がねえからだ。 なのに全部を人間と同じようにしてどうする」 「…。だって」 また不て腐れる。頬を膨らませて、胡座をかいて、顔を背けるご主人様は本当に子どもだ、と、半人半獣のゾロは飽きれ返るのだ。 ゾロは狼と犬のハイブリッド、生まれて数ヶ月の子犬である。 しかし、何故だか知らないが人間にもなれるのだ。 いわゆる、擬人化された…人間に耳や尻尾のある、そういうタイプの半人半獣ではない。 獣の姿なら、獣。人間の姿なら、人間、と割り切って変化できる。しかし今のところ、ゾロにも自分の正体が何であるかなどしらないし、妙な子犬を引き取ってしまったはずのサンジも平然としているので、気にすることではないのだろう、なんて暢気に思う。 サンジはゾロのことを、人狼、だの犬人間、だの好き勝手な表現をする。狼人間でないらしいのは、ゾロが満月を見ても「丸い」としか感じないからだ。 人間も襲わないし、危害を加えるわけでもない。ただフテブテシイ生意気な子犬。 それがサンジの、ゾロに対する認識。 相手が極度のアニマルフェチだからか、それとも「ゾロだからか」は知らないが、とにかく主人の突拍子もない行動には溜息が出てしまう。 「ほねっこ三ヶ月分が〜」 参加賞や、優勝賞品などが載っているチラシを眺めながらまだ恨めしそうにつぶやいているサンジの頭をごちんと叩いて、 「そんなに出たけりゃお前が出ろ。そのヒラヒラの衣装着て」 「んげッ! なななななんでこのクールガイな俺様が! レディに見られたらどうする! ましてや似合っちゃったりして…変な野郎にストーキングされちゃったりして…てめえ、俺のピンチじゃねえか!」 がっくんがっくん襟を掴まれて揺さぶられ、微かに意識が遠のきそうになりながら、ゾロは重々しいため息をついた。 「すとーきんぐだかなんだかよくわからねェが、危なくなったら守ってやる。それでいいじゃねえか」 面倒くせえなあ、というとサンジはアホのように顎を外し、動揺したまま手足をばたばたさせ、仕方ねェなあ、と衣装を丁寧にたたみ出した。 |
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◎オフライン用ペーパー書き下ろし。 03/02/19 |
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