★ 短編集。 ★ 〜犬がきました 外伝03〜 |
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☆ ☆ ☆ ばうりんがる。 ☆ ☆ ☆ 「知ってるか、お前」 にやにやと笑うサンジにゾロは片目をあけて主人を見た。 「最近有名な玩具会社がさあ、犬の声を翻訳するって機械発明したんだと。すごくねえ〜?」 やや興奮気味に言うサンジを見つめ、こいつはあほかとゾロは思った。 だいたい、ゾロは…犬の姿では無理なものの、人間になれるのである。 サンジと同じ種族に変化できるということは、つまり同じ言語を喋れるということ…意思の疎通はかなりの具合でスムーズに(はずだ、ゾロは時折語呂が乏しいのと、面倒くさがって言葉を端的に扱うためややトラブルが発生することも…しばしばある、が、大抵は)行われているということだろうに。 「あ、おめえ、その面はバカにしやがっただろ!」 ぷうっと頬を膨らまし、いいかよく聞けよ!と主人は雄々しく胸を張る。 「すべからく世の…犬猫はもち、動物と一緒に暮らしてるやつはなあ、一度くらいは「こいつなに喋ってんのかしりてえぜ!」って思うもんなんだよ」 しかし次の瞬間、気恥ずかしくなったのかサンジはそっぽを向いた。 「―――お〜、おれだって、てめえがまさかクソむさくるしい野郎になれるって知らなかったころは……ど、ど〜思ってっかな〜とか、気になったし」 「………?」 小犬は寝そべった状態からおすわりのポーズにいそいそとなおり、改めて言葉を濁らせてもごもごと口篭もるサンジをきょとんと見つめた。 「だってよ、てめえ、人間嫌いだったじゃん。つーか…興味がないっていうかなぁ…何処見てるかわかんねえ、尻尾もふらねえ、鳴きも吼えもしねえ、そんな静かな子犬ってのはよ―――なんか、せつねえだろうが」 どんなガキでも、そう、どんな種族でも! 子どもはうるさくてやかましくて面倒で汚くて、可愛いもんなんだと、サンジは本気で言う。 「人間は我侭だから、自分達の使う言葉で―――相手から好きだって言われてえのさ。確信してえんだ。お前はアホらしいと思うかもしれねえけど…あー! なんか変な話になってねえか?!」 金髪をくしゃくしゃと片手でかき乱して、慌てたようにサンジは立ちあがる。 「クソッ! 変な話しちまったな、ワン公。忘れやがれ!」 「―――好きだ」 二足歩行の姿で、人間の言語で、声帯で、 だから、ゾロは伝えてみた。 「面白くてアホで、とんでもねえ主人だ。だけど俺ァ幸せだぜ。人間も悪くねえ。 てめえが人間だからな」 途方にくれた子どものような顔をするサンジを見て、ゾロは真顔で言い放つ。 「好きだ」 ☆ ☆ ☆ かまって、かまって。 ☆ ☆ ☆ 「こ〜ら、ゾロ! 駄目だろ」 今おれぁ飯作ってる最中なんだよ! そう文句を言いながら振り返ると(実際には視線を落としながら、だ)ジーンズにかしかしと爪を立てていたゾロが一瞬ビックリしたように目を丸くしてからくぅんと鳴く。 ん、もーッ! 牛のような声を内心あげてしまうのは、もう心底ゾロにメロメロラブッキュンだからだ。 「か、かわいいじゃねえかゾロ…」 「ぅあおう!」 わん、と、がう、の中間っぽい声を出すのはゾロの甘えるときの声だ。決まってとくに愛らしい、ご主人様がメロメロムネッキュンになっちゃうような声をわざと選んでいるに違いない。なにしてんの、なにしてんの。くりっくりの飴玉みたいな目が何度もサンジを見上げては不思議そうに耳をピクピクさせ、挙句の果てには、 「かまって!」 と言わんばかりにキュンっと小首を傾げる。 ん、もぉぉぉぉぉっッ! サンジは本日何度目かの牛に変身した。 つい先日うちにきたばかりのこの子犬の可愛らしさときたら、殺人的だぜ。ときめきすぎて心臓が痛いぜ。血が上り過ぎて顔が熱いぜ。ていうか鼻血が出そうだぜ。 「…もっ…お、おれ……ッ、だめ…ッ!」 アァッ! と感極まった声でサンジがくたり、と膝をつけば、嬉々として子犬が背中に覆い被さって来る…ほどの大きさもない。ぴと、とTシャツにしがみつくのがやっとで、もたもた前肢を動かして背中によじ登ろうと必死になるのに上手くいかない。とうとう爪を立てられてサンジは、いてえ、いてえよ! と笑いながらゾロをおんぶした。 「ゾロォ、おにーちゃん、ご飯、作れないだろ〜?」 きっと聞くに耐えぬほど甘ったるい声を出している。そう自覚は、あるにはあるのだが止められない。でれでれする頬にゾロがふんふん鼻を寄せて、肩ごしからひょっこり「ハロー」と顔を見せ、サンジは、 (ああっ! この角度のゾロもかあいいっ!) とお祭り騒ぎな心臓を更に絶好調にも高鳴らせた。 「あう、わぅ、お、ぅん!」 (ああああ、なんかゆってる。絶対なんかゆってる) うちの子喋るんです、とか近所に自慢して回りたい。咄嗟に口もと(のヨダレ)を押さえて、サンジは喉の奥で絶叫をかみ殺しながらスィートハートの体温を背中で感じまくる。もう、昇天しちゃいそう。 ゾロ、おれ、もう、お前の熱を感じるだけで―――。 へひ、と変な息を吐いて衝動をやり過ごしたサンジの耳元で独特の息遣いが聞こえる。はっ、は、と短い呼吸音が耳朶に触れ、可愛らしい舌がちょこりと口元から見えた瞬間、 「…ぁあんっ!!!」 舐められた瞬間サンジは前のめりに倒れかけ、子犬は慌てて背中から飛びのいた。びっくりした。なんで舐めただけなのに驚くの。 「や、ごめ、ごめん、な、ゾロ。驚かしてごめん」 「うー」 「ごめんね、ごめんね。おれが悪かったよぉ、ゆるしてよぉ」 土下座せんばかりの勢いで擦り寄ってくる金髪のへたれ顔をしばしば見つめ、子犬は小さく喉を鳴らした。 「ぅうん?」 「ん、もうしない。もうしない。だから、ね? もっかい、ね、だっこ、ね? だっこ。ちゅうでもいいよ。ちゅう。ちゅうちゅうちゅう!」 両手を広げ、いざこの胸に飛び込んでおいでとばかりに、 サンジは全力で愛するゾロを迎え入れた。 「ふ、がああああ!」 「…ッ、うっせえな! なんなんださっきから」 まん前にあった野郎の面を見て絶叫したサンジは、慌ててそれを両手で押しのけた。正直、またか、と思う。またなのか。今夜もか。どうでもいいが近所迷惑だ、とも。 「ゾロォ!! ゾロ、どこだああ!」 「…俺ァ此処にいるが」 「ちっがーう! おれの可愛いぷりぷりぷりてぃあんよの可愛いゾロだよ! ゾロ! 返せゾロォ!!」 「また寝呆けたのか」 ゾロはふーっと溜息をついて、挙動不審なサンジを見つめた。たまにこの飼い主は自分に都合のよい夢をみる。夢の内容は…言うまでもない。両手で必死にしがみつかれて、頬に首筋にん〜っ、と唇を当てられてチュウチュウ吸われ、頭や背中や(ときにはケツまでも!)撫でくり回され…散々な目にあうのはゾロなのだ。今まで吸いついてきやがったくせに、いざ目が醒めるとこうして騒ぎ、この世の終わりといわんばかりに嘆き悲しむ。 アニマルフェチという属性の、悲しきかなこれはさがというものか。 「ゾロー! ゾロちゃーん! …うえええん、ゾロォ〜」 発作か、発作なのか。 マイステディフォーエバーラブ、おれの天使、ぎゃあぎゃあ泣き出したサンジの頭をごちんと小突いて、ゾロは無理矢理両手でご主人様をホールドする。 こうしているとそのうち泣き止んでくかーっと涙とハナミズだらけの顔で突然眠ってしまうのだ。それまでちょっとだけ、我慢すればいい。 ゾロが昼間良く寝るのは、実はこんなサンジのとんでもない癖があるからだったり、する。 ☆ ☆ ☆ |
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◎日記や掲示板に書いてた散文です。 03/10/11 |
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