★ 短編集。 ★
〜犬がきました 外伝02〜

+ あむあむ + (BBSぷちキリバンより)

 噛みぐせ。
 それは幼少期の子犬に起こる現象だ。
 飼い主の靴をがじがじ、スリッパをがじがじ、財布をがじがじ、色んなものをがじがじする。
 早く躾ないと大人になっても癖を引きずるので、できるかぎり早めに矯正しなければならないそれだが、幸いというか当たり前というか、サンジの家の犬にはそれらしきことは起こらなかった。
「ま、あれだよな。いぬ人間だし?」
 半分人間だとして、人間に噛みグセがあったら変態…いやいや吸血鬼っぽい?え?もしかしてマニアックプレ…
「っだー!!」
 突然頭を掻き毟り出した飼い主をきょとんとした顔で、子犬は見上げている。頭大丈夫か、とでも聞きたげな愛犬の表情だが、サンジにしてみればラブリーなマイスィートが、
「だいじょうぶ?だいじょうぶ?」
 とつぶらな瞳で心配しているようにしか思えない。いやいや全く、都合のよいアニマルフェチなのだ。
「っっっ!! ゾッロォォォ〜ン! 心配したか!? おー、よしよし。おれは大丈夫だぜ! 可愛い可愛い可愛いお前を置いていったりするもんか!」
 ゾロは思いきり首を絞められた状態で抱擁され、じたばたと必死にもがいた。なんて飼い主だろう。少しは犬の迷惑も考えて欲しいものだ。
「―――ッ! だから! てめえ、いい加減にしろ!」
 犬の力では暴力的な愛情表現から脱出できないと踏んだゾロは、慌てて人間の…つまり、四足から二本足の姿になって、思いきり抵抗すべく、
「―――がじっ!」
「きぃあ!!!!」
 首筋に歯を立てると、サンジは素っ頓狂な声をあげて硬直した。
「おし、大人しくなったな」
 ふー、やれやれと首を鳴らしてゾロは硬直する主人をふしぎそうに眺めるのだ。
「おい、どうした?」

(どうしたもこうしたもあるか―――ッ!)
 内心、かなり、絶叫しながら。
 ―――恐ろしい噛みグセを残していた人の姿になる飼い犬を、半泣きの状態でサンジは睨むしか、なかったのだ。


★★★


+ こいぬものがたり + (日記より)

「おい」
 睥睨された。睥睨、である。何て生意気な顔!顔!顔!
「聞いてるのか」
「あー」
「あー、じゃねえだろ」
 しかめっ面で腕を組むなんて酷過ぎる。まるでおれが悪いことしたみたいじゃねえか…とサンジは頬を膨らませた。
「コラ。拗ねるな」
「だってー」
「だって、じゃねえだろ」
「でもー」
「…でも、じゃねえだろ」
「―――……」
「だんまり決め込むんじゃねえよ」
「……えへ★」
「可愛くねえから」
 ゾロは淡々とツッコミをいれ続け、とうとうサンジは逆ギレをかました。
「いいじゃねえか!! コンビニ行ったらあったんだよ!」
「コンビニじゃあ高くつくから、買物はスーパーでって決め事はどうなった」
「仕方ねえじゃねえか! スーパーしまってるしッ!」
「百歩譲って、牛乳と豆腐買いにコンビニ行ったのはいいとして」
 ゾロはサンジの隣でくしゃんとしぼんでいるコンビニ袋を顎で指した。
「その妙なものはなんだ」
「―――お菓子…」
「おまえ、自分が市販のそういうもん買ったら怒り狂うくせに、自分じゃ買うのか」
「こんなマーブルチョコに興味はねえよッ! 明日ルフィにくれてやらあ!」
「じゃあ何のために買った」
「……う」
「うちは貧乏なんだよな。てめえは何回も何回も俺にそう言うよな」
「―――はう」
「それはなんだ」

 ゾロはじっと腕組みしたまま問い詰めた。
 サンジはしおしおとうなだれ、
「『こいぬものがたり』です…」
 可愛い子犬のカードは全二十種!
 フィギュアと一緒にコレクションしよう!!
「うたい文句につられんなよ、アホ」
「だって!だって!ダックスが!レトリバーが!チワワが!プードルが!!ビーグルがああああ!」
 わかっている。わかっているのだ。
 サンジは自分の熱狂的なまでのアニマルフェチを理解している。
 ゾロも自分の飼い主のマニアかつアホっぷりを重々承知している。
「今度こんな無駄なもん飼ってきたら、犬の姿で一緒に寝てやらねえぞ。コラ」
「ごめんなさい」
 なんて情け無い脅しだろうとゾロは思いながら、ぺこりと下がる金髪を見て溜息をつくのだった。


◎日記や掲示板に書いてた散文です。

03/01/26 (Diary:1/21 BBS:03/01/14)

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