■ Dear LIFE. ■            Writing by Yukizo様


 特別なことなんて、してやらない。



 ここ数日G.M号は密かに騒がしい。
 おかしな言葉だがそれは事実言葉通りなのだ。要するに、ある男には内緒で他のクルーがばたばたしている。そういうことだ。その男の為にナミでさえもが頭を悩ませ、島に寄れば男の為に時間を費やしている。それが面白くないサンジであったが、今回ばかりは仕方ない。『特別』だから仕方ない。その『特別』の為にクルーはばたばたと動き回っている。いつもよりのんびりと煙草を吸いながらそれを見ているサンジも、実はその男の為に特別メニューを考えていた。それでもそのメニューは豪華なものではない。豪華なものを好む男ではないから、彼にとっての特別メニューなのだ。もしかしたら普段より地味な食事になるかもしれない。それでもいいと、サンジは思っている。本人にさえ伝われば、それで良かった。





「え、おまえプレゼント用意してないのか?」
 眼を丸くするウソップに、サンジは鷹揚に頷く。
「オレ様のスペシャル美味い飯だけでお釣がくるだろ?」
「そりゃ確かにおまえの飯は美味いけどよ…明日は特別な日だぜ?」
 特別な日に、特別なプレゼントを用意する。それが一番わかりやすい気持ちの表し方。
 けれど。
「…オレはいいんだよ。それよりこのオレがあの野郎に何をやれっつーんだ?何か用意してる方がおかしくないか?ナミさんなら別だが野郎にプレゼントする趣味はねえ」
 けれど、それは形に頼っているようで。形がなければ伝わらないようで。
「まあ、おまえらしいっちゃおまえらしいけどな。じゃあ明日は朝から御馳走だな!はりきりすぎないで、早く寝ろよ!」
 勝手に納得したウソップは、サンジの肩を軽く叩いてキッチンを出て行く。明日の朝食が白米に大根と豆腐の味噌汁、焼魚に里芋の煮つけと知ったら、ウソップはどんな表情をするだろうか。サンジは大根の皮を剥きながら、数時間後に見ることになるウソップの表情を想像して笑った。
 特別な日に、特別なプレゼントを用意する。そんなわかりやすいこと、恥ずかしくてできるわけがない。
「だ〜れがあいつの為に必死になるかっつーの。何にもしてやらねえよ、クソッタレ」
 ざまあみろ、と呟くが、それは誰に向けてのものなのか、サンジにもよくわからなかった。





 朝食の下ごしらえを終え、ふと時計を見れば日付けの変わる少し前だった。一瞬時計を見つめ、それからサンジはゆっくりとシンクを片付ける。煙草をくわえ、甲板に降りたのは0時3分前。
「…おい、こんなとこで寝てたら風邪ひくぞ。馬鹿が更に悪化する前に部屋で寝ろ」
 爪先で寝転がっている男を蹴ると、男はそれを嫌がるように背を向け横になった。
「…ったく…まあ、これ以上馬鹿になったら死ぬしかねえな。あ、馬鹿は死んでも直らないんだっけか」
 呟き、サンジは男の隣に腰を降ろす。長く吐出した紫煙が夜の闇に紛れ消えていく。
 その様子をぼんやり眺めていると、不意に膝に重みがかかる。
「…膝かせ」
「…ざけんな、ボケ」
 寝ていたはずの男は、胡座をかいていたサンジの太ももに頭を乗っけていた。
「男に膝貸す趣味はねえぞ」
「趣味はなくても貸しとけ」
「…オレの膝枕は高いぜ?」
「今度返してやるから安心しろ」
 眼を瞑ったまま言う男は、本気でこのまま寝るらしい。こんな時にこんな言い方をするとは、厄介な男だ。普段ならあんな軽い蹴り一つじゃ気付きもしないくせに。
 一つため息を吐き諦めると、サンジは男の額を指で弾いた。頬が熱いのが自分でもわかるが、夜なので見えはしないだろう。第一男が眼を開けることはないだろう。
「…なら来年の3月2日に返せよな」
 既に寝息に変わっている男からの返事はない。返事はなくてよかった。

 特別なことなんて、してやらない。
 そう思っていたけれど。

「…誕生日じゃなけりゃこんなサービスしてやらねえぜ、ったく…」
 そう言った自分の顔が随分優しい表情をしているなんて、サンジは気付いてはいなかった。

◎自然体で普段と変わらないのに、どこか優しいサンジさん。
◎対して生意気かつ偉そうなゾロの対比が素敵です(笑)
◎ナチュラブにほんのり頬を染めつつ!

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