【満タサレル、Soul】


カチカチと鳴る音に、不意に目が覚めた。
キーボードをタイプする音とはまた違った、そしてごく聞き慣れた音に―――火村はうっすらと目を開ける。
「アリース。何してる?」
わざと間延びする様に呼べば、やけに真剣な顔をして『それ』を弄繰り回しているアリス…有栖川有栖がはたから見てもはっきりと分る程度に肩を震わして、ひっくり返った声で返事をする。
「なっ…なんや、キミ。起きてたなら起きてたって云ってもええやん!」
性格悪ぅ、と悪態つく友人に対し、皮肉げに唇の端をもたげる。
そんな火村の表情は―――ことのほか、似合っていて、しかも恰好良く決まっていて…有栖は口を「へ」の字に結んだ。
「…で。センセイ。何で俺のライターなんかいじりまわしてた?」
「小説に使お、思ったんや」
「へーえ。」
ニヤニヤ。笑い方がすでに「お前のことなんか、見透かしてるよ」と云っているようで、すごすごと白状する。
「…このライター、使い勝手悪いんと違う?」
「長く使ってるからな。」
メッキの剥がれた安物の銀色ライターを手で転がす有栖に、火村は寝起きの緩慢な動作で応える。「油は足りてんのに、火がなかなか付かない。」
続いて、「この際だ。マッチにでもする…」と言いかけた助教授は、再び引っくり返ったような慌ただしい音に肩眉を器用にあげた。
「アリス。俺はとめないけどな、運動不足の小説家が、突然曲芸師になろうったって無理なもんは無理だぜ。」
「ちゃうわ!」
椅子から転げ落ちた有栖は涙目で唇を噛む。動揺が見て取れる姿に、火村は低く笑った。
「それで、くれるのか?くれないのか?」
「えっ。なん…」
絶句しかけた有栖に、息を吐くように言う。
「お前の考えてること、わからないとでも思ったか?
本当に「ちゃんと使えない」か心配になったんだろう、アリス。」
長い指で有栖の手の中にぎゅうと押しつぶされているそれを指差して、次に右手をひらひらさせた火村に、有栖は悔しそうに頬を赤らめながら、ごそごそとポケットを探った。
「………しゃあないから、やるわ。」
黒いビロードのケース―――中身は見なくてもわかる、それに火村はふと目元だけで微笑む。
「安月給の小説家から巻き上げたんじゃあ、寝覚めが悪いな。」
「安月給の助教授に、そんなん言われたないわ。」
唇を尖らせて返した有栖に、火村はゆっくり手を伸ばす。
「他に言うことは?」
頬を撫でられ、くすぐったそうにした有栖はニィと笑って云った。
「ハッピィバースディ、火村。大事に使わんと、怒るからな。」

そのすべてに
満タサレテイク 身体のドコカ。

「勿論大事にするさ。」

そのなにかに
満ち満タサレル 心のスキマ。



真新しい銀色のジッポライターが、火村の指で、かちり、と鳴った。


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atogaki⇒ 初有栖川です。最近初、が多いシキさんです(笑)えーと、火村助教授のお誕生日と、火村好きの友人に対する感謝と【愛】、そして犯罪社会学にむける意気込みを表して見ました。結果は実に気の抜ける内容…。有栖が関西弁だからやりたくなかったんだ…俺は関東と東北のハーフなんだ…(笑)眠い中書いたのでわけわからん内容。



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