【フェイク】 |
ガラでもないんだけどね。 守ってやらなきゃとか思ったんだよね。 ―――三十秒だ。勘でわかる。肌でわかる。もうすでに身体が理解している。 三十秒だ。きっかり三十秒で俺は死ぬ。 その間に物凄い量の情報が頭んなかを生め尽くして、片目がじんじん痛んだ。 これが俺のフル。全部のチカラ。あっけないもんだね、人なんてさ。 んー。別にね。 なんていうんだろ。自己犠牲じゃないんだよ。俺はね、そういうのニガテ。 だってさ。自分を犠牲にしても他人を助けたいだなんて、よっぽど崇高な魂を持ってるか、相当のエゴイストだって思うわけ。 そんな綺麗なつもりはないし、自分の度ってのもある程度把握してないとね。上忍なんてやってらんないよ。すぐ死んじゃうし。 いっつも死と隣り合わせの仲良しこよし、お前と俺は一心同体、みたいなカンジで生きてきちゃったからなあ。あんまりそういうことに―――執着、ないんだよね。生きる死ぬの境界線が薄い。 んとね。 心が壊れちゃってるとか、渇き切っちゃってるとか、 そういうのでもないんだ。 なんか、そっちのほうがありそうなんだけどねー。 ほら、俺ひねくれちゃってるからなあ。ははは。 ちゃんと、ね。人並みに欲もあれば、感情に揺れることだって、あるよ。 制御の方法を覚えちゃってるだけで、無じゃあない。 納得できちゃうんだよ。 その時、死ぬって決めた。だから死ぬ。 生き残ったら、それが俺の運なんだと思う。 自分で決めたこと、悔やみたくないんだよね。死んだとしても、生き残ったとしても。 ―――ちょっと、心配なのがねえ。 残しちゃうことなんだよね。え? ああ、あの子たちだよ。 はあ。ガラでもないんだけどね、ホント。 ―――しょうがないよね。 可愛い子ども達。いっとくけど、俺のホントの子どもじゃないからね。既婚者じゃないし。 みんな、良い子なんだ、これが。 忍者にするのが可哀想なくらい良い子で、忍者として生きていく未来が楽しみな、可能性いっぱいの子ども達。 時々ごつんってやりたくなるようなポカやらかしたりするけどね。そういうときは笑って怒るよ? ふふふ。すんごい嫌がること、させちゃうよ。くくく。 ほんと、子どもってスゴイよね。 どんどん大きくなっちゃってさ。今はこーんなちっちゃくて、背だって背伸びしても俺に届かなくって、頭だって小さいんだよ。ビックリだよね。 そのくせ結構頑丈なんだ。硬いっていうより、柔らかいから頑丈なんだよね。 大人になると何もかもが、こう、硬質的になっていくから。 考え方も―――なにもかも。柔軟性がなくなっていくから、時々子ども達をみてハッとする。 大人よりしっかりした目をしたり、なんちゅー無茶を!って頭を抱えさせるようなスゴイことをやってのけたり。流動体の彼らに、感嘆したり。 …見てみたかったなあっていうのが本音かなあ。 残念だなあ。このままさ、あの子たちが頑張って中忍、上忍に―――もしかしたら火影になっちゃったらさあ。俺笑って『良くやったね。』って言ってあげらんないんだよねえ。 ちゃんと褒めてあげらんなくなるんだねえ。 泣くんだろうか。我慢強い子だから、泣かないかもね。 でも、人が傷付いたりしたら、自分の痛みのように考える、想像力のある子どもたちだから―――ああ、ひねくれてるなあ。…うん。素直に、ね。 やさしい子ども達だから、きっと、相手が俺でも泣いてくれるね。 うぬぼれちゃおうかなあ。 あの子は傷付くだろうか。 また、傷付くんだろうか。 子どもの時に負った傷は、生身だろうと、精神だろうと、けっこう引きずるんだよね。 いくつ年を取って、いい大人になっても、ずうっと昔に味わったどんな些細なことだって根に持っちゃったりするんだよ。 こう、しっかり根付いちゃってね。引っこ抜くことのできない棘が刺さり続けて。 柔軟に、俺を飲み込んで、踏んづけて歩くぐらいの気骨も欲しいけれど。 やっぱり、やわらかな特有の、甘ったるいような―――そんな弱さも愛しいと思うから。 我侭を言えば、簡単に忘れて欲しくないよね。 でもね―――忘れちゃってもいい。 記憶から消して。 あるいはなかったことにして。 ムリヤリ踏みつけて。 それでも、お前は泣くのかな。 それは―――可哀想だ。 酷いオトナだよね、先生。大事な生徒を泣かせるなんて、ヒドイねえ。 ごめんね。こういうオトナで。 だからキミたちは真似しちゃイケマセン。 自由でいなさい。出来る限り。こういう風に中途半端に覚悟を決められる、簡単なオトナになりなさんな。 泣いて、笑って、怒って、それを忘れないで、いっぱいいっぱい遊びなさい。ちゃーんと、修行もサボっちゃダメだよ。 決めたんだよ。先生は。 決めることが出来たんだ。―――もうためらわない。 俺はお前を助けるよ。命を繋ぐんだ。それを、厭わない。後悔しない。残念には思うけれど。 そう。 …残念に思うよ。 「センセ―――ッ。」 三十秒きっかり。相変らずそういうトコは鋭い性能の、俺。 さて。 苦しまないように死ななきゃね。じゃないと、この子が絶対、辛い思いをするよ。 笑って死のうか。 俺は嘘吐きだからね。 ちゃーんと、自分に嘘をついて、消えて行く。 「… ……。」 あ、れ。 声は―――まだ出ると思ったんだけど? なんとか搾り出して、あの子の名前を呼んであげる。 保護者気取りだけど、いいよね、最後だし。 そう、最後なんだから。 「いいか、良く、聞くんだよ。」 優しくて、傷付かない方法はないかな。 「先生の目のことは、知ってるよな。 先生の身体が奪われちゃったらさ。もしかしたら、いつか、お前の敵になって現れるかもしれない。」 目だけ、かもしれないけれどさ。 「だから、燃やしちゃいなさい。 火遁の術、出来るよね? 先生ちゃーんと教えたはずだよ。…うん。わかるよね? よし! 良い子だ。」 真っ青になっちゃって、うろたえてる子どもに対してなんて残酷なオトナ。 「仲間を葬ってやるのも、忍びの仕事だよ。 跡形も残らないように、しっかり燃やすんだよ。できれば煙は少ないほうがいい。幻術も一緒に使うことになるから、チャクラの無駄遣いはしないこと。それから、それが終わったら早く逃げること。 いいね? 一人で立ち向おうなんて無謀なことは、思うな。 ―――出来るね?」 ああ。やだやだ。 あの子の名前を呼ぶときは詰まった喉なのにさ。 イヤーな遺言残すときだけはベラベラ喋れるんだね。 …優しい言葉、結局思い付かないんだから。 ダメだね。 爆発するように、俺の身体の中が大きく唸った。 勢い良く五体が弾け飛ぶとか、そんな残酷な術じゃなくってホントよかったよ。 胃液と一緒に大量の鉄の味が、せり上がる。 ―――ダメだ。血なんか吐いて見ろ、この子は動けなくなるじゃあないか。それは、ダメだ。 大丈夫だと思わせる分の出血ならいい。一緒に助かれるからね。 でも、そうじゃない場合っていうのは―――さすがにいくら子どもだからって仮にも忍者なんだから、わかっちゃうでしょ、そりゃ。 「先生のおねがい、聞いてくれる?」 軽く小首をかしげて、かわいく頼んでみる。 「―――なんで。」 渇いた声で子どもが、言う。 「なんで、そんなやさしいの?」 どうして自分のせいにしないの、とか。 どうして自分をかばったの、とか。 そういう意味なんだろうか。 自分のせいで死ぬと思って欲しくなかったから、むりやり血液を飲み込んで、笑った。 「仲間をかばうことの、何処がいけないわけ?」 チームワークが大切だって、いっちばん始めに教えたじゃない? 「自分のせいにしたら、怒るからね。 俺が守りたくて、勝手に手ェ出したんだから、ホント、怒るから。」 「―――や…」 イヤだイヤだと、なくな、子ども。 「先生のチカラで、お前を操って、なにもかも忘れさせちゃおうか。 そしたら、お前は辛くないかな。」 …それも、やっぱり、イヤだイヤだと、抵抗するんだね。 「お前が好きだよ。最高の仲間だった。 ―――凄腕の忍びになれる。いきなさい。」 教師としては上出来のセリフじゃない? さあ。もう俺の命は終わる。 良い子。もう少し君の目を見つめていたかった。 生きていることが、とても―――面白く感じた。 「俺みたいになっちゃダーメだよ。」 子ども、自由に生きなさい。 ああ。嘘(フェイク)って大変だ。 だって、本当は。 俺が、守りたかったんだもの。 なにを? きっと、理想を。 愛っていう形を。 育てた希望を。 優しい、ぬくもりを。 きみを。 俺自身を。 |
■どこかの国の、どこかの忍びの、オトナと子どもの話です。 ■オトナの忍びは子どもをかばって、いま、息を引き取るところです。 ■オトナの忍びはもしかしたらはたけカカシというひとなのかもしれないのですが、 ■子どもの忍びは意図せずに書きました。 ■オトナは後悔するけど、同じくらい後悔してない。 ■俺が、守りたかったんだもの。 ■なにを? ■きっと、理想を。 ■愛っていう形を。 ■育てた希望を。 ■優しい、ぬくもりを。 ■どうも、こういう感じに弱いのです。 2001/12/10 |
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