□ 夢のつづき □


 子供たち。

 ぼくの子供たち!

 嬉しそうに、アンタは言ってた。

□□□□□■

 「はい、帰るよー。」
 半ば面倒くさそうな響きの消えない独特の声に、子供たちが溌剌と顔を上げる。
 やや、任務が終わるとわかった途端、これだもんねえ。
 元々猫背の肩を、心もち落としてカカシが顎を引く。
 今日の任務は、またも「つっまんな〜い!」のアラシ覚悟のDランク。

 野に咲く薬草の選定なんて、草花大好きっこでもなきゃ進んでやりたがるよな、面白みがないものだから。
 しかも、こんな元気が有り余ってるような、好奇心旺盛な少年少女が地道な作業を好むとは到底思えず…思えなくっても任務だし、仕方ないしねえ、と有無を言わさず言い渡した。
 「はーい、んじゃ今日の任務は〜。」
 ほらね、やっぱり予想通り。熱烈なブーイングが待ち構えていたけれども。

 「センセセンセセンセー!」
 きたよ、ほら、きたきた。
 わかってたから、「んー?」と一層やる気のない声で、とりあえず返事する。
 「一楽の…」
 「ヤだ。」
 「ヤだってなんだってば―――!?」
 鬼の即答にナルトが悲鳴をあげて、最近ちょっと、上忍と、スリーマンセルチームでラーメンを食べにいったり、たいやきをつまんだりするのが……悪い気分ではない他の子供二人も内心舌打ちしてたりするのだけど。
 「あのね。そういうのは生徒を一番に考えるセンセーの鏡のようなセンセーに頼むこと。」
 「だって、イルカセンセーは中忍じゃん。ヤスゲッキューのイルカセンセーにばっかオゴって貰うわけにはいかないってば!」
 「…。俺が高給取だったのは昔のことよ?」
 「はいッ!今日は一楽ー!」
 「キャー!センセー、ありがとー!」
 「…フン。」
 「えっ。ちょっと、サクラ?…サスケも?!」
 追加にギョーザとか、おかわりとかしないでね…と内心考えつつ、尻ポッケにつっこんであるペラペラの財布の中身を考えて。
 カカシはちょっと、切ないため息を零した。

 子供たちは可愛い。…可愛いと思うようになった。
 そう感じる自分が少し奇妙で面白い。元来執着心だの、関心だのが極端に薄い(最も、自覚したのは他人に指摘されて後のことだが)…性質らしいからこそ、こうした変化を愉快に思う。
 だって、あのコピー忍者の…写輪眼のカカシがですよ?
 各国暗部のブラックリストに載っちゃうくらいの上忍がですよ?

 下忍なりたてホヤホヤの、ちいちゃな子供たち相手に奮闘中。

 (笑っちゃうよねえ。)
 彼を知り、また彼を尊敬する上忍、中忍の連中らの唖然とした顔が忘れられない。

 でも本当は自分より遥かに
 もっと素直に
 もっと自然に
 もっと―――自由に
 子供たちを愛せるひとを知っている。

 ぼくの子供たち!

 開けっ広げに愛を注いでくれたまるで夢の住人のような「先生」を知っている。

 「センッセーエッ!」
 容赦のないタックルが鳩尾に入り、カカシは「ぐえ。」と潰れたカエルのような声で返す。
 「俺ね、俺ね、味噌チョーオススメー!」
 「ハイハイ。」
 一番元気なひよこ色の髪の子が、これほど遠慮がないのは、信頼されてる証だろう。
 人に対して哀しいまでに警戒心が強くて、最後の最後まで懐こうとしない野生の子だから、心を赦した相手には全力でぶつかってくる。
 「アタシは何にしよっかな〜。塩もなかなか美味しいのよね!」
 二番手、桃の花、櫻の蕾を思わせる髪の娘が人差し指を唇に当てて、夢見るように思いを馳せる。
 でも、隣で一歩先を歩く少年をチラチラ意識しているあたり、まだまだ子供から脱け出せないのだろう。
 「おい、ドベ。もう少し黙ってらんねェのか。」
 刃物の切っ先でピッと空気を切るように、闇色の髪の子が言う。遠慮がない反面、微妙にその言葉がツンケンし過ぎていないのは彼の不器用さを覗わせる。
 「あーッ!うるせえってばサスケ!なんだよ、別に任務が終わった後ぐらい騒いだっていいじゃん!」
 「お前はいつもうるさいんだ、ウスラトンカチ!」
 「あー。ハイハイ、わかったからわかったから。」
 仲裁しないと、おでこの特徴的…いやいやチャーミングな少女が文句を言い出す。キリがなくなるのだ。
 こんな個性溢れる問題児…可愛い生徒をまとめてただなんて、アカデミーの中忍、侮りがたしである。
 「はー。俺ほど教師なんかにむいてない忍者もいないと思うんだけどねえ。」
 『えーっ!?』
 黄色と桃のステレオに、銀色教師がつんのめる。
 「ちょっと……左右から大合唱しないでくれない?」
 耳がキンキンする。
 「たしか〜にッ!カカシセンセーってば遅刻はするし、変な髪形だし、黒板消しはよけらんねーしっ!」
 とナルトが叫ぶ。
 「マスクで顔隠してアヤシーし、猫背で姿勢は悪いし、任務中にヨコシマな本を見る信じられない先生だとは思うけど!」
 とサクラが叫ぶ。
 「………。」
 無言ながらも結構…いや、かなり力いっぱいサスケが頷く。

 「俺、カカシセンセー好きだってばよ?」


 まいっちゃうよね。子供ってさあ。
 ぽりぽり、ほんのり染まったそれを見られないように明後日の方向見て頬を掻く。
 「キャ☆ 照れてるわよーう、らしくなーい!」
 「けっこう面白いってば!」
 (こんのワルガキどもめ。)
 
 「そんなことゆっても〜おかわりはなしだからね?」
 『ケチー。』


 ■■■■■□

 「子供たち!」
 「先生。」
 「はい、カカシ!」
 「えーっと。単刀直入に言っていいですか?」
 「いいよ!いいよ!ばんばんゆっちゃって!!」
 「俺、先生のコドモじゃないです。」

 「子供たち」なんて呼ばれるのは不快でございます、と、サラリと言われた教師はあからさまに肩を落としてしょんぼりした。
 「えー?なんでェ…?センセ、こんなに君達のこと大好きなのにぃ。」
 「あっは、ウッソクサ!」
 ゲラゲラ笑い出したのは親友だった。眠そうな顔で言葉の刃物をきらめかせた友人と、能天気にほんわか笑う教師の掛け合いをわくわくしながら見てたその時から、吹き出すのを必死に堪えていたんだけれど。
 「ウソじゃないってば!」
 「センセー、『ってば!』なんてコドモじゃないんだからさ。」
 「じゃあウソじゃないもん。」
 「退化してるってソレー!」

 「だって僕が呼びたいんだから、しょうがないって〜。」
 笑いながら彼は言ってた。
 「僕の、子供たち!」
 君たちがだいすき。
 君たちがたいせつ。
 さあ、
 僕が見ていてあげるから

 子供たち、大人になりにいきなさい。

 ■■■■■□


 (俺はちょっとひねくれた大人になっちゃったんだけどね。)
 なんてったって、自分に正直に、自分を隠して生きてきた男、はたけカカシ。
 この子たちと、先生と生徒…プラース、上官と部下としてハジメテお会いいたしましたとき、カカシはこれまた自分に素直に言ったのだ。
 『ん―――。…なんて言うのかな。お前らの第一印象はぁ……嫌いだ!!』
 ま。イロイロあった上おもうんだけど。
 この教え子たちなら―――大丈夫かななんて思ったり。
 ああもう、親ばかもいいとこだよ。イルカ先生や自分の恩師にタメ張っちゃうよ。

 この子たちが大きくなってさ。
 その時まで無事に育ちますように、
 自分の身を守れる程度には強くなれますように、
 命掛けの任務で木の葉を影から守る。

 そんな生き方もあるかもねえ、なんてさ。

 恩師の遺志を継ぐワケじゃあないんだけど。(なんかマジメそうでさ。肩凝るでショ?)
 彼が笑ってた、夢のつづきを見たくなる。
 可愛い可愛い、愛弟子達の勇敢な姿を長い眼で見たくなる。
 そう、きっと共に実戦で、お互いのチカラを信じ合ってチームが成り立つその時まで。


 「センセー!なに食べるー!?」
 ナルトの叫びで我に返れば、一楽にご到着。
 「俺と一緒に味噌食お〜!」
 「えっ。先生、塩よねえ?通は塩!」
 「醤油だ。」
 「サスケくんが言うなら醤油で決まりね!!!」
 「サクラちゃん…さっきとゆってること違うってばよ…」
 「うっさいナルト!アンタ味噌ばっかだから、とんこつにしなさいよ!とんこつ!そしてアタシに分けるのよ!!」
 「ハイハイ、わかったから。」
 今日何度目かの「ハイハイ。」を言い渡し、暖簾をくぐって注文した。
 「スイマセン。味噌、醤油、塩にとんこつ、一つずつお願いします。」

 一口ずつ分け合って今日もはしゃいで食べるんだろう。

 子持ちになった男の気分ってこんなんかなあ、とやや調子外れな自分の父性愛を疑問に思いつつ―――カカシは覆面の下で微笑んだ。
 (こーゆーのもアリでショ。)

 「ところでセンセー。」
 「ん〜?」
 「面布つけて、どーやってラーメン食うの?」
 度々食事を共にするのに、何故か三人とも教師の素顔を見たものはいないのだ。
 いつのまにか食べていて、いつのまにか口元の布は元に戻っている。
 上忍はたけカカシ最大級の謎に、子供たちがごくりと息を飲み―――。

 「んー。ひみつ。」

 片目はにぃ〜っと半月になる。


 いつか暴いてみなよ。
 俺の、子供たち?


□□□□□■ 
□怒涛の如く続いておりますナルチョSS。
□カカチ先生ラブなので、カカチ先生モードでお送りいたしました。
□ってこれ子育てSSかい。(ビシィ)
□コドモは可愛くって、大人はフニャけそうになりますが、そこはそれ、大人も一筋縄でなく。
□あくまで飄々とした、手のうちを見せなカカティーが好き…(恥じらい)
□そんでもって、四代目(シメナワ先生?)本誌登場でまたもオリジつっぱしってます。
□エライすいませんでした〜!(ダッ)
2001/09/29 05:23:13

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