【 トモダチだからね 】

 俺は消えちゃうけど、
 君は消えないよ。
 思い出は過去になるけど、
 だって、君には未来があるでしょ?

 きみの真っ直ぐで、偽りのない笑顔がスキなんだって。
 きみのあっけらかんとした、柔軟な生き方がスキなんだって。

 ごめんね。今まで言わないでいてさ。

 でもウソじゃなかったんだよ。
 俺の存在。
 俺の意味。
 俺の―――全部。
 あのね、知ってる?

 俺が君に贈ったもの。
 野原のたんぽぽ、可愛いひよこ、黄色のふわふわ。

 俺が蜂蜜を好きになったのはね、

 俺が君に見せてもらったもの。
 綺麗なみずうみに、朝焼けのすみれ、すみきった青。

 俺が青空を好きになったのはね、

 …スキだよ。



*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*

 一年に三日だけ、今年七つのナルトにとって幸せな日々が訪れる。
 三日なんてあっという間で終わってしまうととても寂しい。
 でも、こうも考える。
 ほら、誕生日とか、七夕とかは一日だけだから。
 だから三日もあるんだ、すごいってば!
 急いで準備する。いたずらっ子に相応しい遊び道具の数々は殆ど手作りで、セロテープでぐるぐるまきのパチンコだったり、拾って磨いた小石だったり、ちょっと色あせた虫取り網だったり。
 それらをまとめて、ずた袋の中にえいと放りこむ。
 うんと小さい頃は火影のじいちゃんのところで面倒を見てもらっていた。
 ナルトには両親がいなかったし、ついでに近しい親戚も兄弟もいなかったものだから。
 それでもちゃんと暮らして行ける最低限の衣食住は支給されていたから、餓えて死ぬこともなければ寒さで凍えることもなかった。それだけでも良かったと思う。
 「だって、俺ってばキラワレモノだかんな。」
 だからっておとなしくしてろなんておかしい。そんなのナルトにとっては関係ないもんね、おしりぺんぺん!だ。
 危なっかしい手つきでおにぎりを四つ作って、それは袋の上のほうに丁寧にしまって、紐をしばった。
 飲み物は現地調達。近くに涌き水の美味しい川がある。
 「よ〜し、行くってばよ!」
 準備万端、急いでゴーグルを額に玄関へ走った。
 「行ってきます」は言わない。だっていう必要がないからだ。

 街から少し歩いた小高い丘。森の近くで、川のせせらぎが聞こえるところ。お月見するのに最高のその場所。
 「兄ちゃん、来たぞ!」
 三つになったその時からのお約束。
 最初に声をかけてきたのはあっちからだったけど、「次からは君が俺を呼びなさいね」ときゃらきゃら笑って言われたから、ナルトはちゃんとそれを守ってる。
 (兄ちゃんはちょっとねぼすけだから、ちゃ〜んとおれが起こしてやんなきゃだめなんだってばよ。)


 「へい、らっしゃい。」
 面白そうな顔で唇を微かにふるわせて喋る癖。
 柔らかそうな茶色の髪の毛、うっすらと微笑んだ夕陽色の瞳。
 「ナールト。一年ぶり。またおっきくなったねえ。」
 この四年間ちっとも変わらない「兄ちゃん」が紺色の浴衣の懐に突っ込んだ両腕を出して、わっしゃわっしゃと容赦なく、ナルトの金色の髪の毛を撫でた。
 「わわわ、兄ちゃんやめろってば。おれもう、こどもじゃないってば。」
 「そんなちいちゃい身体でなにゆうてんねん。」
 ビシィ、と口で言いながら「ツッコミ」とやらをやってくる兄ちゃんが、ナルトは好きだった。

 『なにしてんの、坊。』
 柔らかくって、どっちかっていうと柔らか過ぎてぐにぐにの感覚を覚える、独特の喋り方。
 『あんれま。泣いてるんかい?』
 年齢の掴めない風貌。十代も半ばに見えれば、自分と対して年の変わらないようにも見える不思議な少年。
 『…しゃーねえな。んじゃま、兄ちゃんがちっと遊んでやるぜい。』
 火影以外で、はじめて自分を抱き上げてくれたひと。
 『飴ちゃんあげるから、泣き止んでね。』
 口の中に甘い蜜を、ころんと放り投げてくれたひと。
 『はい、よっくできました!』
 笑顔になったナルトに、合格と笑ってくれたひと。


 「兄ちゃんだってコドモだってばよ!だって、俺と会った時から全然かわんないってば!」
 地団駄踏む金髪のコドモに、しまった、と一瞬顔を顰めた茶髪の少年は、
 「あっははー。一本取られたかねえ。」と薄い笑顔を浮かべる。
 「兄ちゃん、兄ちゃん。」
 縋り付くように懐いてくる…この、子供がこうして馴れ馴れしく腕を引っ張ってくるまでに、三年かかった。
 四年目にして初めて「逢いたかった」と表現してくる彼の不器用さが、痛々しい。
 少年は子供に笑いかけた。
 「よっし、時間もないし遊ぼうぜい。」
 「うんっ!」
 手を繋いで少し年上の子供と、たんぽぽみたいな髪のちいさな子供が歩き出す。
 「………最初、君は手のつなぎ方も知らなかったよね。」
 「うん? 兄ちゃん、今なんかいったってば?」
 オレンジをぎゅっとつめこんだような両目を細くして、「なんでもな〜い。」と兄ちゃんは笑う。



 時間がないと言った兄ちゃんの言葉は、この数年で痛いくらいにわかった。
 実際、兄ちゃんには本当に時間がなかったのだろうと思う。
 見知らぬ…嫌われ者の子供と遊ぼうなんて奇特な事をしようとした、兄ちゃんはやっぱり不思議なひとだったし……決してナルトの手を振り払わない人間だった。
 今、思い出すと酷く恥ずかしいことのように思うのだが…初めて逢った時、ナルトは三つだったのに赤ちゃんのような喋り方しか出来なかった。発育不良っていうんだろうか。
 火影がいつも面倒見てくれるはずもなくて、他の大人達はイヤイヤ面倒を見てるって感じで…知恵遅れだった当時のナルトにだって、それくらいわかった。言葉を教える気なんてなかったろう。
 うめくことしか出来ない、舌の使い方をちゃんと知らない幼児に、兄ちゃんは声の出し方から教えてくれた。笑う時の声、大声出して驚かす時の声、でたらめな歌の歌い方。高度なテクニックになると、イヌやネコの鳴き真似から始まって、スズメにニワトリ、フクロウと鳥類が続いて、森の野生の動物、オオカミ、イタチ、タヌキ。見たこともない動物の鳴き真似まで教えてもらった。
 一生懸命言葉を覚えて一年後、
 「にいちゃんのこえは、がっきみたい。」
 伝えた時、兄ちゃんが本当に嬉しそうに笑ったのが、一番嬉しかった。
 三日目がくれば、それでも別れがやってくる。
 昼を過ぎた頃。ノンキに笑いかけてくるくせに、少し憂いを含んだ眼差しで落ちる陽射しを見止める。
 夕暮れ。御飯はなににしようかなんて話題になる。暮れゆく茜色と、真紅に染まった頬。
 夜の匂いに鼻をくんとさせ、やや気落ちしたような様子になるのをナルトは必死で見ないふりする。
 「悪ィ、チビコ。」
 兄ちゃんはいろんな呼び方でナルトを呼ぶ。おちびさんだの、坊やだの、いかにも子供扱いされるのに頬を膨らましたこともあるけれど、本当は嬉しい。そんなたくさんの呼び方で、誰もナルトを呼んじゃあくれない。
 「時間だぁ。兄ちゃんは行かなくっちゃあなんね。」
 草笛の吹き方、釣りの仕方、木登り、影踏み、鬼ごっこ、かくれんぼ。
 教えてくれたのも、それで遊んでくれたのも全部全部兄ちゃんで、
 それから一年もそれを一人で、忘れないように繰り返すのかと思うと途方もなく悲しくなる。
 「ナル。」
 一瞬ためらうように口をつぐむ。言葉を切って、今度はためらわない手が伸びる。
 「ナール。君は一人じゃないんだかんね?」
 夕陽の瞳が二つ、にっこり笑ってナルトを見つめる。
 「ナールト。俺と、君はトモダチだからね?」



 行かないで。
 言葉を飲み込む。いつものこと。
 行かないで!
 本当は出会った時から言いたかった言葉。
 でも、結局。
 この四年間口に出したことはない。
 一度も、ない。



 「ナルト、ガッコ入ったんだねえ。」
 ツグミの真似してチュイチュイ鳴いてた可愛い声が、突然柔らかな大人の声になってびっくりした。
 「お、おー。アカデミーに入った!」
 「忍者になんの?」
 「うん!!!」
 チカラ一杯頷いて歯を見せて笑った子供に、茶色の髪の毛が微かに揺れて応えた。
 「そおかぁ。」
 「…にいちゃ?」
 「んー?」
 眠そうな目がふわんと綻ぶ。
 「兄ちゃんは、にんじゃきらいなの…?」
 そう言われて考えるように、「ふぅむ」と年上の友人は顎を撫でた。
 「にいちゃも、実はよくわからん!」
 嫌いなのか好きなのか。
 あっていいものなのか―――なくなったほうがいいのか、とか。
 「わっかんねーの!?」
 素っ頓狂な声に、
 「わっかんねー!」
 大げさな身振りで答えが返る。
 「あははは!兄ちゃん、ダッセー!」
 「あっはっは。ホンット、兄ちゃんダッセーなあ!」
 ぐはぐはゲラゲラと笑い合って、ナルトの作った握り飯が喉につかえて咳き込んだところで、兄ちゃんが笑顔を消して、ナルトを呼んだ。

 「ナルト。」

 ほんとは。
 「ナルト。…ごめんなあ。」
 ほんとはわかってた。
 「三日間が…やっとだったんだわ。いっつも………で。俺が暇になれるのって、年に三回ポッチってことでさあ。」
 笑顔で俺を見付けた兄ちゃん。
 「多分、君が目指す先にある……未来に、俺の立場もあるんだろなあ。」
 この匂いは里の大人たちにはないもの。
 「………いっしょに…いらんねえんだわ。」
 もちろん、子どもにだって絶対ない。ありえない。
 しいていうならば

 「じっちゃんと同じにおい。」
 指差して言えば、兄ちゃんが泣きそうな感じの歪んだ笑顔をした。

 「バレてた?」
 俺が忍びだ…って。って!
 「うん。おれだって、わかるってばよ。」
 泣きそうなカオの兄ちゃん初めて見たってば。
 「俺ねえ、君にいっぱいあやまんなくっちゃ。」
 どうしよう。
 カオを見るのがツライ。
 兄ちゃんが泣きそうだ。
 だって兄ちゃんのカオがちゃんと見れない。ぼやけてみえるんだ。
 兄ちゃんが泣きそうだ。
 「名前も…素性も教えなくって、君に、君が一人になるたび辛くなるようなことばっか教えちまった。」
 泣きそうなんだ。
 「―――ナルト。泣くんじゃないよ。」

 泣いたのはちいちゃな子供のほう。
 大きな瞳いっぱいに溢れた水が、洪水をおこさんばかりに、溢れて、溢れて流れ出す。

 「ナールト。聞いて。」
 優しい目がふんわりと和む時。
 「俺は消えちゃうけど、
 君は消えないよ。」

 消えるなんてゆうな。

 「思い出は過去になるけど、
 だって、君には未来があるでしょ?」

 兄ちゃんがいなくなっちゃう!

 「きみの真っ直ぐで、偽りのない笑顔がスキなんだって。
 きみのあっけらかんとした、柔軟な生き方がスキなんだって。」

 そんなん知らないってば!
 知らないってば!!

 「ごめんね。今まで言わないでいてさ。」

 あかるい兄ちゃん。いろんな声の兄ちゃん。ひょうきんな兄ちゃん。
 ねえ、兄ちゃんのホントの声は。

 「でもウソじゃなかったんだよ。
 俺の存在。
 俺の意味。
 俺の―――全部。
 あのね、知ってる?」

 ずいぶん、おとなの声なんだ。

 「俺が君に贈ったもの。
 野原のたんぽぽ、可愛いひよこ、黄色のふわふわ。

 俺が蜂蜜を好きになったのはね、」

 はちみつの巣を兄ちゃんときょうりょくして落としたこと覚えてる。
 おればっか刺されて
 にいちゃん笑ってた。
 笑って最後に飴くれた。

 「俺が君に見せてもらったもの。
 綺麗なみずうみに、朝焼けのすみれ、すみきった青。

 俺が青空を好きになったのはね、」




 「……シ、時間だぞ。」
 「はぁい。」
 どこからともなく聞こえた、第三者の声にナルトがビックリして思いきり震え、兄ちゃんが笑いながらぽんぽんって頭を撫でた。
 「これからねえ、俺はお仕事。命がけなの。
 だからね、バイバイ。」
 最後、冷たく、本当の喋り方で彼は笑った。
 「キツネなんかにかまうな。」
 「うるさいよ。」
 闇に潜んだ怖い声をあしらうように、兄ちゃんが言って、



 「いってごらん。」
 促す忍者に子供がふるえる。
 「…いってごらん。四年間ずっと、最後言いかけてたこと。」
 ナルトがしゃっくりあげた。
 「…いって?」




 「         。」




 「はい、それじゃあ………忘れちゃいな。
 …ちっちゃい、ナルト。
 かわいいナルト。
 俺のトモダチ。
 ウン。

 トモダチだからね。

 おやすみ。」


 兄ちゃんがさっきまで舐めてた飴がころんと吐き出され、ナルトの口に放りこまれた。



 「      。」


 みかんの味がした。












*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*

 コピー忍者のカカシにとって、
 恩師との約束は正直面倒だと思った。
 「君の弟みたいなもんになるんだからさあ〜。」
 ノンキで明るくって、ひょうきんで。
 何事にも関心の薄い、友人曰く「覇気のない」カカシとは正反対の、まるでお日様みたいな人だった。
 本当は、その立場の重みとか、今後の里の有り方とか、憂いをたくさん飲み込んで腹に閉まって。
 だから、火影の部屋の写真にうつる彼の姿は普段、生徒の前で見せる悪戯好きの子供のような笑顔ではなく…少し哀しげな眼差しをしているのかもしれない。

 子供にあったのは偶然。
 高位ランクの任務を遂行するようになっていたカカシにとって、久々の貴重な休みの日。
 (暗部だからサボるわけにもいかないしねー。)
 声も出さずに奇妙な泣き方をする子供。
 (子供なんか相手したことないよ…?)
 自分に言い訳しつつ立ち去ろうとして、できなくって。
 仕方がないのでこうした。

 失った大事な友の姿を模写(コピー)して
 喋り方は…もう一人。大事な友人であり、恩師であった彼を模写した。
 元々自分の喋り方は…クヤシイのだが、恩師の喋り方がすこぅし、うつって、入ってるかもしれない。だからそれほど苦ではない。
 誰でもない人間を演じるのは、優等生カカシにとっちゃあ朝飯前ってやつで。
 自分の姿がバレては今後差し支えがありそうだったし、
 それにほら。
 キツネ憑きの子なんかに関わっちゃ、結構問題になりそうだったから。


 なんて意地張って見ても
 駄目だあね。

 『なにしてんの、坊。』
 ぐにぐにした喋り方。やる気のないときの恩師の喋り方。もちょっとはっきり喋ってくれないかなあ、とカカシが何回思ったことか。
 『あんれま。泣いてるんかい?』
 それでも―――懐は深く、暖かく。
 みんな、大好き!と恥じらいもなにもなく、言ってしまうひとだったからね。
 『…しゃーねえな。んじゃま、兄ちゃんがちっと遊んでやるぜい。』
 抱き上げた時のなんて軽さ。
 抱かれることに慣れていないのがすぐにわかった。びくっと震えて硬直して。そのまままん丸おめめでカカシを―――ぽかんと見てた。
 『飴ちゃんあげるから、泣き止んでね。』
 ほうら、先生のやってた得意技。飴攻撃!とかいってさ。喧嘩するチームの口に飴を放りこんだ。
 『はい、よっくできました!』
 ごーかっくv

 彼の口癖。
 その彼が、頼むよといったちいちゃな命。

 「わかったって、先生。」
 休みは三日間が限度のハードスケジュール。
 俺、生きて帰れるかどうかもわかんない道選んじゃったんだけどなあ。
 「ハイハイ。ちゃんと、見守りますって。」
 あの子が元気でありますように。

 だってみんながいうようにさあ、あの子のどこが化け狐だっての?
 




 「とりあえず、弟っていうか…トモダチにはなったよ?」
 四年間、それもたった十二日。

 「次逢うときは、なんだろねえ。」
 ライバルかな。同じ忍者としての。
 でも、できることならまた保護者とか

 仲間とかになりたいなあ。




 「い いかな いでぇ。」


 「初めてゆったねえ…。」
 舌足らずな君。
 ウソの俺の、大事な親友。


 「いかないでえ…!!」


 「…ナールト。」
 ね、俺ずっと覚えてるからさ。
 お前が俺と過ごした記憶ぜんっぶ忘れちゃっても、
 

 草笛の吹き方。
 スズメの鳴き真似。
 虫の取り方に、
 ―――ねえ。

 俺はお前の大事なものになれた?






 「…スキだよ。」




*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*
010928///
□はじめてのNARUTOSSでッス!しかも…カカ…ナル?(疑問系)
□兄弟チックネタがマイブームなんでそんな感じでス。きっと。
□カカナル!(ば〜んっ)といえないのは年齢差が犯罪だから(アワワワワ)
□嫌いじゃないんだけど、NARUTOはもうあのじゅ、純愛…(ゴツ)
□そういう関係に結び付かないサラっとしててやさしいのもアリかなあ、なんて。
□てかオリジナル要素強くってすいません。
□忍者らしく消えます!うわーん!(涙)さらばっ!(どろろんっ)

→戻←

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送