■ やさしい雨 ■ |
泣きながらリュックが訴えたものだから、雷平原通過は、一時休憩。 ところが、その中間地点である旅行公司でユウナは上の空で部屋に閉じこもってしまうし、アーロンは『召喚士が決めることだ』なんて冷たいし…そのうえリュックが雷が落ちる度頭を抱えて悲鳴をあげる。 「ああああ〜〜〜〜っ!!!」 ひときわ大きな悲鳴に、たまりかねたようにワッカが少女の顔をのぞきこむ。 「お、おい。大丈夫かあ〜?」 「大変、大変ッ!」 見ればリュックの顔が強張っている。先ほどまで雷に怯えてガチガチになっていた様子とはまた違って悲痛なほどで、思わずティーダも立ちあがった。 「リュック?どしたんッスか?」 「ど、どうしよ、ティ。」 少女は憐れなほどうろたえて、自分の服のあちこちを手探っている。 「―――落しちゃった。」 「うん?何をだ?」 根気強く聞き返したワッカに、茫然とリュックが呟く。 「髪留め。透明なスフィアのついた、ちいちゃいの。」 「まあ…雷に怖がってあちこち地面を這いずって逃げ回ったあとじゃあ、そんなちっこいもん落としてもしょうがねえだろうよ。」 「だ、ダメなんだよ〜〜〜!」 リュックが手足をばたばたさせて、 「だって、あれ。死んだ叔母さんの形見なんだもん。 ユウ…――――――んん、なんでも、ないっ!」 雷に怯えて途中で竦んでしまうほど、重度の雷ギライのリュックだ。勿論、探しに飛び出したいのはやまやまだろうが―――なにせ体がついていきそうもない。頭の中でいくら勇んでも恐怖心が芯から根付いた手足が動くのを拒絶する。 ここまで辿り付くのだって、きっとだましだまし進んできたのだ。 しゃがみこんでしまったリュックの表情が気の毒で、おっし!とティーダが拳を握る。 「リュック、任せろって! 俺が探してきてやるよ!」 「え……おい、ティーダ。」 「ルールー、いいよな?」 まず反対しそうな人物の方に向いて、ティーダは目配せする。 ルールーもとっくに承知している、と言わんばかりに、 「少し休んだらまた出発よ。遅くならないようにして。」 (ルールーは、リュックの『叔母さん』が誰のことか―――わかってるもんな。) 今は部屋に閉じこもってる、責任感の強い召喚士の少女―――彼女の母の形見でもある。 ユウナを大事に思うルールー、キマリが反対するとは思えない。あとは…。 「勝手にしろ。」 さあ、どうやって納得させようかと意気込んだティーダは、アーロンの返事に拍子抜けしてしまった。 「へ?いい…んスか?」 「ルールーが云った通りだな。遅く帰ってきたら置いて行く。」 「まっかせとけって!」 形見の件を抜きにしても、青ざめるリュックをほうってはおけなかったし、なによりそれがユウナのためにも繋がるなら俄然はりきって見付けようと思うものだ。 「ごめん、ティー。」 ニギヤカ担当のしょげた顔を何とか笑顔に、と思う気持ちはひとつも嘘じゃなくって。 「俺が探してきてやるから、んな顔すんなって!」 「おっしゃ、行くか。」 不意に元気な声が割りこんで、驚いてティーダが顔をあげれば、逆に不思議そうな顔でワッカが首を傾げる。 「んあ?どうした?」 (どうした―――って。) 「ほれ!早く探しに行くんだろが!」 ぽんぽんっと小脇にかかえたブリッツボールを叩いて、ワッカが笑う。 (ああ、そうか。) これも自然なことで。 「…ラジャッス!」 何だか嬉しくなって、ティーダは笑顔で手を振った。 ひとつも嘘じゃなくて。 雷が怖くてたまらないのも、リュックにとっては嘘じゃない。 ルールーが早く行ってこいといったのも、アーロンが勝手にしろといったのも、不思議なことじゃない。 それと同じくらい、自分が率先して探しに行かなきゃ!って思ったのと、 ワッカが行くぞ〜って云ったのも、当たり前のようなこと。 「へへ、なんか、いいッスね。」 「なんか云ったかあ?」 地面を見つづけていると雷が避けられないため、一人が雷番とモンスターを警戒する。 目を皿のようにしてじぃ〜っと岩肌を探って行くワッカの背中を見ながら、ぽつんとつぶやいたはずの言葉は―――ワッカに届いていたらしい。 個性的な前髪がぴょんと跳ね、剽軽な目が笑って振りかえる。 「何でもないッス!」 (仲間!って感じがして、いいなって思ったッスよ!) 勿論照れくさくってそんなこと言えやしなかったけれど。 「あんな風に泣くのを我慢されると、なんかしてやりたくなるじゃねえか?」 石ころの影、飛雷塔の影のひとつひとつ。丁寧にぐるっと巡りながら、ワッカがもごもごと言う。 「―――そういやあ、お前も泣きそうだったなあ。」 「…はあっ?!」 少し、聞き捨てならないじゃないか。 「な、俺泣いてなんか…」 「へへ。な〜ら、いいんだけどよ。」 「なんッスか!」 大きな背中がまた丸くなるのを見て、頬を膨らませて眉根を寄せる。 ティーダのそんな膨れっ面が見えたはずもないのに、ワッカが背中を揺らした。 「んな顔すんなって!」 「―――んじゃ、笑うなっつの!」 「それもそーだな。」 立ちあがった背の高い青年に、膨れっ面のまま対面すれば―――不て腐れた少年の表情にワッカが途方にくれる。 「おいおい、拗ねるなって〜!」 はじめて逢った日の夜だって、泣きそうな目をしてたのに。 今だってティーダは強がって、泣いてないッスよなんて云う。 (参ったなあ。) なんだか、無性に、可愛いと思ってしまう。可愛がってやりたくなる。こう、頭をぐりぐり撫でて「いいこ、いいこ」したくなるのだ。やったらきっと「子供扱いするな〜!」って怒るだろうから、ここはぐっと我慢。 でも時折、我慢が出来なくなる。 元々泣き顔に弱いのだ。チャップしかり、ユウナしかり―――ルールーは泣き顔なんて滅多に見せることはなかったけれど―――もう、根っから『お兄さん』が沁み付いてるワッカにとって、涙をこらえる仕草は途方もなく混乱する。 何かしてやらなければと慌てる反面、それが、なんとも―――いとおしい。 だから、そろ〜っと腕を伸ばして。 「おーら!腐ってねーで真面目に探すべ!」 突然のヘッドロックに慌てて脱出を試みるも、がっちりと絞められれば思うように身動きが取れない。 「ワッカ!ヤバいって!雷!雷っ!」 「うぉおっ!」 前のめりになった途端、すぐ側に雷が落ちた!「あちっ!あちぃ!」 石を砕いて火花が散り、ワッカがぴょんぴょんと跳ねる。突き飛ばされたティーダは「痛いッスよ〜!」と文句を言うも、その光景が目に飛び込んできた途端笑い出してしまった。 「あはははは!ワッカ、おっかし…ぷはははは!」 「なにィ!雷に笑うもんは雷に泣くんだぞ!」 ほれ後ろに、とワッカが指を差し、ティーダも慌ててぴょんぴょん跳ねる。 「こ、これ、タイミングの問題ッスよ。慣れれば100回や200回、かぁる〜く避けちゃうッスね。俺なら!」 「冷や汗かきながら言ってもなぁ」 がははと笑うワッカは、いっそ気持ちいいと思う。 時々信じられないくらいオカタイことにこだわるし、顔をしかめたくなるけれど―――生来酷く気持ちの良い男なのだ。 「…あー。雨、強いよな」 それなのにどこか心地よさそうな目にぶつかって、ティーダの青い瞳が押し黙る。 「でも、気持ちよさそうッスよ」 笑ってるような、泣いてるような目にぶつかって、ワッカの明るい瞳が戸惑い揺れる。 「…うーん。気持ち良いかもしんねえ」 根っからブリッツ選手のワッカがにんまり笑い、ティーダもくっくと喉を鳴らした。 「あんまり雨にあたって、風邪なんか引いたって俺知らないから!」 「おれは簡単に病気にゃならねェよ。鍛えてっからな」 さて、と落し物探しに戻りかけたワッカに、ティーダは慌てて叫んだ。 「なあ、ワッカ!」 雷鳴が響く中、声を張り上げて―――。 (俺何してんだろ?) 雨が吹き荒ぶ中、何かを言おうと大きく口を開けて―――。 「………なんで、探そうと思ったッスか?!」 「はあ?!」 ワッカも声を張り上げている。 「…っだから!こんな……暗くて、雷すぐ落ちて…! 雨だっていっぱい降ってんのに、なんであんた探すのためらったりしないんだ?!」 リュックとはいいコンビのようだった。元気で明るい生来の性格同士、馬が合うのかもしれない。 だからだろうか。それとも単にお兄ちゃん気質というやつだから? 面倒見がいい性格で、困ってるひとをほうっておけなくて、優しいから? 優しいから俺は拾われて、仲良くなって。それはワッカにとって全然普通の、当たり前の、特別のとの字もない…ごく当たり前の―――。 自然なままで。でもなんでだろうって思う。 なんで、そうなんだろうって思う。 「リュックが、落としちまったからだろが!」 雨が頬を叩くし、目の中に入ってくる。大声で喋ってるから口の中だってそうだ。 「それにお前ひとりで探す気だったのかぁ?」 「…だって…」 ここにきて、ティーダは、リュックに逢うまで一人で。 一人は辛かった。一人で生きる苦痛は知っていた。 無口で何考えてんだかわからない、アーロンだったとしても、いてくれていてホッとする自分がいるように。 もう一人で海に放り出されるのは、いやだ。 けどそれでも孤独を歯で噛んで、 独りで我慢しなくちゃいけないんだって。 「一人で探すよか、二人で探したほうが見つかるかもしんねーべ?」 ワッカが笑うと、突然鞭のように頬を打っていた雨が、柔らかくなった。 「なんだよ、仲間がいるのにわざわざ一人でやるのかあ?」 水臭いやつめと言うと、凍えるほど冷たかった雨が、不意に温度をなくした。 「……今は、一人じゃないだろーが。」 音が、 周りが、 無音になることがあるなんて。 「ワッカ。」 雷が鳴ろうが、雨が降ろうが、あの重たい雲の上には気持ちのいいアオゾラがあるのかと思うと、何だか涙が出る。 「…ッ!足元!足元!」 「んんっ。……おお!これか?リュックのいってたやつは」 岩陰にちょこんと隠れるようにして輝いていた髪飾りを壊さない様に、ワッカの指が慎重に摘み上げる。「な、見つかった!」 これできっとリュックはまた笑ってくれる。少々雷警報のため、強張っているかもしれないけれど。 「………俺、思えばワッカに拾われたんだよな?」 「あ?」 ぽかんと見つめてくるワッカの頬に落ちる、雨のしずくを指で弾いて、 「ワッカに拾われて良かったッスよ!」 笑顔がこぼれた。歯を剥き出しにして笑った。きっと恰好悪くて、全然大人っぽくなくて。 それでもやさしい雨が、頬を撫でるから。 ひときわやさしい雨が降るから。 (……生きてて欲しいよな、みんな) 笑っていてほしいよ。スピラの住人じゃないティーダでも、心から思う。 こんな雨がふって、土が生きて、緑が芽吹いて、太陽があって、水がきれいで。 (―――とにかく、やってみるッス!) そろそろ泣き虫を卒業しないといけないし。 だから、 あの重たい雲の上には きっと、青空。 |
■久々に書いたFFX…でワカティ(微妙)な話しです。 ■あちしにらーぶらーぶは書けないのよ〜う!(回転)って感じです(笑) ■この話しは去年から書いてたんですが進まず…一気に書くことで終わりまで結構無理矢理こじつけました(笑) ■ワッカさんは好きです。頭の硬いとことかもひっくるめて好き(笑) 旅の中で柔軟さをティーダから教わったと思うのです。外の世界からきたものだけが持つ独特の感性に触れてふしぎな感覚に陥るのは。 ■…とかいいながらわたくしこの時点で自力クリアまでしてませぇん(死)エンディング見なきゃ!頑張ろうっと。 ■でもFFXインターナショナル販売でかなりヘコんだよ…。なんだよ追加ってよー。世の中ってよー。 ■えーっと。拙い文章ですが、読んでくださってありがとうございました! 02/01/25 |
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